第四章冬休み編 エピソード4
『目標建物まで残り一分』
「よし。気合い入れろ、相手は待ち構えているぞ」
敵地まで一分を切り、M4A1の動作確認を行う。
他の仲間も使用する銃の確認をしている。
俺は地上部隊として、真っ直ぐ建物に突撃する。
航空支援はアパッチのみ。アパッチは数分後に到着予定だ。
『イーグルアイから全隊へ。ドローンが複数の敵兵を捉えた。重火器を用意している。少し前までオクトパスが屋上にいたが、すぐに中に消えた』
「まだ奴らは建物の守りを固めてる。人質も建物の中だ」
『隠すなら4階か5階のどこかだ。そこなら大人数を収用できる』
ブリーフィングでホテルの間取りを確認してある。
皆で話し合い、人質の位置を予想しているので、ある程度は絞り込んである。
『まずは敵の排除よ。手洗い歓迎が来るわよ』
別車両に乗っているスナイパーのハンターが忠告する。
敵は士気も高く、死を恐れていない。脅威になるのは間違いない。
森の中の山道を抜けると、真正面に目標建物が見えた。
このまま接近できるまで接近し、車を降りて応戦する。
『まずい!RPGだ!』
先頭車両が左に迂回すると、敵のロケット弾をギリギリ回避した。
『車から降りろ!奴らが狙ってる!』
『了解!散開して車から降りる』
作戦を一部変更し、噴水から数十メートル離れた位置で車から降りる。
車から建物を確認すると、敵兵が銃撃してきた。
マシンガンの攻撃で防弾仕様の車両が揺れる。
「動けない……」
「ジョーカーだ。マシンガンに足止めされてる」
『ロメオ4-2だ!こっちも動けない!』
『敵のマシンガンの数が多い!車から離れたら蜂の巣だ!』
他のチームも敵のマシンガンのせいで動けない。
防弾装甲の遮蔽物や土嚢の防御陣地から多数の機関銃で牽制していて、応戦するも敵兵が狙いづらい。
さらに、ロケットランチャーの弾が飛んできて、いよいよヤバくなってきた。
「意外にやるな。おい、航空支援はどうなってる?」
『バイパー1だ。待たせたな、これより火力支援を行う』
「建物は攻撃するな。人質がいる」
『了解だ。建物付近の敵を掃討する』
『私がRPGの敵を狙撃する』
アパッチがマシンガンを、ハンターがロケットランチャーを持った敵兵を片付ける。
先に掃射位置に入ったバイパーが機銃でマシンガンを蹴散らす。
その間にハンターがM24SWSボルトアクション式狙撃銃でロケットランチャーの敵兵を狙撃する。
マシンガンの攻撃がなくなり、地上部隊は建物へ前進する。
アパッチがほとんどの敵兵を片付けていると、突然声色を変えて建物から離れた。
『クソ!スティンガーだ!フレア!』
アパッチがフレアを撒くと、建物屋上からロケットが飛翔し、フレアに命中して爆発した。
『ミサイル回避の為、一時離脱する』
アパッチが戦域を離れ、俺達は噴水付近で足を止めた。
「スティンガーだと?どこから持ってきたんだ?」
「マシンガンだってそうだ。物持ちが良いぞ」
「今は作戦に集中しろ。後から調べればいい」
地上部隊の隊員を一喝し、前進を始める。
再び敵の銃撃が始まった。
廃車に隠れ、俺達は応戦する。
マシンガンがいなくなったとはいえ、敵歩兵はまだ残っている。
カスタムされたAK-74Mで死ぬ気で食い止めにきている。
「奴ら、テロリストのくせに防具がしっかりしてるな」
あれは旧式のヘルメットにボディーアーマー。
おかげで軍隊と戦っている気分になる。
工作員は本国で軍事訓練を受けているから射撃の腕も悪くない。
正面からやり合うのは危険だな。
「ラビット、数人連れて回り込め。スモークで視界を遮ってやる」
『了解』
俺はM203に煙幕弾を装填し、発射して煙幕を張る。
他の隊員もスモークグレネードを投げて煙幕を広げる。
ラビットと隊員がその間に左に回り込み、工作員の横を取る。
工作員は煙の中から突っ込むかと思っているのか撃つのを止めて迎撃の準備をしていた。
そこへ、ラビット達が奇襲を行い、工作員達の不意を突いた。
バタバタと倒され、反対側にいた工作員が逃走するも、姿を捉えた俺達が射撃して倒れた。
『オールクリア』
「よし。このまま突入するぞ」
煙が晴れ、俺は部隊を率いて建物入口にいるラビット達と合流する。
『こちらX-RAY-01。地上の脅威の排除を確認、部隊を降下させる』
旋回していたブラックホークが左右の建物へ向かい、着陸態勢に入る。
JD部隊のヘリがミニガンを数秒間発砲した。
『屋上の敵兵を制圧。隊員を降ろす』
これで当初の予定通り、建物に部隊が突入できるようになった。
どこに人質がいて、オクトパスがいるのか不明だが、今は建物の制圧が先だ。
「ジョーカーだ。入口から侵入する」
『サーモに切り替え、建物の監視に移る』
イーグルアイが空から監視してくれる。
サインを出して、俺とラビットが先導して室内に入る。
中はかなり瓦礫で塞がっていたり、廊下が狭くなっていた。
ラビットとハンターと半数の隊員を時計回りに制圧させ、俺は残りの隊員と反対側を回る。
瓦礫で隠れられる場所が多い。どこから奇襲されるか分からないな。
一つ一つ部屋を調べていると、瓦礫の下から一瞬光が見えた。
反射的にM4A1を撃った。
確認してみると、AKを持った敵が頭を撃ち抜かれて死んでいた。
銃口が日光で光ったのか。撃って良かった。
再び進むと、柱から工作員が銃撃してきた。
俺と後ろにいた隊員で数発で倒す。
その時、後ろの隊員が隠れていた敵に押し倒された。
すぐに気づいた俺は敵の背後から首の骨を折った。
「大丈夫か?」
「ああ……」
隊員を立たせると、倒した敵のベストに異変を感じた。
ここまで見てきた敵のベストとは明らかに軽装だからだ。
体を仰向けにして納得した。ヤツは自爆ベストを着けていた。
「自爆兵か。死を恐れないヤツは恐ろしい」
あのまま自爆させていたら無事じゃ済まなかった。
北の工作員の恐ろしさを垣間見た気がした。
半周すると、ラビット達と合流した。
「どうだ?」
「敵しかいなかった。上のにいるかも」
流石に一階にはいないか。
2階へ上がり、先程と同じように制圧する。
工作員の数は少なかったが、ほとんど特攻みたいな攻撃を仕掛けてきた。
無防備に突撃したり、手榴弾を持ったまま突っ込んできた。
その全てを排除したが、どいつも死を望んでいるようだった。
3階の制圧の時に理由が分かった。部屋の1つに壁にもたれかかった何人もの敵の死体があった。
全員頭を撃ち抜かれており、壁に血痕があった。
「何……これ?」
「粛清だ。反逆した仲間を殺して、退路を絶たせた」
これがオクトパスのやり方だ。
非道なやり方で仲間を奮い立たせ、死を覚悟で敵と立ち向かわせる。
そうして3階も1人も死なずに制圧すると、他の建物を制圧した部隊から連絡が入った。
『こちらブラボー0-1だ。建物を制圧、人質とターゲットの姿はない』
『こちらキラー1。こっちも制圧したが、人質とオクトパスはいなかった』
という事はここに人質とオクトパスがいるのか。
人質を優先して救出したいので、2つの部隊をこっちに向かわせた。
合流を待っていれないので俺達は4階に上がる。
廊下を進むと、突然煙が充満された。
「な、何だ?」
『敵の奇襲だ!備えろ!』
すぐに部屋が煙で視界が悪くなった。
俺も煙で見えなくなり、仲間を階段まで下がらせると、急に前から敵に掴まれた。
「マジ?」
そのまま投げ飛ばされ、仲間達から引き離された。
「ジョーカー!」
ラビットの声が聞こえたが、床に頭を打ったせいで小さく聞こえる。
立ち上がろうとすると、背後から敵に首を絞められる。
「ぐおっ……!」
息が苦しくなる。だがおかげで目が覚めた。
アーマーに忍ばせた小型ナイフを敵の膝を刺す。
悲鳴を上げて倒れた所へもう一撃首にナイフを刺す。
ナイフをそのまま手放し、近づいてきた敵をM870で撃ち殺す。
煙越しから銃撃され、そのまま明るい場所へと走り出す。
少しの間、走って煙から抜けると、落ちそうになって外側の窪みに足を乗せた。
後から工作員が追ってきたが、足をM870で破壊して、地上へ落とした。
「ハァ……どうしよ」
部隊から離されて孤立してしまった。
無線で連絡するも、ラビット達は交戦中だった。
考えていると、壁の穴から上の階へ移れる事に気づいた。
「行ってみるか」
壁の穴に足を通し、よじ登って最上階へと上がった。
外側から壁伝いに移動し、人質がいる場所を探す。
どこも工作員が下へと向かっていた。このままこの階が手薄になると助かる。
登った場所からちょうど反対側まで移動していると、人が多い部屋を見つけた。
穴から部屋を覗くと、中央に集められている人質を発見した。
部屋には見張りの工作員と、念願のオクトパスもいる。
「こちらジョーカー。5階南西の部屋に人質とオクトパスを確認」
『了解だ。突入できそうか?』
「難しいな大尉。現在俺は孤立してる。いつバレてもおかしくない状況だ」
部屋にいた敵はオクトパスを含めて5人。
自爆ベストを着ていて、1人でも撃ち漏らしたら自爆されて作戦失敗だ。
オクトパスはG26以外は装備していない。
1人で人質を救出し、敵を倒すのは流石に厳しい。
どうしようか悩んでいると、
『手を貸そうか?』
横から声を掛けられた。
ビビったが、こんなことができるのは1人しかいない。
「……"死神"か。どうやってここへ?」
JD部隊隊長、コードネーム死神だ。
黒色の戦闘装備にガスマスクという不気味な格好をした女だ。
マスクで声を変声されていて、男の声が聞こえる。
『合流している途中で壁にいるお前を見つけてな。よじ登ってここまで来たんだ』
ここ5階だが、どんなルートで登ってきたのかは後で聞こう。
「この壁の向こうに人質がいる。ターゲットもだ。見張りは4人だ」
『室内の銃声のおかげでこっちに気づいていないな。今なら奇襲できる』
「敵は自爆ベストを着ている。素早く倒す必要があるぞ」
俺がそう言うと、死神が耳打ちした。
死神の作戦を聞き、思わず耳を疑った。
「成功するのか?」
『信じてみろ。私は配置につく』
そう言って死神は俺から離れた。
信じろって……しょうがない。
俺は仕方なく壁を蹴って声を掛けた。
「絵空!やって来たぞ!」
『蓮司君。こんな時に再開するとは残念だ』
返事したのは絵空ことオクトパスだ。
撃ってこないのはオクトパスが指示したからか?よく見えないが、その方が都合が良い。
「お前が念願のオクトパスとはな!接触したのはわざとか?」
『その通り。君がどんな人間なのか見たかったんだ』
「そうか。観念しろ、この建物を包囲してある。北の復讐はさせない」
そう言うと絵空が急に笑い出した。
「何がおかしい?」
『いや、だがそうか。君達は私の目的をそう思っているのか』
どうやら絵空の目的は北の復讐ではないようだ。
別の目的があるのか?
『ジョーカー、配置についた。合図を』
死神の準備が整ったか。
「絵空、仕方ない。お前は俺の手で始末をつける!」
壁に拳で叩くと、部屋が騒がしくなった。
大きな音が鳴ると、室内で敵の銃声が鳴り響いた。
穴からライフルを構え、室内に侵入した死神を攻撃している敵を撃ち倒す。
2人の工作員は死神のナイフで切り裂かれた。
『クソ!ターゲットが逃げた!護衛と人質を連れてる!』
絵空が部下と人質の少女を連れて、死神を牽制しながら逃走する。
人質の姿を見て俺は息を飲んだ。連れてかれた人質は芹香だった。
「死神は人質を!俺が追う!」
人質を味方に任せ、俺は回り込んで絵空達を追う。
何で芹香がここに?運悪く居合わせたのか?
色々思う事はあるが、今は目の前の事態に集中だ。
上がる時に通ったルートで下へ降りていると、俺の1個下の階の壁が爆破された。ちょうど3階へ降りた時だ。
すぐに近くの壁が壊され、そこから絵空達がロープで降りていく。
どうやって地上部隊の目をすり抜けて降りたんだ?
包囲していたのに、無傷で2階まで降りている。
俺は護衛の工作員を先に倒し、次に絵空に銃口を向ける。
すると、絵空は芹香を盾にした。クソ、これじゃあ撃てない。
しかも下から工作員の分隊が現れ、銃撃を回避する為に距離を取るしかなかった。
絵空は芹香を連れて地上へ降りた後、敷地外へ逃走した。
一方俺は敵の銃撃を避ける事しかできなかった。
そうしていると、大尉の部隊が駆けつけ、俺を撃っていた敵分隊を全滅させた。
ようやく下へ降りると、大尉が俺の元へやって来た。
「どうしたクライマー、誰かを追ってるのか?」
「絵空が芹香を連れて逃げた!早く追わないと!」
「分かった。イーグルアイ、2人の位置は?」
『そこから北へ100メートル行った先の森。悲しい報告だけど、待機していた監視員が殺された』
「絵空は元北の工作員だ。並のエージェントじゃ歯が立たない」
「俺は人質と周辺の安全確保に行かなければならない。お前の仲間も対応に追われてる。悪いが、単独で向かえるか?」
単独?尚更都合が良い。
「超特急で行く。後で応援を寄越してくれ」
大尉と拳を合わせた後、今までで一番速く走った。
イーグルアイのナビゲートで向かっていると、イーグルアイが言っていた監視員の死体があった。
無線機を奪われてる。こっちの動きは筒抜けか。
更に先へと進み、草木を退けながら追跡する。
分厚い草木を退けると、人工的な穴があった。近づいて確認してみると、地下へと続く即席の階段が暗闇に続いていた。
俺は周波数を変え、イーグルアイに報告した。
「イーグルアイ、ヤツは地下へ逃げた。これは……」
『旧日本軍が掘った塹壕、まだ未発見のものだ。奴らはこれを避難所として改造したんだ』
「絶対手下に待ち伏せを仕掛けさせる。ヤバイな」
ゲリラ戦はいつの時代も悲惨だ。どっちが勝ってもプラスにはならない。
そこへ1人へ入るというんだ。変な緊張がするな。
しかし覚悟はとっくの昔にできている。
階段に足を踏み入れようとすると、背後から肩を掴まれた。
「……あんた、幽霊みたいって言われない?」
『幽霊なら霊感の強い奴に気づかれる。私は存在すら気づかれない』
存在しない人間だと言いたいのか、死神よ。
今度は後から合流した部下と一緒に来たようだ。
『話は聞いた。私達もお前と地下へ入る』
「それは頼もしい」
少数精鋭のJD部隊と一緒なら攻略しやすい。
俺は味方と共に敵の塹壕へと入っていくのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます