第四章冬休み編 エピソード3
組織から呼び出されたのは美鈴と調査している最中だった。
東京各地で誘拐事件が多発した。犯人は不明。
誘拐されたのは10代から20代の若い女性。正確な数は不明だが、少なくとも20人に上るそうだ。
警察が行方を追っているが、データごと監視カメラが破壊されていて、目撃者がいながらも難航している。
俺とラビットはリモートで組織のメンバーと緊急会議に参加している。
『これはオクトパスの仕業か?』
「かもな。大罪が検挙された事による報復も考えられる」
『壊される前の監視カメラに接続した結果、仮面をした男達が女性を誘拐している映像を確認。使っていた車にGPSはなく、ナンバープレートは偽装されている』
イーグルアイが監視カメラを確認し、犯人達の事がだいたい分かった。
『この事件の黒幕をオクトパスだと仮定するとして、原因は何だ?』
「心当たりがある。俺は大尉の報告を基にオクトパスと防衛省の取引現場に向かった。報告は皆聞いてると思うが、オクトパスは小柄の女だった。俺と同年代の可能性がある。現に、防衛省の高官の護衛は先輩の伝治だった。ヤツが政府側の人間だと明かしてくれた」
『我々と同じ方法を取ったとはな。で、ジョーカー。オクトパスの正体を掴んだのか?大尉やイーグルアイからそう聞いているが……』
一応2人には事情を話してある。フォローするよう頼んでおいた。
何せ、オクトパスの正体は……。
「高宮絵空。潜入している学園の生徒で、自ら情報屋だと自称している女だ」
『証拠はあるのか?』
イーグルアイに説明を任せた。
『ジョーカーに頼まれて調べてが、ビンゴ。高宮絵空という人間は元々数十年前に自殺した女子高校生のものだ。戸籍をオクトパスが回収して、成り済ましたに違いない。彼女の顔写真から韓国で行方不明になったリム・ウェンシー本人だと分かった。北朝鮮で当時計画された工作員養成計画の実験要員として無理矢理参加、工作員になってからは日本での特殊任務に従事。その後の足取りは不明だったが、オクトパスという新たな名前でフリーのスパイとなったようだ』
『彼女の住むマンションの管理人は元北朝鮮の工作員だった。尋問したらあっさり吐いた。リムが主導していると』
大尉がイーグルアイの説明を補足する。
これでオクトパスが絵空だという可能性が濃厚になってきた。
「コマンド、救出及びヤツの捕獲作戦の承認を求む。人質を救出するだけでなく、ヤツを捕らえられる」
俺は要塞のマークをした組織の司令部に要請する。
こればかりは組織の支援が必要になる。
絵空はこれから救出に俺達が来ると予想している筈だ。
最小限の戦力だと返り討ちに遭う。
だから組織の上に要請する。承認してくれると助かるが……。
『……ジョーカー。君は今まで任務を優先してきた。我々に貢献してきたことも知っている。なら、もし人質に君の近しい人間がいたらどうする?ターゲットの捕獲か人質の救出、どちらを選ぶ?』
司令部が俺を試してきた。
任務か私情、どっちを選ぶかと。
難しい問題だ。どんな人間でも迷う筈だ。
……俺の答えは……。
「人質に俺の大切な人間がいたら、モチベーションに影響が出る。しかし、味方に人質を任せ、俺は味方を信じて任務に集中する」
1人だと1つしか選べないが、味方がいるなら選択肢が広がる。
俺は仲間を信じる。積み重ねた信頼があるから。
司令部は俺の答えに対し、数秒間の沈黙の後、
『……分かった。作戦の立案を許可する。大尉、任せたぞ』
『了解だ』
俺はホッと安心し、司令部に礼を言う。
司令部は必要な支援を報告するよう伝えると、接続を切った。
次は大尉が司会を務め、作戦を立案する。
イーグルアイの調査の結果、誘拐に使った車は高速道路で都内を出て、静岡に向かった事が判明。
監視カメラとドローンの追跡により、富士の越前岳の廃ホテルに潜伏しているのを発見した。
5階建ての小規模なホテルだが、別館があり人質の隠し場所が多い。
監視した結果、武装した朝鮮人を多数確認。リムが元工作員を集めて、復讐を共に行おうとしている。
防御陣地や防弾装甲の遮蔽物を廃ホテル入口付近に配置しており、敵の準備は万全のようだ。
ホテル手前は駐車場だった跡があり、遮蔽できる物はドーナツ型の花壇しかない。
そこで地上と空から攻める事にした。
地上部隊は車両で前進し、敵と交戦している間にヘリで屋上に部隊を降ろす。
敵の武装は不明だが、ヘリも想定していると思われる。
支援として攻撃ヘリと精鋭を司令部に要請した。
結果、自衛隊に話を通し、アパッチと組織の精鋭を貸してくれた。
組織の上がお気に入りの特殊部隊、JD部隊だ。
ジョンドゥと呼び、名無しという意味の通り、全員が正体不明の部隊。
しかし全員が腕利きで、装備も最新式の物が支給される。
組織でも上位の特殊部隊を貸してくれるとは、後で対価を求められそうだがそれは後だ。
大尉の部隊とJD部隊がヘリでそれぞれ本館と別館に侵入し、人質を捜索する。
大尉から警告されたのは工作員はどいつも死を恐れていないこと。
つまり命を犠牲にした特攻を行ってくる可能性が高い。人質を殺す危険性がある。
短時間で人質を救出し、ターゲットを捕らえる必要がある。
だが、司令部から命じられたのは『生死は問わない』。
殺しても組織は問題ないと伝えたのだ。
殺すよりも殺さない方が難しいので多少はやりやすくなる。
だが、オクトパスは俺の獲物だ。必ず俺が殺してやる。
自宅で装備を整える。
いつものM4A1に破壊用のM870、そしてサイドアームのG17。
投擲武器とナイフ、携行するマガジンをアーマーに装備させる。
今回は激しい銃撃戦が予想されるため、暗視装置付きのヘルメットを装着する。
ヘルメットには識別用のシールが貼られ、生まれ故郷の日本の小さな国旗が左側に張られている。
相棒のラビットの装備はP90と中距離用のM4カービンライフル。
彼女のヘルメットにはウサギのマークが刻印されている。
「ジョーカー、もうここは破棄するから必要な物を持ってって」
「あんまり持ってく物はない」
そもそも俺が特定される物はあんまりない。
そういう物だけを回収していく。
でも、そうなると心残りがある。
「芹香……」
「今は任務に集中。終わったらまた来たらいい」
「そうだな。こちらジョーカー。ラビットと共に準備が整った」
耳のインカムから無線報告すると、大尉から返事がきた。
『家の前に迎えを寄越してある。乗って行け』
必要な荷物を持って玄関に向かい、2人で一度後ろに振り返る。
「これでこの家とはお別れだね。案外寂しいね」
「ああ……さようならだ。行くぞ」
2人で学生生活を思い出し、潜入とはいえ普通の学生らしい事ができた。
その事に感謝し、家の前で待機していた車に乗り込む。
「さあ、仕上げといこう!出せ!」
運転手に指示し、車は目的地へと走り出した。
明朝、廃墟となったホテルを占拠しているオクトパス達は見張りを続けていた。
人質と外、2つを人数を分散して見張る。
オクトパスは部下にテキパキと指示し、屋上に上がる。
手にしていた無線機で連絡を取る。
「もうすぐです。品物は配送待ちです。楽しみにして下さい」
『ーーーー』
「分かっています。あなた方、その背後にいるあの方には感謝しています。元々装備がなかった我々に充分すぎる装備を提供してくださって。お陰でこれから来る敵に渡り合えるだけの戦力を確保できました」
『ーーーー』
「ええ。ご心配なく。必ずやり遂げます。私は搦め手で補食するタコなので」
『ーーーー』
「…………どういう意味です?あの戦争屋は私達を駒以下と見ていると?」
『ーーーーーーーー。ー、ーーーー』
「失礼。成功の報告を待っていて下さい」
オクトパスは無線を切ると、怒りをぶつけるように地面を蹴った。
そこへ部下が現れる。
「지도자. 설치한 적외선 센서가 헬기와 차량을 감지했습니다. 블랙 옵스입니다.(リーダー。設置した赤外線センサーがヘリと車両を感知しました。ブラックオプスです)」
「알았다. 전원에게 전투 배치라고 전해. 반드시 그 소녀만은 적의 손에 넘기지 않도록 하고.(分かった。全員に戦闘配置と伝えて。必ずあの少女だけは敵の手に渡らないようにして)」
「예를 들어?(例の方の為ですか?)」
オクトパスは複雑な顔で頷く。
「그것이 우리와 협력하는 조건이야. 괜찮아 그렇게 무기를 준다니, 오징어 되고 있다.(それが我々に協力する条件よ。平気であんなに武器をくれるなんて、イカれてる)」
オクトパスが呟くと、奥に小さな何かが見えた。
双眼鏡で確認すると、所属不明のブラックホークヘリが2機、真っ直ぐこちらに向かってきていた。
「적이 왔어! 가족을 위해, 죽어도 임무를 완수하라!(敵が来たよ!家族の為、死んでも任務を果たせ!)」
設置していた警報装置を作動し、工作員達に敵が来たと伝えた。
それを受けて工作員達は動き回り、戦闘配置につく。
防御陣地に機関銃を置き、入口に戦意が高い工作員が銃を陣地や柱に置いて構える。
ヘリの音が大きくなり、工作員達は未知の敵に備える。
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