第3話 不遇ジョブ

 彼女の姿が弓師という不遇ジョブの自分とも重なる。


「止めといた方がいいよ」


 俺の隣にはいつの間にか青髪で碧眼をした若い男が立っていた。


「ああ、俺はミハエルという」


「忠告はありがたいけど……」


 俺はミハエルにそう断りながらも、


「ちょっと、あんたらやりすぎじゃないか?」


「ああん!?」


 男たちの視線が一斉に俺に集まる。


「あっ、お前は…………確かレオンだったか。なんでここに?」


 驚きの表情。俺のことはすぐに思い出したようだ。


「ちょっと拠点変えしようと思ってね。それであんたはヒョードルでよかったよな。あんたらに俺は経験値貸与してるはずだけど、それはいつになったら返してくれるんだ?」


「あ、ああ。それは……早々に返すよ! 今、経験値溜めてる所なんだ。なあ、みんな!」


「ああ、そ、そうだな!」


 男たちは慌てた様子でとってつけたような返答をする。彼らには一人当たり50万ずつの経験値を貸与していた。貸したのは3ヶ月以上前だからもう利息は50万を越えている。


「それにその娘、仲間なんだろ? ちょっと言い過ぎじゃないか?」


「言い過ぎなんかじゃねえ! 教育してやってんだよ! いつまで経っても成長しねえからな」


「そんなこと言って、全然、経験値を得るために討伐にいかないじゃないですか! 昼間からお酒ばかり飲んで!」


「うるせえ!」


 バシッ!!


 ヒョードルはニーナに強烈な平手打ちを食らわせる。


「おい! やりすぎだぞ!」


 俺がヒョードルを咎めるとそれに便乗した少年が、


「そうだ、そうだ! いっつもニーナさんのこといじめやがって! 見てて気分が悪いんだよ! ニーナさんは一生懸命に頑張ってるじゃないか!」


「そうよ! いつも弱いものいじめばかりしてんじゃないわよ!」


「ああっ! なんだあクソガキどもがぁ!!」


 俺に乗じてヒョードルたちに文句を言った少年たちはすっと俺の後ろに隠れる。


「てめえ、ちょっと俺らに経験値貸してるからって調子に乗るなよ? 偉そうにそういうレオン、てめえのジョブはなんだ?」


「俺のジョブ? 弓師だけど」


 するとギルド内から一斉に弾けるような嘲笑が起こる。ヒョードルたちのパーティだけじゃなく俺たちの争いを見ていた他の冒険者たちからも嘲笑が上がっていた。


「クズジョブの弓師が偉そうにしてんじゃねえぞ? 前のギルドじゃその態度で許されたかもしれねえがここはそんなに甘くねえぞ!」


「偉そうにするから一体なんだと思ったら弓師って。レオン、お前ギャグセンはあるな!」


 そんなことの一体なにがそんなにおかしいんだ? 全く嫌な奴らだ。

 

「っていっても俺の冒険者ランクは金級だぞ?」


 シン……


 一気にギルド内にこだましていた嘲笑は収まる。


「き、金級っつっても所詮は弓師だろうが、クズジョブの。俺らは剣士に拳闘士、それに魔術師だぞ! 偉そうにするんじゃねえよ!」


 俺は経験値貸与のサブスキルとして習得された鑑定スキルで彼らのレベルを確かめる。全員レベル55だ。たったのレベル55で最低でもレベル70以上の俺を弓師だからといってそれだけで馬鹿にできるとはな。


 低・中レベル帯ならばレベル差による強さの差はそこまで生じない。少々のレベル差は生まれつきの素質であったりセンスであったりで十分覆せる。しかし、高レベル帯のレベル差はそれがわずかなものであっても、低・中レベル帯とは比べ物にならないほどの差が生じる。こいつらは高レベル帯を知らないから、弓師だというだけでこんなにも俺を馬鹿にできるんだろう。


 はあーっと一つため息を俺は吐いた後に、


「そんなにその娘を役たたずとして罵倒するなら、俺の仲間にもらっていいか?」


「えっ!?」


 ニーナは驚いた顔で俺を見つめる。


「なんだ? お前、こんなのがタイプなのか? 止めとけ、弓師にエルフのガキなんて最恐パーティーじゃねえか! いつ全滅するか分からねえな!!」


 ヒョードルのその言葉でまたもギルド内に大きな嘲笑が巻き起こる。


 一方、ニーナは誘われたことに関しては嬉しそうな表情を浮かべているが、

 

「ありがとうございます。ですが、私、もう少しここで頑張ってみたいので……」


「おう、しっかり教育してやるよ。そんなことよりてめえ早く酒買ってこいよ!」


「は、はい!」


 少女は素直に返事をして床に落ちた小銭を拾い、外にかけていく。なんでこんなクズどものいうことを素直に聞くんだ? 何か弱み握られていたり、或いは、俺には推し量れない思い入れでもあるのだろうか? 


 やれやれ、気を取り直して依頼受領するか。


 俺は依頼ボードに貼ってあるうち、もっとも高ランクの銀級のワイルドウルフの討伐依頼用紙をとって受付に向かう。


「あっ、それ俺たちが狙ってたのに!」


 不満そうに俺を睨む少年。なんだ、銀級で適正レベル50〜60台なんだけど案外レベル高かったりするのかな? 彼らのレベルを鑑定で確認してみると……。いや、全員まだ30台じゃないか。普通に死ぬぞ? 


「何いってんだよ、ハント! 俺らにはまだ無理だよ」


 どうやらまともな少年もいるようだ。


「だってこの兄ちゃん、所詮弓師だろ。だったら俺たちだって……」


 いやいや、この子には基本的な数字の計算から教えないといけないレベルでダメだな。そこで俺はピンとくる。


「この依頼受けたいんだったら共同討伐するか?」


「え!? いいの?」


「えーー大丈夫かよぉ? 弓師だろう?」


 銀級の依頼などなんの問題もなく俺にはこなせる。だが、ワイルドウルフが現れるのは町の近くの平原だ。町の外に出たが最後、俺はこの町に二度と戻ってこれないおそれがある。少年たちは言ってみれば道案内役だった。


「大丈夫だよ、戦闘は俺に任せろ。じゃあ、このラカン平原ってところまで案内してくれ。俺、最近ティラナに来て、地理に疎くてさ」


 嘘である。地図でラカン平原の位置、方角まですべて分かっている。


「しょうがねえなあ。じゃあ、レオン兄ちゃん、案内してやるよ。そのかわり俺たちの足手まといにはなるなよ?」


 ハントはまた憎まれ口をたたく。


「えっ!? ほんとに銀級の討伐に行く気?」


「レオン兄ちゃんは金級なんだろ? いくら弓師でも大丈夫だろ。それに俺だって強い!」


「ハントお兄ちゃんは強い! サラは知ってるもん!」

 

 少年たちのパーティーに一人だけいる紅一点の少女のサラ。この娘は少年ハントの妹のようだった。そんな俺たちの様子を伺っていたヒョードルたちが、


「ガキに弓師が銀級の討伐か? ワイルドウルフって言ったらなかなかのもんだぞ。ガキの前でカッコつけたくなったのか?」


「おい、行かせてやれよ。どうせ逃げ帰ってくるんだからな。やっぱ弓師であっても銀級ぐらいはイキリたいんだろうからな」


 またも嘲笑が起こる。


「くっ、帰ってきたら吠え面かかせてやるからな!」


「おもしろいぜこのガキ。ビビって震えながらいうことじゃねえだろ!」


「ぐっ……」


「もう、いいから行くぞ」


 俺は少年の首根っこ掴んで冒険者ギルドを出た。



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 設定などの記載が甘かったので本話、後から追記、修正しています。(2022/6/7)


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