第二章夏休み編2 エピソード1

8月の中旬。

蒸し暑い夜となった東京、新宿。

その小さな銀行に現金輸送車が停まった。

2人の警備員が車から降りて、銀行へと入る。

それを黒いバンから遠目で見ているスカルマスクの不審者。

体は黒色の戦闘服、ボディーアーマーで覆われている。

運転手の不審者がバンを駐車場に停め、合図で同時に下車した。降りたのは運転手と助手席の不審者以外の4人。

手にしている本物の銃を構え、2列で銀行の中へ入る。

そして、不審者の1人が天井に向けてMP7を乱射する。

「全員伏せろ!」

不審者の一人が叫び、怯える客達を無理矢理伏せさせる。

もう一人も加わり、どんどん客達を制圧する。

警備員の2人は裏口から逃げようとしたが、別の不審者に取り押さえられた。

「ここで大人しくてて」

バンドで縛られ、警備員は動けなくさせた。

銀行にいた人間を制圧した不審者は腕時計を見る。

「予定通り。3分よ」

『3分』

1人の不審者の指示で他の不審者達も時間を合わせた。

すると、不審者の1人が銀行の支店長を引っ張り、リーダー格の不審者に会わせる。

「支店長、金庫の暗証番号は?」

「お前ら、こんな事をしてただで済むと思うな」

人質を見ていた不審者が女性にSCAR-Lを向ける。

銃口を突き付けられた女性が悲鳴を上げる。

「強がりはよくない。殺されても構わないの?」

「……暗証番号は……」

銀行へ押し入った強盗が本気だと理解し、金庫の暗証番号を教えた。

仲間が金庫の暗証番号を入力すると、扉のロックが解除された。

警備員のアタッシュケースを奪い、それを持って中に入った。

「どのくらいある?」

「ざっと数千万。やったね、アタッシュケースに入りきれそうだ」

仲間が金庫の金を回収していると、リーダー格の不審者がインカムに手を当てる。

そして、仲間に報告する。

「警察が動いた。プランBに移行」

報告を聞いた不審者は警備員2人にこう言った。

「制服を脱げ。こっちに寄越すんだ」

理由が分からず困惑するが、銃の恐怖に屈して制服を脱ぎ、警備員の制服を渡した。

制服を受け取った不審者が外で待機していた仲間を呼ぶ。

外から待機していた2人が入り、警備員の制服を取ってトイレに向かった。

その1分後、ケースに金を回収した不審者が金庫から出てきた。

「"献上"完了」

「よし、最終行動に移れ」

不審者達が集まり、手厚く人質を監視する。

トイレから警備員の制服を着た不審者が出てきた。

「先に準備」

『了解』

2人の不審者が現金輸送車に向かい、車をいつでも動かせるようにする。

最後に部屋を回っていた不審者が監視カメラの映像を録画する装置を破壊し、カメラの映像を処分した。

人質の携帯は回収しなかった。それで構わないからだ。

外から現金輸送車のエンジン音が鳴った。

「行くよ」

不審者達が金を持って外に出る。

不審者は銀行を出る前に催涙グレネードを投げ込み、扉を鎖で縛った。

催涙の煙が、客達を襲い、客達は逃げるのもままならなかった。

その後、不審者は現金輸送車に乗り込み、銀行から去った。

途中パトカーが通りかかるが、追いかけてくる事はなかった。

車の中でマスクを外し、銀行強盗成功を喜ぶ不審者。

「このまま倉庫に行けば終わりだな」

「今回は上手くいったが次はそうはいかない。油断するなよ」

最後までリーダー格の不審者は仲間達の気を引き締めていたのであった。


日本へ帰国してから数週間が経った。

予め宿題を終わらせた俺は家の中でゴロゴロしていた。

特別何か趣味がある訳でもなく、やる事がないのでリビングで暇を持て余す他ないのだ。

妹の美鈴は友達とショッピングらしい。作戦を行う上で重要な事だと言ってたな。

まったく、退屈だ。退屈過ぎて死にそうだ。

そんな時、スマホの着信が入った。

相手は芹香だった。

『もしもし』

「芹香か。どうした?」

『ちょっと聞きたい事があって』

芹香が聞きたかった事は課題の問題についてだった。

数学の事で分からなかった所があって、それを俺に聞きたかったそうだ。

特に難しい事ではなかったので、芹香に教えた。

『ありがとう!蓮司君ってもう宿題終わってるの?』

「まあな。あまり後に持ち越したくないし」

『そうなんだ……今度、教えてくれてほしいなぁ……なんて』

何だ。目的はそれか。

「別に構わないぞ。俺は基本いつでも空いてる」

『本当!?予定がなかったらその時はお願いね!じゃあ!』

凄い早口で電話は切れた。

俺がいつでもいいと言った途端凄い食い気味で話してきたな。

訳が分からないが、これで少しは退屈を凌げるだろう。

しかしまだ先の事なので、とりあえずテレビを観る事にした。

最初に観たニュース番組で、昨日起きた強盗事件を報じていた。

昨日の夕方4時、新宿の銀行が6人の強盗に襲われた。

目撃者によると、強盗は黒い服を着ていて、顔はマスクで隠れていたらしい。

全員武器を持っていて、1人が天井に向けて撃ったそうだ。

5分で強盗は金庫の金約三千万を奪い、警察が到着する前に逃走した。

集金に来た警備会社の警備員の装備を奪い、現金輸送車を盗んで逃走したそうだ。

現金輸送車は現場から数キロの場所で乗り捨てられ放置されていた。

痕跡は残っていなかったとの事。

強盗犯が使ったバンも指紋や毛髪等の痕跡が残っていなかった。

警察は強盗事件として捜査するそうだ。

ニュースではそこまで報じて次の内容に移っていた。

日本で銃での強盗か。珍しいな。

日本でも強盗は度々起きているが、こんな大きな強盗は久しぶりだ。

それもこの強盗はかなり計画性が高い。

現金輸送車が来るタイミング、目撃証言しかない事から監視カメラは壊されている点、そして警備員の装備を奪って現金輸送車で逃走する方法。

犯人はかなりベテランだ。前にも行った事があるかもな。

とはいえ、俺には関係ない事だ。

警察に任せればいずれ強盗事件は解決する。

俺はテレビを消して、少し遅めの昼寝を取る事にした。


数日後

都内のファーストフード店の客席に3人の女子高生がいた。

全員バラバラの制服を着ているが、仲は良さそうだ。

炭水化物の多いハンバーガーやポテトなどを食べながら楽しく会話していた。

「いやー、昨日はお疲れ。珍しく成功したじゃん」

「ま、これもリーダーの作戦がほとんど当たったおかげだね」

「私は頭よりも体を使う方が得意だけどね」

1人は水色の髪をポニーテールにまとめた小柄な少女。

基本明るい性格で、今回も2人を褒めていた。

もう1人は茶髪の女子高生。1人だけ薄手の上着を着ている。

細目でのんびりとした表情で水色の髪の女子高生に相槌を打っている。

そして、3人目は2人より年上の黒髪の女子高生。

目は鋭く、表情があまりよくないので不機嫌だと思われる。

しかし2人は彼女が顔で表現するのが下手くそなのを理解している。

そして、かなり信頼できる事も。

「"部費"はちゃんと管理してるよね?」

「勿論です!」

「"道具"は?

「決められた場所に置いたよ」

「よし、じゃあ"部活"まで自由よ。次にカラオケでも行こっか」

『やったー!』

黒髪の女子高生の提案に他の2人は喜んだ。

ファーストフードでの食事を楽しみ、今度はカラオケ店へと向かう。

その間も3人でワイワイと話していると、誰かに尾行されている事に気づいた。

「えー?不審者?」

「変質者でしょ。もし来そうならやって」

小声でボソボソと話していると、後ろから奇声のような声が聞こえた。

驚いて振り返った時には変質者がナイフを持って接近していた。

あ、ヤバ。

女子高生達がそう思った時、変質者の後ろから少年が羽交い締めした。

「はーい、そこまで。しばらく眠ってな」

変質者がしばらく暴れていたが、ナイフを叩き落とされてから数秒後に動かなくなった。

男を地面に寝かせ、周りの通行人に警察に通報するよう伝える。

そして、女子高生達に声をかける。

「大丈夫か?」

「え、はい」

「気を付けな。暗くなる前に帰るのを勧める。じゃ」

そう言ってから足早に立ち去ろうとする少年。

「待って!」

それを黒髪の女子高生が止めた。

少年が振り返って用を尋ねる。

「何だ?」

「助けてくれてありがとうございます。せめて、名前だけ教えて下さい」

「……白銀蓮司だ。忘れてもいいぞ」

少年は背を向けて立ち去った。

それから呆然としていた3人。

警察が来てからその場を去ったが、あの少年の事を忘れられなかった。

「ねぇ、今の男子チョータイプ」

「分かる。顔イケメンだし強いし」

「しかも行動もカッコイイし、名前だけでも聞けて良かったわー」

「リーダーもそう思わない?」

水色の髪の女子高生が尋ねるも、返事はない。

「あれ?おーい!」

「……え?何?」

声を大きくしてもう一度尋ねると、ようやく気づいてくれた。

「どうしたの?ボーッとしてさ」

「べ、別に。何でもないわ」

顔を赤くして返事する黒髪の女子高生に2人はニヤニヤした。

「もしかして、惚れた?」

「……かも」

「うわー!」

2人で黄色い悲鳴を上げる。

「でも分かるわー。あの人イケメンだもん。で、どうする?」

「……今日は歌う」

「いいじゃん。じゃ、カラオケでラブソング歌お」

それから2人で黒髪の女子高生をからかいながらカラオケ店へと向かった。

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