第30話 集会と飲み会

「それでは最後にレオン商会の主のレオン伯爵よりありがたいお言葉をもらうっす。みな心して聞くように!」


 そう話して壇上から降りたライラの後に続いて、俺が壇上に上がる。全くありがたいお言葉だなんて余計なこと。こういう挨拶なんかできれば御免こうむりたいが、立場上そういうわけにもいかない。レオン商会の商会員たち数十名の視線が俺に集中する。


 王都に来てから1年ほどが経過しただろうか。王族の後援を得た俺たち、というかライラはそれまでの制限をなくして一気に勝負に出た。


 まずは人の採用。最初に5名ほどを採用し、営業や事務、管理業務などを仕込む。そうしてある程度仕込まれた段階で実践に投入していき、更に新人を採用。先に採用したものにも新人の人材育成を一部担わせながら、ある程度仕込まれたら実践に投入して再度新人を採用。というプロセスを繰り返してレオン商会は僅か1年で20名を超える商会員を獲得した。今ではここ本部で経験を積んだ商会員たちが地方に飛んで支店をつくるフェーズにまで至っている。


 

 俺の壇上での挨拶が終わると拍手とともに歓声が沸き起こる。俺は最後に一礼をして壇上を降りた。



 

「ど、どうも今日のご挨拶感動しました! レオンさんのこと尊敬しています! 経験値貸与と強制執行は世界一のスキルだと思ってます! これからもよろしくお願いします!」


「こ、こちらこそお願いします」


 商会員の人と握手をかわすと自席に戻っていった。行列になっていた俺への挨拶も彼が最後だったようだ。


「いやー、レオンの演説よかったすねー。レオン商会を世界一の商会にする! いやー、しびれたっす!」


 すでに出来上がっているライラが赤ら顔で上機嫌にビールジョッキを片手に俺に賛辞を送る。集会が終わり今は懇親会が居酒屋で開催されている。


「これもあれもそれもどれもおいしいのです。おいしい料理がテーブル一杯に所狭しと並べられて食べきれなくて困るのです!」


「きゅきゅきゅぃーーっ!」


 お酒が苦手だというソフィは並べられたご馳走にうれしい悲鳴を上げていた。


 そんな中、ニーナは一人お猪口でちびちびとお酒をなめるように飲んでいた。テンションが上がって騒ぐこともなく、静かにお酒を楽しむタイプなのかなと思っていると、


「おい、レオン、おまぇ最近あたしのこと全然構ってくれてにゃいよな」


 座った目をしたニーナはいきなり俺に絡んできた。あれ、ニーナって酒癖悪かったっけ? 今までの飲み会ではそんなでもなかったけど…………。今日は許容量を超えたとか?


「構ってないっていうか、最近ちょっと商会が忙しくなってきたから……」


「にゃあにがぁ忙しいんだよ。おみゃえなんか、何かあった時に強制執行するか、経験値貸与の魔術契約書に拇印押すだけじゃねぇかよ!」


 まあ確かにニーナの仰るとおりなので俺は反論できない。


「もう一緒のメンバーになって2年近くになるってのに、いつになったらあたしに手ぇだすんだこのにゃろぅ!」


 ニーナのその言葉を聞いてライラとソフィ二人の手が止まる。


「てことはニーナはレオンに手を出されたいんすね。レオンの旦那、ニーナはこういってますけどどうっすか? ピチピチのエルフ少女っすよ!」


 いい酒のさかなを見つけたとばかりにライラは食いついてくる。


「さあ、レオンはニーナに手を出すのです!」


 意味が分かっていってるか? ちなみにまだソフィの記憶は戻っていない。

 

「きゅぃきゅぅぅぅぃーーー?」


 ほんとに分かっているのか分からないがキュイまで俺を煽っているように聞こえる。


 すると突然、ニーナは電池が切れたかのようにバタンという音をたててテーブルに突っ付した。大丈夫か? と一瞬心配したが彼女の寝息が聞こえてきて寝たことが知れる。全く人騒がせな。


「ニーナ、寝ちゃダメっすよ。これからが面白いところなのに!」


 いいよ起こさなくってもう。ニーナは幸せそうな顔をして寝息を立てていた。


 


 次の日。


「あ、あ、あの、レオン?」


 真っ赤な顔したニーナが事務所の俺の執務室へと入ってきた。


「き、昨日のことだけどあれは事故っていうか、ほ、本心じゃないから! お酒の勢いでいってしまったことで!」


 たぶんライラ辺りに昨日の醜態を教えられたのだろう。


「お酒の勢いだったら本心なんじゃないの?」


「ち、ちが、もうレオンのバカっ!!」


 ニーナはそういって赤い顔のままで部屋を飛び出していった。ちょっとからかい過ぎたかな……。でもまあ俺は自分の顔がニヤニヤするのを止めることはできなかった。

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