第二章夏休み編 エピソード5

1:17

『総員に告ぐ。東側に20人の集団を確認』

イーグルアイからの報告で俺達は銃を構えた。

畑を通ってどんどん接近しているのが見えた。

暗視装置で確認し、俺は司令部に拠点内部の照明を消すよう指示した。

照明が落とされ、明かりは拠点の外を照らしている照明だけだ。

『西側や北側でも20人の不明集団を確認』

『……確認した。遮蔽物を伝って移動している』

三方向から一斉に攻めるつもりか。

それかこの敵達は陽動で、北側に一気に攻めるか。

『北側のチームはそのまま監視しろ。他は合図があるまで撃つな』

M4A1のレーザーを起動させ、暗視装置でしか見えないレーザーを照射する。

他の味方もレーザーを点けて、不明集団に向けていた。

「合図があったら撃て。被らないようにしろ」

『了解』

仲間からの返事を貰い、目の前の敵に目を向ける。

不明集団はこちらが気づいていないと思っているのか、姿を晒して近づいていた。

私服にサスペンダーや装備ベストを着け、手には武器を所持しているのが見えた。

EHの奴らが持っていたのと同じだ。

「武器を確認した」

『敵が撃つまで撃つな。誘い込むんだ』

俺達は徐々に近づいてくる敵達を待ち構える。

すると、敵の1人が背中のランチャーを構え出した。

M72バズーカだ。使い捨てのロケットランチャーを敵が構えた。

「敵がロケットを使おうとしている。危険な為先制攻撃する」

俺は無線でそう伝えると、狙いを定めて引き金を引き、ロケットランチャーを構えた敵の頭をぶち抜いた。

撃ち抜かれた敵は空に向けてランチャーを発射し、後ろに倒れた。

それを皮切りに、EH戦闘員が銃を撃ちながら突撃してくる。

俺達は応えるように応戦する。

距離があるのでセミオートで連射し、敵の胴体に弾を撃ち込む。

ボディーアーマーを着けてない戦闘員はバタバタと倒れていく。

『こちらも戦闘に入る』

『撃ってきたぞ!撃て撃て!』

西側と南側も交戦状態に入った。

こっちも敵がまだ残っているので撃ち続ける。

奥から変な車が現れた。

軽装甲で全体をカバーした軽トラックで、銃座に前方からの攻撃をガードする防衛ルーフ付きのM2重機関銃を搭載している。

銃座にいる戦闘員がM2重機関銃を撃ちまくり、俺達がいる建物を攻撃してきた。

「伏せろ」

弾がこっちに飛んできて、俺達は一旦身を隠す。

しかし、大口径の弾が柵を貫通した。このままでは撃たれる。

その時、重機関銃の銃撃が止んだ。

『マシンガンを片付けた』

ハンターが戦闘員を狙撃して助けてくれた。

「助かるハンター」

撃つ人間を失った軽トラックだが、急に猛スピードで走り出した。

そのまま突っ込む気か?まさか自爆車両か?

そう思った俺達は軽トラックに向けて弾を浴びせるが、装甲で弾が阻まれて止まらない。

なら、これならどうだ?

下部のM203単発式グレネードランチャーを撃ち、壁にぶつかる前にグレネード弾を命中させ、爆発で180°回転させた。

即席の装甲車がやられたのを見た敵が尻尾を巻いて逃げ出す。

逃がすまいと再び撃ち続け、どんどん撤退する敵の数を減らす。

敵が俺達の射程外へ出た時には数人に減っていた。

『敵が全て撤退した。そのまま奥へと逃げている』

『やったな。敵を追っ払ったぞ!』

イーグルアイから敵が逃げた事を聞いて喜ぶ仲間がいるが、あれで諦める連中ではない。

「油断するな。また来るぞ」

『そうだな。全員、監視を続けながら弾を補給しろ』

1人の隊員を見張りに立て、残りの俺達は近くの弾薬箱から弾を補給した。

機関銃手の隊員は弾をより多く消費したから喜んでいるだろう。

弾を補給した俺達は下から椅子を調達し、座り込んで体をリラックスさせた。

「流石ジョーカーだな。ほぼ全弾命中していたぞ」

隊員が俺が撃っている所を見ていたらしい。戦闘中によそ見をするとは、感心しないな。

だがこの隊員は俺に憧れを抱いている。

少しむず痒いな。

「俺は元リーマンだから強い人に憧れるというか何というか」

「どこ出身だ?」

「香港だよ。広告代理店で企画を担当してた。まさか今は銃を握って戦ってるとは思わなかったよ」

この隊員は一般人から訓練を受けて、隊員になったのか。

「どうしてここに入ったの?」

「恥ずかしい話だけど会社をクビになってね。しかも嵌められたんだ。自棄になっていたら組織のスカウトが来てね。俺の広告が気に入ったからそうなんだ」

「組織のダミーホームページを掲載したのはお前だったのか」

一応ブラックオプスのホームページは存在しているが、特定の条件でしか開けないようにされている。

そのホームページを作ったのがこの隊員だそうだ。

どの人間にもここまで生きた過去がある。

隊員の話を聞いていると、自分の過去を思い出した。

しかしそれを言わずに、隊員の話を聞く事にした。


「そうか。失敗したか……」

EH指揮官が襲撃が失敗した事を伝えられ、大きなため息をついた。

大使館の制圧には成功したものの、当初の目的は果たせなかった。

戦闘員の半数以上を失い、戦闘継続が不可能になっている。

そこへ雇われたロシア人の女がやって来た。

「先手はそちらにやった。次は我々の番よ」

指揮官は無言のまま頷き、彼らに任せる事にした。

女はその言葉を受け取ると、報告してくれた戦闘員をPSS消音拳銃で撃ち殺した。

指揮官は驚き、拳銃を手にした女に困った顔を浮かべた。

「どういうつもりだ……?」

「まだあんた方の仕事は終わってない。最後の1人になるまで働かせる。の為に」

「……そういえば雇ってくれと頼んだのはそちらだったな」

指揮官は苦笑し、両手を挙げる。

「どんな目的かは知らないが、仲間は見逃してくれんか?彼らはまだ若い。やり直せるんだ」

「テロリストに慈悲はない。使えなくなるまで駒にする。だから、頭は退場しな」

女は引き金を引き、指揮官の脳天を撃ち抜いた。

そしてすぐに部屋から離れ、無線で指示を飛ばす。

「Одноразовые террористы как задумали и пусть атакуют. Тем временем подготовьте его.(テロリストは予定通り使い捨てにして奴らに特攻させろ。その間にアレを用意して)」

『Я понял. подготовить.(了解です。準備します)』


2:32

何度も交代しながら監視し、戦闘から一時間以上経過していた。

イーグルアイや他の仲間から「異常なし」という言葉に聞き飽き始めた時、ラビットが双眼鏡で覗きながら俺達に報告した。

「東側200メートル先に敵集団を確認!」

その報告で反射的に武器を持ち、射撃姿勢をとる。

『総員に告ぐ。250メートル東に武装集団を確認』

俺も敵の様子を確認すると、50人以上の敵集団がぞろぞろと接近していた。

「こっちに少し仲間を回してくれ。俺達だけでは足りない」

大尉とガンナーが部下をこちらに回してくれて、ハンターもこちらの支援に回る。

敵達は武器を持ったまま真っ直ぐ接近している。様子がおかしい。

さっきは隠れながら移動していたのに、今度は姿を晒している。

暗視装置の存在に気づいて、もう隠れても意味がないと思ったのか。

だとしても謎は残る。他の方向から敵が来たとの報告はない。

『……敵の顔色がおかしい。目が死んでるし、生気がない。ヤクでもやったのかな?』

「あり得るな。とにかく警戒を」

ハンターからの報告で、敵がまともな状態じゃない事が判明した。

薬を打って恐怖心を抑えた可能性がある。

前回とは違う動きを見せる戦闘員に目を向けていると、どこからかロケットの飛翔音が聞こえた。

目を向けると、ロケット4発が町の方から上空へ飛び、空高くで爆発した。

そして爆発の後に何かの破片が落ちるのが確認できた。

『ドローンの映像が切れた。何が起きたんだ?』

イーグルアイの言葉で何が起きたか分かった。

「SAMだ!北側から発射されたぞ!」

『テロリストがSAMを持ってたのか!?』

その時、今まで歩いているだけだった敵が撃ってきた。

ドローンが破壊されたのを合図に突撃してくる。

突っ込んでくる敵に向けて精密に射撃する。

しかし撃たれても怯まずに撃ち続けている。

薬物で痛覚まで麻痺していやがる。

「頭か急所を狙え!死ぬまで突撃してくるぞ」

そう皆に伝え、敵の頭をぶち抜いた。

何人か人を増やして攻撃しているが、敵の突撃が止まらない。

RPGを何発も撃ってきた。南側の建物に一発命中した。

敵を次々と倒し、何度もマガジンを交換する。

しかし奥から30人もの敵の増援を確認した。

「敵の数が減らない!何なんだ奴らは!?」

「弾が足りない!寄越してくれ!」

隊員達が敵の数と死の恐れのなさに恐怖心を植え付けられていた。

俺やラビットが鼓舞するも、少ししか和らげない。

確かにこっちの弾も少ない。このままだと弾切れになる。

グレネードランチャーの射程に入ったからグレネード弾で敵の数を減らし始める。

敵が爆発で吹っ飛ぶが、驚くべき事に上半身だけになっても這いずって攻撃してくる敵がいた。

これは薬物どころじゃないぞ。何かされたんだ。

そう確信した時、どこからか大きな音がなった。

『今のは何だ!?』

『迫撃砲だ!伏せろ!』

無線で迫撃砲の警告を聞いた瞬間、広場に榴弾が落ちた。

再び砲撃音が鳴り響く。

今度は敵達の中央に着弾した。

誤射かと思ったが、3発目が北側に落ちた事により、適当に砲撃している事に気づいた。

「このままだと巻き込まれる!下へ降りるぞ!」

警告して、味方と下へ降りようとした時、6発目がこの建物に着弾した。

隊員1人がモロに爆発を受け、他は爆風で吹き飛ばされる。

「クソ……」

「メリック!手を貸すぞ!」

俺が立ち上がると、隊員があのホームページを作った隊員の肩を貸していた。

ラビットは後から頭を抱えて立ち上がる。

そんな時、無慈悲にも7発目がもう一度ここに落ちた。

助け合っていた2人の隊員の真下に着弾し、2人が爆発に包まれるのを見た後に爆発で吹き飛ばされ、柵を越えて下に落ちた。

地面に頭を打ち、不覚にも気を失ってしまった……。


『Капитан, 80 мм закончились.(隊長、80ミリが切れました)』

『Каков ущерб?(損害は?)』

『Это было незначительно, но это поразило их. Что я должен делать?(軽微ですが、奴らに打撃を与えました。どうしますか?)』

『Остались еще кусочки. Пусть осколки вторгаются, и мы уничтожим измученных врагов.(まだ駒が残ってる。駒に侵攻を任せ、私達は疲弊した敵を殲滅するぞ)』

ロシア人達は次の行動に移る……。

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