第16話 強奪と殺戮
「ゔゔ…………」
頭に鈍痛がする。あれ? ここは…………目の前には黒仮面の男たち。真っ赤に燃えさかる家屋。ハントは広場でどうやら昏倒していたらしいと現状を把握する。
剣は…………傍らにある。それを掴んて両手に持って立ち上がる。うぇーとえづく。昏倒の影響か吐き気がして気持ちが悪い。戦況はどうなった周囲を確認してみると――
「ぎゃはははは、なかなか楽しめたな。それじゃ獲物も確保できたし、そろそろおいとまするか」
目の前のシーザーの両手にハントの目は釘付けになる。
「そんな…………嘘だろ?」
その光景が信じられず半ば放心状態となってハントは呟く。
シーザーの片手には親友であるケントの生首が髪を掴んでぶら下げられていた。生気を失ったケントと目が合う。
「ヒィッ!」
ハントの口から悲鳴がもれる。
「あん? ああ、目覚ましやがったかぁ」
返り血を浴びたシーザーは恍惚の表情をしている。彼のもう一方の片手にはサラの髪を掴んで捕らえられていた。
「
シーザーにそう頼む黒仮面の男は誰かに馬乗りになっている。その誰かは顔がボコボコで倍以上に腫れ上がり、傷だらけで一見それが誰か分からない。
「た、助けて…………すいませんでした、すいませんでした、助けてください! お願いじまずー!!」
その泣き声と服装で馬乗りにされている男が親友のライルであることが分かる。
「ああ、助けてやるぜ? 生きることの苦痛からな!!」
そういって黒仮面の男は手に持ったナイフをライルに突き刺す。
「あ……あ……ああああああ……」
声にならない悲鳴をライルは上げる。
「や……め…………」
ハントはそれを止めさせるために声を発しようとするが、あまりの恐怖に声が出ない。かわりにガタガタと歯と体中が震えている。
「ひゃははははははははははーーーーッ!!!」
黒仮面の男は叫ぶような喜悦の声を上げて、何度も何度もナイフをライルに刺しいれる。何度も何度も。何度も何度も。何度も何度も…………。
「おい」
「ひゃははは……はい?」
「もう死んでるだろ、それ」
「……そうですね。ああ、気持ちよかったー」
返り血を全身に浴びた黒仮面の男は馬乗りになっていたライルから立ち上がる。ライルはもうピクリともしない。
黒仮面の男たちの視線がハントに集まる。そしてシーザーに髪を掴まれて引きずられているサラの視線も。
「このガキどうします?」
「んー?」
シーザーが片手に掴んでいたケントの生首を放り投げる。
「お兄ちゃん、だずげでぇ!!」
サラから悲鳴のような懇願の声が上げられる。
「は……な…………」
サラを放せ。恐怖と緊張の極地にいるハントはその言葉を述べることができない。
「あーーなんてー? なんだ、このガキ、ガタガタと震えやがって」
「しょんべん漏らしてるじゃねえか! お兄ちゃん助けてだってよぉ!!」
奴らと戦わなければいけないのに、この命に変えてもサラを助けなければいけないのに。ハントはその強い意思に反して己の体は動かず、声も出ない。
「もういい、このガキは殺す価値もない。ちょっと小突いたくらいで早々に昏倒しやがって、挙句、てめぇの妹も助けられねえのかよ。クズがよぁ! おい、みんなずらかるぞ!」
シーザーはそういうと妹のサラを引きずっていく。
「おにい……ぢぁ……ん……」
サラのその泣き声と泣き顔がハントの目に焼き付く。
「ゔ……ゔ…………」
体はまるで金縛りにあったように動かない、自分の不甲斐なさに涙がとめどなく流れる。シーザーたちの姿が遠くになっていく。シーザーたちの姿がハントの視界から消えた時、
「ゔ……ゔ………ゔゔゔゔゔぁわああああああああああああああああッ!!!!!」
ハントの慟哭が村に響き渡った。
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