第二章夏休み編 エピソード4

シークレットサービスのセキュリティーカードで部屋を出て地下駐車場へと走り出す。

俺と大尉が先行して偵察し、安全を確保するとジェーソンと護衛のシークレットサービス2人を呼んだ。

地下駐車場の出入り口は非常事態の為、ロックされてシャッターが閉じている。

シークレットサービスがカードでロックを解除して、シャッターを自動で開かせる。

俺と大尉はシャッターが開いて、人一人が通れるぐらいになったら外へ出る。

やはりEH戦闘員が待ち構えていた。

シャッターが開いた事に気づいて、こっちに向かってきた。

その戦闘員2人を撃ち殺し、ジェーソン達と先へ前進する。

「يا! هناك أعداء هنا!(おい!こっちに敵がいるぞ!)」

銃声を聞いた他の戦闘員がどんどん集まってくる。

駐車場から出て通りに出ると、右側から戦闘員複数が攻撃してきた。

路肩に停まっている車に隠れ、俺と大尉が交戦する。

敵はどんどん撃たれてバタバタと倒れていくが、増えていくせいで数が減らない。

マシンガンを持った戦闘員が制圧射撃をしてきた。

弾が貫通する前に俺が首を撃ち抜いて倒した。

今度はRPGを持った戦闘員が俺達にランチャーを向けてきた。

大尉が戦闘員をヘッドショットして、真上に榴弾を撃たせた。

みるみる戦闘員の数が減り、少数になった戦闘員は撤退。

弾をたくさん受けた車から離れ、別の車に隠れた。

「イーグルアイ、迎えはいつ来る?」

『ブラボー1。味方が到着するまでおよそ3分だ。それまで頑張れ』

3分か。それまで敵が待ってくれるとは思えない。

また仲間を連れて、もう一度襲撃してくる筈だ。それまでに迎えが来るといいが。

ジェーソンもシークレットサービスも、精神的に疲弊している。

早く拠点で休ませないといけない。

味方の迎えを待っていると、左側の歩道から銃撃された。

反対側のバンの裏から2人で射撃している。

俺と大尉で応戦すると、すぐに敵が隠れた。

そして手前に何か転がってきた。

「グレネードだ!」

俺は皆にそう叫び、全員で車から離れた。

もう少し遅ければグレネードの爆発と車の爆発に巻き込まれる所だった。

2人で応戦しながらジェーソン達を後ろの建物の中に避難させ、俺達も中へ入った。

「あいつら、プロだな。撃ちたいという感情を抑えられている」

「さっきの傭兵の仲間かもな。服装はテロリストとは違う。野戦服だ」

大尉と今襲ってきた敵について話していると、その敵が再び攻撃を始めた。

今度は戦闘員を加えて銃撃してくる。

俺と大尉では火力が足りないので、シークレットサービスの1人がMP5Kで援護する。

戦闘員は全身を晒しているので倒しやすいが、傭兵と思われる戦闘員2人は遮蔽物から撃ってるので倒しにくい。

しかも2人の腕前は高い。伏せるのが遅いと撃たれる程にだ。

どんどん手前の戦闘員が接近してくる。

これ以上接近されたらジェーソンを守りきれない。

そんな時、通りから曳光弾が敵達を襲った。

味方の迎えが到着したのだ。先頭のハンヴィーの銃座にあるM2重機関銃が火を噴く。

数秒の間に戦闘員は重機関銃で一掃された。

野戦服の男2人は車を攻撃せず、スモークグレネードを投げて煙を広げ、重機関銃の銃撃の最中裏路地へと姿を消した。

『こちら1号車、ターゲットを撃退した。2名は逃走した』

2台目のBMWの扉が開く。

「大尉、彼らをここへ。大尉とジョーカーはハンヴィーへ」

ジェーソンとシークレットサービスを招き、防弾仕様のBMWに乗せて俺達もハンヴィーの後部座席に乗り込んだ。

『全メンバーを収用。これよりセーフハウスへ移動します』

こうして俺達はジェーソンを守り抜いた。

だが、大使館にいたアメリカ人はEHによってほとんど殺された。

任務優先とはいえ、助けられるなら助けたかった。

しかし、悔やんでいる暇はない。

敵はまだ諦めていない。再び攻撃してくるだろう。

その中には、あのロシア人もいる筈だ。気を引き締まる必要がありそうだ。


拠点へ戻ると、仲間達が慌ただしく動いていた。

ひとまずジェーソンを安全な場所に隠し、アルに事情を聞いた。

「アル、この騒ぎは何だ?」

「EHが犯行声明を出したんだ。イエメンにいる外国人を全て狩り出すと。もう空港や検問所は奴らが押さえた。ここから出られない」

EHの行動の早さは凄まじく、もうイエメンから出られないように封じ込めたのだ。

それだけでなく、既にイエメン各地で外国人狩りが開始され、潜伏していた仲間が何人も殺されたらしい。

それで味方が動揺しているのか。

「俺や他の幹部だけでは落ち着かせられない。頼む、大尉。力を貸してくれ」

アルが大尉に向けて頭を下げた。

プライドの高いアルが頭を下げるなんて滅多にない事だ。

それだけ大尉のカリスマ性を認めているという事か。

「分かった。任せろ」

大尉は一言だけ言って、無線で全体に指示を飛ばす。

「全員聞け。これから敵の大部隊がここに来るぞ。外人狩りや封じ込めで不安になるのも分かるが、俺達は何しに来た?政治家の護衛だ。それが失敗すればアメリカは俺達を消すだろう。もう引き返せないんだ。だが、安心しろ。ここに俺や精鋭が集まってる。勝てない戦いではない」

大尉の姿を見た味方が立ち止まり、大尉の言葉を聞く。

大尉の言葉が心を鷲掴み、心を響かせる。

「全員が協力して耐えれば生き残れる。俺達は1人じゃない。さぁ、諸君!仕事の時間だ!」

『はっ!』

大尉の指示を聞いた全員が元気付けられ、拠点の防衛の準備に動いた。

アルが大尉に礼を言うと、その口を塞いだ。

「終わってから言え。これからハードになるぞ」

「……ああ。俺も協力する」

アルが大尉に向けて気合いに満ちた表情で返事する。

そして大尉は俺やアルを連れて、幹部を司令部に集合させた。

拠点の見取り図を広げ、防衛戦の作戦を計画する。

拠点は4つの建物が四方にあり、中央は道路のある広場になっている。

周りは壁に囲まれ、門は正門と裏口のみ。

建物は2階建てで、屋上に登れるようになっている。

「4つのチームに分けるぞ。四方をカバーするんだ」

大尉の配置により、4つのチームに分けられた。

正面の正門がある東側を俺、ラビット。

畑が一面に広がっている北側を大尉。

100メートル先に住居が複数ある南側をガンナーと幹部2人。

そして何もない大地が広がる西側をアルと幹部2人が防衛する。

幹部達だけでは火力不足なので、隊員達が補う。

ハンターは全体への狙撃支援を行う。

「さあ、行動開始だ!」

大尉の号令でそれぞれの防衛する地点へ向かう。

階段や梯子で上に上がり、建物の屋上から敵が来る場所を下見する。

隊員が弾を持ってきてくれたので、戦闘で弾を消費した俺は弾薬を補充する。

隊員3人が俺達と合流し、1人はM240B軽機関銃をバイポットを展開して岩の柵に置いた。

『イーグルアイ、航空支援を要請する』

『組織の上層部が航空支援を却下した』

大尉が航空支援を頼んだが、組織の上層部がそれを拒んだ。

何を考えている?俺達はこれから大人数の敵と戦うんだぞ。

『そちらの存在をこれ以上大きくしない事を望んでいる。それにアメリカとの回線が途切れた。通信が不安定だ』

『いいから寄越せ。上に"損害が出たら責任を取れ"と伝えろ、ブラボー1アウト』

これで航空支援が来てくれると助かるんだが。

「ジョーカー、生き残れるよね?」

「当たり前だ。俺達は強いからな」

銃を構え、これから来るであろうテロリストに備えた。


0:25

準備が完了してから1時間が経過したが、敵はおろか人の姿が見えない。

東側は道路を挟んだ先に広大な畑が広がっている。

至る所に目を向けているが、やはり敵は来ていない。

持久戦になりそうだ。

俺は近くのテーブルに置いてあったジュースを飲む。

『イーグルアイ、近くに敵は?』

『敵の姿は見えない』

ドローンは敵の姿を捉えていない。

隊員達も少し休みながら監視を続ける。

建物にいた組織のオペレーターが暗視装置を渡した。その後すぐに下へ降りて行った。

俺達は暗視装置を装着するが、装置を上に向けたままにする。

「こんなに静かな時間が続くなんて、不吉な感じ」

もう周りから聞こえていた銃声はなくなっていた。

生活音もなくなり、ゴーストタウンのような不気味な雰囲気が漂う。

「敵も待ってるのさ。攻撃するタイミングをな。あまり気を張るなよ」

時にはリラックスするのも必要だ。精神的に疲れるからな。

「昔から変わらないね。もそうだった」

「…………」

初めての実戦の時か。確かにあの時も俺は戦闘前なのにリラックスしていた。

他の連中は緊張や不安でそわそわしていた。

俺だけ冷静で、そして適応していたな。

「もうあの時の俺達じゃない。お前も休めよ」

この話はこれで終わりだ。今は目の前の任務に集中する。


EHの数ある拠点の1つでは。

「敵はジェーソンを拠点に移した。例の雇われだ。拠点の場所は監視員が見張っている」

「そうか。なら、そこに兵を投入しよう」

「そこまでしてまで殺す価値が?」

「あの男はアメリカ民主主義をこの国に植え付けるつもりだ。この国をアメリカの属国にさせる訳にはいかない。何としてでも阻止するんだ」

「分かった。まずはあんた方に任せる。様子見させてもらう」

「よかろう。戦闘員達よ、理想の為に使命を果たせ!」

100人以上のEHが大きな声で叫び、武器を手に取って進軍した。

その後ろ姿を指揮官が見守る。

そして手にしていた数珠を強く握った。

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