第四章冬休み編 エピローグ
イーグルアイの調査結果で俺は思い出せた。
母との記憶は短いが、端的にまとめるなら虐待や育児放棄が日常茶飯事な人間だ。
元々俺は父親がゴム着けていなかったせいで産まれてしまった。
父親はチンピラみたいな男で、確か半グレ組織に属してた。
母親は男癖がかなり悪い女だ。実際浮気を繰り返していたらしい。
そんな2人の間に産まれた俺は、サンドバッグのような扱いを受けた。
とりあえず児童相談所が必死になって動くような事は何度もやった。
問題にされなかったのは、父親の半グレ組織が圧力を掛けていた。
また所内の人間に賄賂を送り、口止めしていたから俺の事は一言も出なかった。
当時は恐怖で何も言えず耐えてたよ。
だが、グズ野郎には天罰が下るのがこの世だ。
ある日父親が利用していた半グレ組織がライバル組織に潰された。
それにより、父親は日頃の行いのせいで誘拐され、後から母親も誘拐された。
俺はまだ5歳だったが、すぐに売り飛ばされた。既に消えた半グレ組織に。
それからはソマリアで少年兵として戦い、今に至る。
俺と芹香はその母親がいるアパートに向かっている。
母親は誘拐された後見事に性サービス嬢になり、借金を返済しているらしい。
数年前に借金を返済し終えて、夜の店から消えた。
今は30代後半。会社の事務をやってる。だが、性欲には勝てずたまに出会い系で発散しているそうだ。
「ここら辺だよな」
イーグルアイの調べでは、アパートの2階に住んでると聞いたが。
周りは古い建物が並んでいる。治安が悪そうな場所だ。
アパートの部屋に直行しようとすると、近くの公園に1人の女性が座っていた。
昼間にスーツ姿だったので目立っていた。
俺は迷わず接近する。不思議と鼓動が高まってる。
女性の顔を見てすぐに母親だと分かった。一応顔写真は見たが。
十数年経った母親は老けていて、50代にも見えそうだった。
髪も顔もあまり整っているとは言えない。これが母親の成れの果てか。哀れな女だ。
俺と芹香が近くにいても反応しない。まるで脱け殻だ。
「蓮司君。この人、まったく反応しないけど」
「解雇されたんだ。また不倫したらしい」
男癖が悪いのは変わってないようだ。そのせいで人生どん底なのにな。
「母親には精神的な病気がかかってる。この後は精神治療コースだ」
もう社会復帰は不可能だ。いずれ通報されるだろう。
俺は思考力がない母親に話しかける。
「久しぶりだな。まさか生きてるとは思わなかった。ま、生き地獄を味わっているようで何より。この声も聞こえてないだろ」
それでも言ってやる。言いたい事をぶちまけてやる。
「今まであんたの事は憎かった。殺したい程な。だけど、あんたの姿を見てその気は失せた。あるのは哀れみだけだ。それ以外はなにもない」
俺は母親のポケットに紙を入れた。
「1つだけ感謝している。俺を産んでくれた事だ。そのおかげで手に入れたものがある。だから治療費は出す。生き続けろ、そして一生後悔しろ。じゃあな」
俺は芹香を連れて離れた。
これっきり母親に会う事はない。
芹香は何も言わなかった。
芹香を家まで送ると、芹香が質問してきた。
「ねぇ、蓮司君。これからもあんな事をするの?」
「そうだ。それしか脳がない」
これからも俺は世界の裏側で極秘の任務を行うだろう。
それで少しは平和になれているなら、やめるつもりはない。
だからこれで芹香とも別れようとした。二度と会うつもりはない。
芹香は民間人だ。これ以上は関わってはいけない。
なのに、芹香が俺を引き留めた。
「芹香?」
「……初めて会った時の事を覚えてる?いじめから救ってくれた時、私はあなたに惹かれた。あなたといる時間が何より楽しかった」
芹香が涙ながら俺に告げた。
「たとえ私とは違う人間でも、あなたは私の親友。繋がりを絶つつもりはないよ」
「……そうか」
この言葉は本気だ。目や空気で分かる。
普通なら気味悪く思うのに、芹香は俺を親友と言ってくれた。
初めて組織以外の人間から言われた。
最初から俺は芹香に惹かれていたのだ。
「……実は明日の朝の飛行機で帰るんだ。俺は本来残ってはいけないんだが、黙って残ってる」
「……それで?」
「今日だけ俺を好きにしていい。俺はお前に従う」
珍しく声が高い。任務で変わったな。
芹香は嬉しそうに俺を部屋に引っ張った。
「じゃ、私の好きなようにする!覚悟して!」
……やれやれ、やっぱり面白い女だ。
俺は芹香に振り回されるのを楽しみにした。
Black Ops @force16
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