第11話 債権の買い取り

「取り込み中、すいません」


 是非ともライラを仲間にしたい。俺はあえて火中に栗を拾いにいく。


「ゔ、ゔゔっ……」


 首筋を押さえながらライラが立ち上がる。


「なんだ? 痛い目に会いたくなけりゃ下手に首つっこまないほうがいいぞ?」


「いや、別に文句があるっていう訳ではないんだけど。ライラといったよね。借金の額はいくら?」


「え? き、金貨50枚っすけど……」


 50枚だったら溜め込んでいる冒険者報酬でなんとか肩代わりできる。


「提案だけどその金貨50枚の債権、俺に買い取らせてほしい。その代わり、ライラ、君は俺の仲間になって欲しい。商人の仲間、ノウハウが欲しいんだ」


「え? なんでそんな大金を突然…………? も、もしかして目的は…………せ、性奴隷っすか!?」


「え、身体目的!? 私もそうなの? レオン、不潔!!」


 ニーナも便乗する。二人とも俺の話ちゃんと聞いてるか?


「いやいや違うから。商人の仲間が欲しいって言ってるでしょ。それで俺が買い取ったフレドリック様の債権は……トイチの金利で如何でしょう?」


 俺はフレドリックと向き合い慇懃に膝をついて頭を垂れる。その様子を見たニーナも慌てて俺に追随する。


「ははは、わしからトイチの金利を取れると? それにお前がニーナから債権を買い取った所でわしに何のメリットがある?」


「ライラ、君は商人ギルドには所属してるんだよね」


「所属してるっす」


「ゔっ」


 誘導することでフレドリックもその事実を思い当たる。


「あの貴族は商人ギルドに所属する商人から借りた借金を踏み倒した。そういう事実が広まれば今後、フレドリック様が商人たちから金銭的な援助、貸与を受けることはかなり難しくなるでしょう。もちろん、そんな援助を受ける必要はないかもしれませんが。私が債権を買い取ることによってそういった風評が広まることをおさえられます。私は商人の仲間を得ることができ、フレドリック様は風評被害を抑えることができる。WinWinの提案かと思いますが」


 しばらく考えていた様子だったフレドリックが頷き、


「ふむ、いいだろう。にしてもたった一人の商人のために随分と気前がいいのう。よっぽどその女を気に入ったか。でお前、名はなんという?」


「レオンと申します」


 落とし所がわかったのだろう。シーザーたち兵士は警戒を解き、続けて移動するために馬への騎乗をはじめた。

 

「レオンがライラからわしへの借金の債権を買い取り、その債権の利息は……まあ、どうでもいいことだがトイチだったな。了承した」


 どうでもよくはないが。だが俺はもちろん本心は隠して、


「寛大な処置、誠にありがとうございます」


「よし、馬車を出せ。まあ……ライラについては少々惜しいことをしたがな……」


 舐めまわすような視線をライラに向けた領主を載せたその馬車は、騎乗した兵士たちとともにその場を走り去っていく。


 やれやれ。


 俺は大きく息を一つ吐く。


「あ、ありがとうっす。罪人の奴隷にならずにすんだっす。…………で、さっきのあれ本気っすか?」


「ああ、もちろん」


 俺はマジックバックから溜め込んでいる金貨を取り出す。1、2、3……。1枚ずつ金貨を数えていく。


「……47、48、49、50。はい!」


「……え!?」


「えって金貨だよ。困ってるんでしょ」


「さっきのは私を助ける為の方便じゃ…………ってことは、やっぱり私を性奴隷に!」


「ッ!!」


 ニーナもその目を見開く。


 いや、それもう分かってやってて俺が慌てて否定する反応を楽しむみたいになってない?


「性奴隷だなんてことは一言も俺は言ってないでしょ。それに口頭、口約束でも契約は成立する。……そもそも方便だと思ってたんなら俺の仲間にはなるっていう話はどうなの?」


「そもそもなんで私を仲間にしたいんっすか?」


 俺は自身の経験値貸与の能力をライラに教える。俺の説明を聞ききったライラはその目を丸して、少しの間固まる。そして――

 

「にゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃ――――にゃんですってーーーーーーーーッ!!!」


 ライラは驚愕の叫びを上げる。

 

「そんな能力は聞いたことがないっす。競合なしの独占事業! ニーズも確実にあるから超儲かることが確定じゃないっすかあ!!」


 その瞳を¥マークへと変えたライラの驚愕の叫びは続く。


「いたっす! いたっす! どこかにいないかとずっと探してた金の卵はここにいたっす!! レオンは超弩級の金の卵、金のなる木っすよぉお!!! 仲間? なるなるなるなるなるなるっすよーーーッ!!!」


 はあはあと息切れを起こすほど興奮した様子でライラは一気にまくしたてる。そこに商人の情熱と執念とを垣間見た気がする。

 

「じゃ、じゃあ、仲間になってくれるってことでいいかな?」


「はい! よろしくお願いするっす! あっ、でも性奴隷の方は心の準備ができてからで……」


「レオン、不潔!!」


 もう否定するのもめんどくさくなってきたので俺はそれをスルーする。こうして俺たちは新たな仲間を得ることになったのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る