第2話 エルフ少女
「さてと、それでここはどこだ?」
辺りには見覚えのない町の景色が広がっている。ダンジョンを出てから一旦エルドモントまで戻って俺が向かった町はヤスミンであったが、ここはどうみてもヤスミンではない。
「あ、すいません」
俺は通行人を捕まえてここがどこか聞く。
「どうもありがとうございました」
町の通行人は親切に教えてくれた。ここはティラナという町だった。
出発したエルドモントからティラナはヤスミンから真逆の方向。我ながら一体どう迷ったらヤスミンに向かったのにティラナにたどり着けるのか不思議である。まあでもティラナもヤスミンと同程度の町だ。結果オーライで、ここをこれからしばらくの拠点にしてしまおう。
「仲間を早いところ確保しないとだな」
方向音痴ではない仲間を。そうしなければいつまで経っても目的地にたどり着けず、町の宿まですら戻ってくれないという状況になりかねない。ということで俺は早速この町の冒険者ギルドへと向かった。
(ふーむ、最大討伐難易度が銀級かぁ)
俺は冒険者ギルドの依頼ボードの前で一人佇む。討伐難易度は銅級から始まり、鉄級、銀級、金級、プラチナ級、ダイアモンド級、神級とある。これは冒険者のランクと同様となっている。
銀級だとランクとしては中の下ぐらいだろうか。ここティラナの町には現状そんなに討伐難易度が高い依頼はなさそうだった。まずは試しに一つ依頼を受けてみるか。よそ者の冒険者というのはなかなか信用してもらえないもの。経験値貸与をしたいがそれにはまず信用してもらうことが必要だ。俺はそんなに口はうまくないしな。
「だからなんで子どものお使い程度のこともおめえはできねえんだよ!」
「ご、ごめんなさい……」
突然冒険者ギルドの建物内に罵声が響き渡る。なんだ? 俺は罵声の方向を確認してみると、そこには冒険者パーティーの一団と思われるものたちがいた。男3人に女1人。罵倒されているのは見た感じでは少女のようにも見える。ただその少女の耳が長いため種族はエルフだと思われた。エルフは数百歳も歳がいっていても年齢不詳だ。彼女も見た目通りの少女ではない可能性がある。
少女は薄緑のショートカットの髪をしており、身体は華奢で手も足も細い。胸は年齢相応なのかわからないがほとんどないように見える。真っ白な透き通るような肌をしており、はっとするような美形だがどこか幼さもまだ十分感じさせられた。なんとなく保護欲や庇護欲を駆り立てられるような少女だ。
それに対して少女を罵倒した冒険者たちは少なくとも20代後半はいっているだろう。下手したら30代に入ってるかもしれない。みなそれぞれ一癖も二癖もあるような顔をしており、ベテランの空気をまとっている。明らかに少女とは不釣り合いな組み合わせだった。
それにこいつら…………よく見たら見覚えがある。少女は初見だけどこいつらには確か経験値貸与したはずだぞ。
「簡単なお使いもできねえ! 戦闘じゃあ魔術師の癖にクソの役にも立たねえ! てめえなんで俺たちのパーティーにいんだよ!」
「そりゃあ、俺たちのストレス解消のためにいるんだよな! まあペットみたいなもんだろ。餌やって、おいたしたら躾けてこうして叱ってな!」
彼らの嘲笑がギルド内に響き渡る。
「くそ、あいつらまたあの娘をいじめてるよ」
「聞こえるぞ、ハント。あんなでもあいつらがここのギルドではトップなんだからさ」
いつの間にか俺の隣には少年3人と少女1人が固まっていた。冒険者パーティーだろうか? 彼らはエルフの少女よりも更に幼く見える。若くして冒険者となることはあるし、自分の息子や娘をパーティーに加入させることはあるが、子どもだけで構成されるパーティーとはかなり珍しい。
「あの娘、いつもああやっていじめられてるのか?」
俺が突然話しかけたからか少年は少し驚いた様子を見せるが、
「……うん。ああやっていつも難癖つけてさ。見てられないんだけど、あいつらこのギルドじゃ一番の実力者だし。3ヶ月前くらいに一気に強くなって周辺を治めている貴族の領主の専属になったんだよ」
3ヶ月くらい前って…………それたぶん俺が経験値貸与したせいだよな。それにこいつら返済期限過ぎたけど返しにきてないぞ。
「わ、私、ニーナはペットなんかじゃありません! 今は弱いけど頑張って偉大な治癒師になるんです!」
「ああん! 半年間も面倒みてやってるがてめえなかなかレベル上がらねえじゃねえか? そんなんで偉大な治癒師とか笑わせるぜ! それに口答えしてんじゃねえぞ、てめえッ!!」
男はばっと手を振り上げ殴るふりをする。
「ひぃッ!」
「殴ってもねえのにビビってんじゃねえよ!」
男たちはまた少女に嘲笑を上げる。
エルフという種族は長命で魔術に長けた種族であるが、その為もあってか人族と比べると必要経験値が3倍以上必要で、若い内から実力者となれることはなかなか難しい。ニーナを鑑定で確認した所、まだレベル30までしかいっていなかった。
「おら、さっさともう1回お使いにいって酒、買いに行ってこいよ!」
「きゃッ!」
男はニーナに小銭を投げつけそれが床に転がる。今の勢いは小銭といっても結構痛そうだ。ちょっとそろそろ見ていられないなあ。それに彼女の姿が弓師という不遇ジョブの自分とも重なる。
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