第12話 レオン商会設立

「やっぱレオンの商会を設立した方がいいっすね」


 冒険者ギルド近くの喫茶店にてニーナも同席して経験値貸与の事業化について相談している。


「ライラも商会は設立してるんだよね」


「してるっすけど、個人でやってる駆け出しの小さい商会だし、経験値貸与の契約の主たる契約者はレオンになるっすから」


 頼んでいた飲み物が給される。俺はコーヒー。ライラとニーナは紅茶を頼んでいた。


「ふーん、じゃあ、その商会設立の手続きとかお願いしていい?」


「もちろんっす! っで聞きたいんっすけどレオンはまずは経験値を稼ぎたいんすか? それともお金を稼ぎたいんすか?」


 俺はコーヒーを口に運んで、少しだけ考え、


「当面は経験値を稼ぐことを重視したいかな……」


「了解っす。ただ利息の経験値の金銭での支払をどのくらいの金額に設定したら許容範囲か? とか把握したいっすからモニター的に金銭返却でも何人か試したいっす」


「ああ、それは全然任せるよ」


 ニーナは俺たちの話をニコニコとしながら、時折頭の上にはてなマークを浮かべて聞いている。


「今までって全部口コミっすよね」


「ああ、最初、エルドモントで始めた時もそうだった」


「それで何人ぐらいのお客さんがついたっすか?」


「エルドモントでは百人ぐらいじゃないかな。ほとんどがエルドモンドで一部別の町の冒険者が来てたかな……」


「口コミだけでそれはかなり優秀っすね…………やはりニーズはめちゃくちゃ高いと考えられるし…………」


 ライラは一人でブツブツと喋りながら考えを整理した後に、


「ちょっと試したいことがあるんすけど……」


 そういってライラはカバンから一枚の用紙を取り出す。なんだろう? そこに何かを書き込んでいる。


「…………よし! これ経験値貸与の契約魔術書っす。試しに1経験値の貸与をトイチで、支払期限を3ヶ月に設定してみたっす。ここにレオンの血印を押してもらっていいっすか」


 俺はライラから渡されたナイフで指をちょっと切って、血印をおしてみる。その傷はニーナが発動した治癒魔法ですぐに癒やされた。


「じゃあ、これを借り入れ者としてニーナが借り入れてもらっていいっすか? ニーナもここに血印を押してほしいっす」


 ニーナも同じように血印を押すと――


 契約魔術書に書かれている文字の一つ一つがまるで意思を持っているかのように輝きを放ち始めた。そして用紙自体が輝くようになった所で契約魔術書の用紙がパラパラと端から消え去っていく。


「どうっすか? ニーナに経験値貸与されてるっすか?」


 俺は自身のステータスを確認する。すると経験値の貸与対象に確かにニーナが追加されていた。


「貸与されてる。へえー、こんなこともできるんだ」


「仮説だったんですけどうまくいったすね。これでレオンがわざわざ出向かなくても経験値貸与できるようになったっす。それじゃニーナはすぐに経験値返してもらって……」


 ニーナから僅かな経験値の光のひと粒が俺にもたらされた。


「これで今すぐじゃないっすけど、世界中でレオン商会の支部を作って、契約魔術書によって経験値貸与を広めていくことも可能っすね。当面はモニター的に私が契約率、返済率などを割り出していくつもりっす。それでどれくらいの規模の町であれば、貸与としてどれくらい貸せそうか、得られる利益と、貸与管理のランニングコストなどを算出してどう展開していくのが最適かをまずは模索していくっす」


「う、うん、了解」


「潜在ニーズが相当高そうだがら宣伝広告は打たなくても恐らく大丈夫っす。ってことはランニングコストはほぼ人件費。営業員と事務員、管理者が必要になるっす。ただここみたいな小さな町だと一人で全部兼任できそうっすね。後は事務所の賃貸関連に、消耗品などの雑費と移動の為の交通費。後はもしもの時の訴訟とかの費用を算出できてれば十分っすかね」

 

 正直そろそろ一部ついていけてない。ニーナの頭上にはずっとはてなマークがうかんでいるようであった。想像以上にライラはやり手で優秀みたいだ。


「その辺りは全部任せるよ、ライラに」


「了解っす。ただ懸念がないわけじゃないっす……」


 そういうとライラは紅茶を一口、口にする。


「経験値貸与はあまりに優秀すぎるんっす。事業としてめちゃくちゃ儲かることが貴族とかに知れると面倒なことになる可能性があるっすね」


 それは俺も懸念していたことだった。そしてそれに対処する方法は限られる。


「その懸念をクリアにするには貴族や有力者に金を掴ませるか、或いは…………」


「そう、或いはレオン自体が貴族になるしかないっす」


 傍らではニーナがえーーっという顔をしている。


「当面は制限つきのコントロールされた事業化をすることによっておそらくは大丈夫っすけど、上を目指していくには避けては通れない問題っすね。この辺りはゆくゆくは王都にいる私の師匠にも相談したいっす」


「師匠?」


「私が商人で独り立ちするまでお世話になった商会の主の師匠っす。そこは大きい商会じゃないっすけど、師匠の人脈は超一流っすから」


 それは心強い。味方になってくれればの話だが。

 

「へぇーー、それにそうか。ゆくゆくは王都への進出も考えなきゃなんだよなあ」


「まあそれはちょっと先になると思うっすけど」


 そろそろそれぞれが頼んだ飲み物も空に近くなっていた。


「じゃあ、そういう方針で一旦、動こうか。俺に手伝えることがあったらなんでも言って」


「了解っす! それじゃまずはレオン商会の設立と商会の事務所の確保に動くっすね!」


 こうしてレオン商会が設立されることになった。これはゆくゆくは世界中にその名を轟かせ旋風を巻き起こすこととなる、レオン商会の第一歩となる話し合いであった。

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