第14話 マンハント依頼
「
「う……ん……」
シーザーは顔の上においていた光避けの本を避ける。寝転がっていたソファーから起き、シパシパする目を開いて大きな背伸びを一つして、
「…………なんだ?」
そこはフレドリックの領内の兵士の詰め所の数ある中の小さな小屋の一つだった。
「領主が呼んでるみたいですぜ。なんでもマンハントとか」
「ほんとか!? そいつあいいな。マンハントとは久しぶりだ」
その言葉でシーザーのぼんやりした顔は一気に目が覚めたようにはっきりする。立ち上がり、近場にかけていた剣を腰にかけて小屋を出る。
「移動用の馬は?」
「あそこへ」
「ご苦労。詳細を聞いてくるから待機してろ」
「了解す」
シーザーは馬に乗り込むとすぐに駆け出させる。馬は土煙を上げながら勢いよく土道をかけていく。馬はすぐにトップスピードに乗り、辺りの景色は風のように過ぎていく。
シーザーは自身が最強の剣士の
実際今まで剣士として生きてきて一度も負けたことがない。一度もだ。数ある戦場を渡り歩き、少しでも気に入らない奴がいれば決闘をふっかけてきたが、その全ての戦いに勝利して不敗を誇っている。実をいえばダガール王国の騎士団にも所属していたことがある。シーザーはその強さから騎士団長に推薦されたこともあったが、お堅い職務が馴染めず固辞していた。
こんな田舎ではシーザーの名を知るものはいないが、ちょっと年季の入った傭兵にシーザーの名を聞けばみんなが知っているというレベルでその名が知られている。
「せいやぁ!」
馬にムチを一つ入れる。馬は更にスピードを上げる。
さて、そんな絶対強者のシーザーがなぜこんな田舎くんだりまで来て領兵の頭をしているのか。
それにはいくつか理由はあるが一番大きいのは今回のマンハント。こうした刺激的なお楽しみイベントが定期的に開催されるというのが最も大きいだろう。この領地近隣に黒いマスクをつけた盗賊団が出没して領民たちをさらうという通報がシーザーたち領兵のもとにも届いている。だが、それを行っているのは実は自分たちであった。
「わあぁ」
猛スピードで走り抜けているシーザーは農夫とすれ違う。農夫は驚きの声を上げてシーザーに怯えた視線を向けていた。
マンハントの指示は領主フレドリックから出ている。いくらなんでも領兵を独断で動かして領民狩りはまずい。なんでも攫ってきた奴らは奴隷として売り飛ばすらしい。今まで何度かマンハントを実行しており、今では領民たちは俺たちがマンハントを行う時にする黒い仮面を目にするだけで震え上がるようになっている。
領民たちは震え上がるといっても当然抵抗はする。領兵が当てにならないということで最近では自衛をしている村も多くなってきた。抵抗すれば当然殺す。泣きながら命乞いをするもの。呪いと憎しみの言葉を述べながら逝くもの。しょうべんを漏らしながら逃げ惑うもの。その様は三者三様だ。
シーザーはペロリと舌なめずりをする。
今から楽しみだ。今回はどんな悲鳴が聞けるのか? 剣が肉を突き刺す感触。湯気を出しながら顕になる内臓。人々の悲鳴という素晴らしいハーモニーの元で行われる殺戮ショー。他人の生殺与奪を握るという絶対者の優越。どれもが身震いするような快感をシーザーにもたらす。
馬が疾風の如く田舎道を駆け抜けた結果、あっという間に領主の邸宅に到着した。
「シーザー馳せ参じました」
「ご苦労。早速だが、成人してない若い女のマンハントを頼む。あまり幼すぎずに最低限に意思疎通ができる年齢の娘をマンハントしてこい」
「数は?」
「5人以上だ」
奴隷一人当たりで金貨20枚以上という話だった。
「傷物になっても?」
「生きていればいい。好きにしろ」
シーザーはまたペロリと舌なめずりをする。狩りが終わった後もお楽しみができるということ。久しぶりに初物が頂ける。少女が泣き叫ぶ声が夢想される。ああ、駄目だ、まだ我慢しなくては。シーザーは自身の内なる
「それでは今晩、早速いってきます。通報が入ると思いますが……」
「ああ、わかっとる。適当にあしらっておくわ」
「それでは」
「頼んだぞ」
用件は確認したので挨拶もそこそこにシーザーは部屋を退出する。
シーザーは口元に自然と浮かぶ笑みを抑えることができない。偽りの仮面を脱ぎ捨てて自らの獣性を解放するときが来た。鼻息が自然と荒くなり、はやる気持ちに駆り立てられるかのように歩みを早めていく。
どこに狩りにいこうか? 少年少女が多くいる村……。
「そういえば最近冒険者を始めたという、少年少女がいるといっていた村があったな……」
シーザーはボソリと呟く。そしてその事実に思い至ったシーザーの笑みは更に凶悪なものへと変わっていく。獲物は活きがいいほうがいい。抵抗をされればされるだけこちらの喜悦は高まる。
屋敷を出て、すぐに馬に乗り込む。また来た方向、兵士たちの詰め所がある方向へと馬を走らす。
「さあ、最高のショーの始まりだ」
シーザーは馬に乗って風を切りながら、誰に聞かれることもなくそう呟いた。
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