第三章2学期編 エピソード2

平穏に学校生活を謳歌していた頃、組織から通達が来た。

セバスチャンを発見次第即座に捕らえろ、と。

組織も無理難題を俺達に言うなぁ。あのセバスチャンだぞ。

コードネームセバスチャン。

70代の老人だが、他の組織のメンバーに引けを取らない強さを持つ。

だいたいしか素性は知らないが、セバスチャンは日系アメリカ人だ。

アメリカで育ち、二十歳で陸軍に入隊。後に第75レンジャー部隊に配属。

湾岸戦争やソマリア内戦などの戦地で経験を積み、並外れた実力を買われてデルタフォースに入った。

デルタではアフガニスタン、イラク戦争で特殊任務に従事したそうで、何人ものテロリストを葬ったと聞いた。

組織の訓練生を指導する指導官をやってた時期があり、その時に俺もセバスチャンの指導を受けた。

中々教え方が上手く、一番尊敬できる教官だったが、近接格闘はどうしても勝てなかった。

何度も地面に倒され、文字通り手も足も出なかった。

また近距離での単発銃なら相手の目線と筋肉、銃口の向きで避けられる。

評価としては、チート級のスキルを併せ持つ老兵。

そのセバスチャンを捕らえるなんか、猛獣を素手で檻に入れろって言っているようなもんだ。

それにしても、急に捕獲命令が出るとは、組織内で何か起きたのか?

ま、俺は俺なりにやらせてもらうがね。

俺は昨日会った高宮絵空について、調べを終えていた。

彼女はネット界隈で有名人の情報屋だ。

どうやってかは不明だが、確かで信頼できる情報を仕入れ、浮気調査や情報交換などを行っている。

依頼人は彼女のホームページに調べたい情報を入力し、絵空の目に入れば調べてくれて、その情報と同時に支払い額を表示し、彼女の口座にその金を入金する。

感想は大した情報屋だと思った。

1つ試しに彼女に依頼する事にした。

匿名のアドレスで学校にスパイがいると匂わせるような文を送り、彼女を試した。

情報屋としての風格はどうなのか、確かめさせてもらおう。

1分後、彼女から返信が来る。

『面白いネタだ。調べさせてもらうよ、蓮司君♡お金は出さなくていいよ、そのネタについて根掘り葉掘り聞かせてもらうから』

なるほど。腕は確かなようだ。

匿名のアドレスを使ったのに、俺をすぐに特定した。

GPSか独自の方法か、信用はともかく腕は保障できる。

今度会ったら絵空目線でスパイの候補を挙げさせてやろう。

ともかく今は、待つのみだ。


その頃、大罪の日本支部では緊急の幹部会が開かれていた。

日本支部の大罪の幹部が一同に座り、今回の議題について話し合う。

「怠惰、ヤクのアガリはどうだ?」

「ここ最近警察の取り締まりが厳しくてな。去年より落ちてる」

「警察だけでなく、ヤクザにも目付けられてるだろ?落ち目だな、怠惰」

薬物担当の怠惰の幹部は煽ってきた強欲の幹部を睨む。

「よせ、今は幹部会の最中だ。それより、色欲。お前が監視していたが逃げたって?」

「ええ。ジジイが下っ端2人を気絶させて、行方を眩ませたわ」

風俗担当の色欲幹部がやれやれという様子で答える。

「そんなに手を焼いているなら、俺達が手を貸そうか?」

詐欺・脅迫担当の傲慢幹部が色欲幹部に提案すると、色欲幹部は悩んだ。

「あんた、ウチのシノギ狙ってるでしょ。あまり頼みたくないわね」

「そのジジイにやられっぱなしでいいのか?俺達ならそのガキを取り返せるぜ」

「……一応頼むわ。だけど捕獲だけだからね」

「任せておけ。おい、お前も手を貸すよな?」

傲慢幹部が強欲幹部に声をかけると、強欲幹部は静かに頷いた。

「これで兵隊は揃った。明日から動くぜ」

「その少女は我々しか知らないがある。その老人が気づく前に彼女を捕らえよ。以上で幹部会を終える」

7人の大罪幹部は立ち上がり、部屋から去っていった。


翌日、セバスチャンは浅草での仕事を終え、家に帰っている最中だった。

途中で美代子について話す事を思い出し、寄り道せずに歩く。

そうしていると、背後から気配を感じた。

様子を見ながら気づいていないフリをしていると、殺気を感じて、不意打ちで後ろへ蹴りを出した。

「がはっ!」

男の悲鳴が聞こえ、倒れる音がする。

振り返ると大の字にガラの悪い男が倒れていた。

必死に蹴られたであろう腹を押さえている。

手にしている折り畳みナイフを奪い、懐にしまった。

「急に襲ってきましたね。何の用でしょうか?」

「……!おい!やれ!」

男が叫ぶと、覆面を被った男3人が現れた。

手には金属バットが握られている。

セバスチャンはため息をつき、ファイティングポーズをとる。

男達が一斉に叫びながら襲いかかり、セバスチャンにバットを振り落とす。

セバスチャンはバットの軌道を読み、片腕で男達の攻撃を防ぐ。

「嘘だろ!?」

片腕で防がれ、しかも痛がる様子を見せていないセバスチャンに驚く男達。

そんな無防備な男達の顔に拳を入れ、一発KOさせた。

男達を倒したセバスチャンはネクタイを締め、家にそのまま向かった。


『何だと!たった1人に何手間取ってる!もう一回やれ!』


セバスチャンが家まで後少しという距離で、また気配を感じた。

今度は前後を挟まれ、数も6人と前よりも増えた。

武器も近接武器から、拳銃へと変わっている。

「へへっ。あん時にさっさ死ねば良かったんだ。弾いてやるわ」

男達はヘラヘラしながら嘲笑い、前の男が拳銃を向けた。

セバスチャンは動じず、男をじっくり観察する。

「んじゃ、バイナラ」

男が拳銃を発砲し、弾が発射された。

すると、セバスチャンは体を反らし、弾を避けた。

弾が後ろにいた男の腹部に命中し、男は腹を押さえて倒れた。

「はっ!?」

「どうしましたか?終わりならこっちから行きますよ」

セバスチャンがそう呟き、味方を誤射した男との距離を詰めて、男を羽交い締めにする。

左右の男達が拳銃を向けるも、男を盾にされて撃てなかった。

それを見たセバスチャンは男の拳銃を奪い、2人の男を2発で撃ち殺した。

「テメェ!」

後ろにいた男達が拳銃を向けるが、セバスチャンは盾にしている男を見せつける。

「おい!殺すな!撃たないでくれ!」

「……わりぃな」

男達は一瞬躊躇ったが、拳銃を連射した。

盾にされた男は複数の弾を受けて絶命、セバスチャン

は無傷だった。

セバスチャンは冷静に男達の頭部に弾を撃ち込んで殲滅。

こうして刺客を倒したセバスチャンは拳銃を持ち主の手に握らせ、現場から立ち去った。

数分後、辺りにサイレンが響き渡る。

セバスチャンは警察に一本の電話を入れた。

「もしもし、私です。通報を受けて現場に向かっていると思いますが、暴力団の抗争によるものだと処理して下さい。ご安心を、いつものを送りますので」

ただし、電話の相手は警察の上層部の1人だ。

セバスチャンは警察上層部の1人に賄賂を渡し、セバスチャンが殺した男達の事を揉み消した。


翌日、俺は絵空と落ち合った。

学校近くの喫茶店に集合し、そのまま店へと入る。

適当に注文を頼み、少ししてから本題を切り出した。

「で、思ったより結果が出るのが早かったな。数日くれと聞いていたが」

「実は、君を調べてくれと頼んだ人間が3人しかいないからすぐにピンと来たよ。転校生は気になる存在だが、問題児じゃない限り調査依頼は来ない。でも、3人は君が転校してすぐに依頼してきた」

絵空はバックから写真を3枚机に置いた。

全員同じ学園の生徒で、2人は男、1人は女。

1人は見覚えがあった。

「伝治か」

「彼は知ってるよね?サバゲーサークルの部長の上級生剛力伝治。最初に依頼してきた人物だ。あまり調べられなかったから大した情報は渡してないけどね」

「奴は何か言ってきたか?」

「特には。ただ君を警戒するよう言われたな」

奴には自衛官の噂がある。

それを確かめる為にも絵空にその事を質問してみた。

「それは初耳だね。また調べてみるよ」

「助かる。で、残りの2人は何者だ?」

まずはこの茶髪イケメンについて話してもらおう。

「楠木斗真。1つ上の生徒で、あの楠木厚生労働大臣の息子だよ。写真の通り整った容姿でモテモテ、性格は表面上は良いね」

「裏があるのか?」

「ま、格下相手に群れでリンチにする程度だけどね」

充分腐ってるじゃないか。

「調査理由は気になったからって簡単な理由だけど、彼の家ではずいぶんと金が動いてる」

「俺の素性が分からないからか。候補として覚えとくよ。2人目は?」

「花園リヴ。派手な見た目でしょ?」

確かに、ギャルっぽいルックスだな。ピアスとは着けてるし。

でも案外清楚路線を保ってる。どういう事だ?

「モデルなんだよ。今話題のファッションモデルで、若い女性に人気。カースト上位だからちょっとプライドが高い」

「コイツの調査理由は?」

「モノにできるかハッキリしたいから」

何だそりゃ。よく分からん理由だな。

「でも、彼女もファンを利用して色々やってる。警戒した方がいいよ」

2人共グレーか。しかも性格に裏アリだから目を付けている。

この2人からスパイを特定できるかは分からないが、今まで精度の低い情報しか来なかったんだ。

今度はちゃんと追い詰めてやる。


「ただいま戻りました」

セバスチャンが家に帰ると、美代子と絵空が出迎えた。

「ちょっと、大丈夫だったの?」

「セバス様、警察の方から事情を聞きました。ご無事で何よりです」

どうやら警察から事情を聞かされ、心配して出迎えたそうだ。

「私は大丈夫ですよ。それより、私がいない間に何かありましたか?」

「特にはありませんが、警備が最近周辺をうろつく不審者を目撃したそうです」

「そうですか。一応武器庫の銃の手入れをお願いします」

メイド達は了解し、お辞儀をして去ると、美代子が驚いてセバスチャンに聞いた。

「武器庫なんかあるの!?」

「ええ。しかも警棒、盾みたいな安物ではありませんよ。私の取引先から貰った銃です」

「そういえばあなた、資産家として色々繋がりがあるって聞いたわ。もしかして、ヤバい人達とも?」

「ご想像にお任せします」

セバスチャンは軽く流して、自室に行こうとすると、美代子が呼び止めた。

「何ですか?」

「その……ありがとね。助けてくれて、今更だけど」

「……お気になさらず」

セバスチャンは美代子の感謝の言葉を受け取り、笑顔を見せて自室に向かった。

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