第二章夏休み編 エピソード6

重い瞼を開けると、暗い夜空が目に入った。

首を動かすとさっきまでいた建物が半壊し、そこからテロリストが出てきた。

味方は……どこに行った?

首を動かして仲間を探していると、テロリストの1人と目が合った。

テロリストが本能的にAKを俺に向ける。

頭がボーッとしている俺は銃を持てなかった。

撃たれると感じた時、テロリストの側頭部が撃ち抜かれ、崩れるように倒れた。

「ジョーカー!」

建物からラビットが現れ、俺を北側の建物まで引きずる。

それでようやく頭が冴えた俺は腰のG17を抜き、近くにいる敵を銃撃した。

ラビットも片手でP90を撃って、俺を引きずっている。

よく見ると、ラビットの左腕に銃創があった。その腕で俺を引きずっていたのだ。

「こっちだ!」

建物からガンナーが現れ、MK48を腰撃ちで連射する。

ガンナーの援護射撃もあって、何とか建物の中に入れた。

「もう大丈夫だ」

俺は立ち上がり、ラビットの左腕を後から入ってきたガンナーに見せた。

「おい、撃たれるじゃねえか。メディック!診てやれ!」

ガンナーは組織のドクターを呼び、ラビットの銃創を見せた。

「貫通していますが、出血が多いです。こちらで治療します」

「私は、大丈夫だから」

まだ戦えると言っているが、足が震えているのに気づいた。

立ってるのも精一杯なんだ。

俺がドクターにラビットを引き渡した。

「ラビット、俺を助けてくれてありがとな。お前は腕を治してもらえ。後は任せろ」

「……分かった」

俺の説得でラビットはドクターと一緒にこの場を離れた。

「それで、状況は?」

「敵の迫撃砲で東側と南側に甚大な被害が出た。敵のロケットで門も破壊され、敵が何人も侵入している。今は大尉のチームが応戦中だ」

「じゃ、助けに行かないとな」

「いや、ここを防衛する。ここにはジェーソンと負傷者が多数いる。守らないと死んでしまう」

「……航空支援はどうした?」

「まだ来ていない。来ないと考えるべきだ」

クソ。最悪な状況が続くな。

「戦うなら屋上へ行け。ここは俺のチームに任せろ」

「頼んだぞ」

その方が俺も動きやすい。

ガンナーにジェーソンと負傷者の護衛を任せて、俺は階段で建物の屋上に上がった。

屋上ではアルとハンター、数人の隊員が一生懸命攻撃していた。

俺もその中に加わる。

「ジョーカー!無事だったか!」

「まあな。テロリストは残り10人か」

見える限りでは敵の数は10人だ。かなり減らしたな。

「ええ。だけど西側にいる大尉達へ向かってる。止めないと」

西側の建物には大尉のチームが発砲していて、そこに敵達が向かってるのが見えた。

こちらを無視して進軍している。

なら、こっちはフリーだな。

「俺を援護しろ。ちょっと減らしてくる」

「お、おい!」

屋上から降りられる梯子で素早く降りて、敵達の背後に回る。

敵に背を向けるのは死に値する。

引き金を引き、まずは3人撃ち殺した。

1人が俺に気づき、AKを向けるが、俺は足を撃ち抜いて射撃を阻止する。

そして顎の下からM4A1を撃って、敵を倒す。

横から敵が現れるが、腕力でAKを掴んで狙いを外させ、AKを強奪してその敵を撃ち殺す。

敵を探しているが、敵は地面に倒れている。

全滅したか……?

「寝てろ」

死んだフリをして俺を撃とうとした敵に全弾ぶち込んだ。

AKを捨てて、全ての戦闘員を倒したのを確認する。

「終わったぞ」

『無茶しやがって』

アルが怒気と心配を含んだ声で俺に言った。

「仲間の為なら無茶する、そうだろ?」

『ジョーカー、アシスト感謝する。一旦合流する』

大尉のチームと広場で合流し、大尉は部下を建物に行かせた。

「よう、調子は?」

「絶好調さ。これからどうする?」

「ドローンは後数分で予備機で復帰する。脱出用の救助隊が10分後に到着予定だ」

「それまで耐えられないぞ」

「分かってる。航空支援を寄越した、アパッチが来てくれる」

ようやく航空支援が来るか。遅すぎだ。

「後から救助隊の進路を確保するため、東側の道を偵察する。来るか?」

「勿論」

俺は大尉とセーフハウスで弾を補給し、ハンターとアルを連れて東側の道路に出た。

道路の周辺に建物はなく、遮蔽できる物が少ない。

敵はいないが、襲われたら不利になるのは俺達だ。

できるだけ早く済ませよう。

「ブービートラップの痕跡なし」

「進路はクリアだ大尉。さあ、拠点へ戻ろう」

数分で道路の安全を確保し、大尉に拠点へ戻るよう頼む。

しかし、大尉は無視して道路の先を見ている。

「大尉?どうしたんだ」

「…………」

「おい、聞いてるのか!」

アルが我慢ならずに大尉に掴み掛かろうとした時、ハンターとアルが狙撃された。

ハンターは腹部を撃ち抜かれ、アルは肩に弾を受けた。

「クソ!」

撃たれたハンターを遮蔽物へ引きずり、彼女の容態を診る。

内臓から外れているが、出血が酷い。

俺が止血処置を施していると、大尉がアルを連れてトラックの陰に隠れていた。

「大丈夫か?」

「左肩がやられた……だがまだ戦える」

大尉がアルを立たせると、道路の奥から1人の女が現れた。

銀髪のロシア人で、目から元軍人だと分かった。

灰色の迷彩ジャージの下にタンクトップ、同じ迷彩のパンツという服装。

手には75連ドラムマガジンが装填されたAK STORMアサルトライフル。

等倍スコープ、軽量グリップが装着されている。

「やっと見つけたぞ。ブラックオプスの諸君」

女が急に俺達に向けて話しかけた。

「俺達を知ってるようだな」

「お前達を潰すよう、雇われた傭兵だからな」

傭兵か。大使館にいた男やその外で襲った奴らも仲間に違いない。

「あのテロリストを差し向けたのもお前達か?」

「最初の攻撃以外はそうだ。残りはロシアの化学ガスでゾンビみたいにさせて、駒としてぶつけた。全滅されて少し驚いた」

最初はEHの攻撃だったらしいが、その次からは傭兵がガスで戦闘員をゾンビみたいにして、あんな襲撃を仕掛けたのか。

違う動きだから疑問に思ってたんだ。謎が解けて良かったよ。

「雇い主からお前達をいたぶってから殺すよう命じられている。だからこれから実行する」

彼女の背後から野戦服を着た武装集団が現れた。

数は10人以上、武装はAKS-74UとAK-12。

「Убей их!(奴らを殺せ!)」

女が叫んだ瞬間、敵が一斉に射撃してきた。

俺と大尉は応戦し、敵の足止めをする。

女も戦闘に参加しており、こっちにかなり弾を撃ってくる。

狙いが全員正確だ。プロの傭兵達だ。

「大尉!2人を助けないと!」

ハンターとアルが狙撃で負傷している。

2人を拠点へ移さないと危険だ。

「ハンターが一番出血が酷い!先に逃げろ!」

「後から来い!」

スモークグレネードを投げて煙幕を張り、俺はハンターを背負って拠点へ後退する。

煙の中から弾が飛んでくるが、運良く当たらずにその場を離れられた。

「ジョーカーだ!100メートル東の場所で大尉達が交戦中!ハンターが負傷した!アルもだ!応援を回してくれ」

俺は無線でそう伝えて、歩くスピードを早めた。


大尉はMK18をセミオートで撃ち続け、敵の動きを抑える。

次々と撃つ相手を切り替え、敵の足を止めさせる。

しかし1人では限度があり、どんどん接近を許される。

「大尉……俺も戦う」

「負傷者は休んでろ」

戦おうとするアルを制止する大尉。

その間にも敵達は発砲しながら接近してくる。

すると、無線から通信が入る。

『バイパー1-2だ。間もなく到着する。戦闘に入ったのは聞いている。支援の為に位置を知らせてくれ』

救援隊のアパッチが近くまで来ている。証拠にヘリのローター音が聞こえてきた。

大尉は近くに赤外線マーカーを置く。

「赤外線マーカーを置いた。ここに俺達がいる」

『了解。イーグルアイからの報告で位置が分かった。これより向かう』

アルを座らせ、アサルトライフルを握らせる。

「救援が来たぞ。アパッチの攻撃に巻き込まれないよう退避するぞ」

「……ああ。1人で歩ける」

アルが右手でライフルを持ち、大尉に動けると示す。

大尉が敵に向けて射撃し、アルが後退する。

グレネードを投げ込まれ、敵はアルに攻撃できなかった。

大尉はスモークグレネードで煙幕を張り、アルの後を追う。

肩を押さえながら移動したアルだったが、一発の流れ弾がアルの首を貫いた。

「な……」

アルは首から流れる出血を押さえてから倒れ、それから動かなくなる。

後から来た大尉はアルの亡骸を見つけるが、敵の銃撃を受けて回収せずにそのまま拠点へ向かった。

傭兵達も大尉を追っていたが、前から現れたアパッチに立ち塞がれ、アパッチから機銃掃射を受けた。

「Я уйду! Не обращайте внимания на вертолет!(引き揚げるぞ!ヘリは無視しろ!)」

女の一声で傭兵達は撤退に移り、ヘリにRPGを何発も発射した。

『クソ!一時退避だ!』

ヘリの墜落を恐れ、アパッチは撤退。

その間に傭兵達も撤退した。

(今回はここまでね。次はもっと損害を与えてやる)

女は頭の中で決意し、傭兵達と一緒に戦闘地域から離れた。


俺がハンターをドクターに引き渡し、大尉達の帰りを待っているとアパッチが遠くへ離れたのを見た。

その数分後に大尉だけがここにやって来た。

「救助隊は?」

「もうすぐ来るぞ。アルはどうした?」

アルの姿が見えなかったから大尉に尋ねてみると、大尉は首を横に振った。

「ダメだった」

「……そうか。傭兵は?」

「どうやら撤退したようだ。運の良い奴らだ」

「それならここでの任務は達成した。救助隊が来たら帰ろうぜ」

「ああ」

大尉と腕を合わせた後、俺は大尉と撤退準備を進めた。


こうして任務は終わった。

アルを含め少なからず死者や負傷者を出しながらもジェーソンを守り抜いた。

ジェーソンはアメリカの手で祖国に帰国した。

俺達もそれぞれの場所に帰った。

アルの遺体は組織で回収され、生まれ故郷のアメリカで埋葬された。

家族には多額の手当が送られたが、父親を失った家族は悲しみが絶えなかった。

そして、例の傭兵の事が数日後に判明した。

彼らはロシアの民間軍事会社の社員で、ロシアから与えられる任務を行う。

その一環でイエメンでのアメリカの活動を妨害しようとテロ組織に雇われ、破壊活動を行った。

しかし、奴らは俺達を潰すよう雇われたと言った。

本来の任務と追加の任務を平行して、ジェーソンを追いながら俺達を排除しようとした。

本来の任務が優先されたか、それともアメリカの妨害工作はカモフラージュか。

この件の調査は上層部が組織の諜報部に命じた。

まだこの件の闇が残っているからだ……。

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