第4話 ワイルドウルフ討伐
「なんだよ、兄ちゃん! 言わせっぱなしでいいのかよ!」
「言いたい奴には言わせとけ」
「そんなこと言ってあいつらにビビってんだろ。やっぱり弓師じゃ金級のレベルあっても敵わないよな」
うんうんと頷きハントは一人で納得しているが、その認識一つもあってないから。
「そんなことよりお前らいくつだ?」
「え? 俺ら12だけど。サラだけ10歳」
「ん!」
サラは両手を俺に広げてみせる。ああ、指10本で10歳ってことか。
「なんでそんな年で冒険者なんてやってんだ? いくらなんでも若すぎるだろ。両親は知ってるんだろうな?」
「それは……俺らが稼がなきゃいけないんだよ。村の農作物は税金で全部持っていかれるし、大人たちは税金が支払えないからって強制出稼ぎに出されてるからさ。俺らの稼ぎがないと金がなくて生きていけないんだよ」
なるほど、そういえば近隣の領地で税金の金額が高く、その取り立てもえげつない所があると聞いたことがある気がする。ここが噂のその領地近辺か。
「そいつは大変だな。じゃあ、なるべく稼いで帰らないとな」
「ああ! っても兄ちゃん…………いや、俺らが頑張るからさ!」
まったく弓師ってだけでどんだけ弱いと思われてるんだよ。
そしてそんな少年たちの近況などを聞いて話しているうちに目的のラカン平原に着いた。
平原には辺り一面に腰下ほどの高さの草が見渡す限りに生えている。草々をたなびかせながら心地よい風が通り過ぎてゆく。
「に、兄ちゃん、ぜ、前衛は俺たちが務めるから、こ、後衛はよろしく、た、頼むぜ」
緊張でガチガチになりながら震える両手で剣を握りしめながらハントはいう。ハントだけでなく、少年少女全員が同じようにガチガチに緊張しているようだ。無理もない。中レベル帯の魔物が現れるエリアにはじめて足を踏み入れたのだから。
と、その時、俺たちの匂いを嗅ぎつけたか、ワイルドウルフが3体現れる。ワイルドウルフは美しい白の体毛を風にたなびかせながら、普通の犬より3倍も4倍もありそうなほどの巨体を軽快に移動させてくる。その口からは獲物を前に待ちきれないのかすでによだれが垂れていた。
「で、出たぁ!!」
「は、ハント来るぞーー!」
俺はいつでも弓を放てるように構える。少年たちが危なくなればすぐにでもワイルドウルフたちを撃ち抜く体勢だ。
ワイルドウルフの1匹が少年たちに襲いかかる。
「わ、わああああああああああああ!!」
ハントは半ば目をつぶりながら剣を振り回す。……だめだこりゃ、まるでなってない。すっかり腰が引けているし、あんな太刀筋じゃせいぜい与えられるのはかすり傷程度だろう。
「て、天を穿ち、地を這い、風を突きさす炎の槍よ! そ、その虚喰の炎で敵を燃やし尽くせ!」
《
詠唱の後、少年は初級魔法である火系魔法を発動する。炎の槍が一つ顕現し、それがワイルドウルフに襲いかかる。だが……。
「ぐるぅわあああああああああ!!」
ワイルドウルフの前に突然風の壁が作られ、炎槍はその壁に入ると跡形もなく消し去られた。あれは
「え!? 魔物が魔法で魔法防ぐって、う、嘘だろ!?」
魔法を発動した少年は腰を抜かす。
「お、お前ら、魔物に攻撃を加えられなかったらどうしようもないだろ!」
治癒師の少年はあたふたとするばかり。
「じゃあ、サラが頑張る!」
いつの間にかその拳に拳闘士用のグローブをつけた少女のサラはやる気だが…………。だめだな、近づいた瞬間にワイルドウルフに噛み殺される未来が見える。
「うううーーー、ぐるぅわッ!!」
その時、一頭のワイルドウルフが天高く飛んだと思ったらそのまま風を纏いながら、ハントに向かって一直線に向かっていく。
「う、うわあああああああッ!! ………………って、あれ?」
身体をこわばらせ、両目をつぶって剣を闇雲に振り回していたハントは、ワイルドウルフの攻撃がいつまで経っても訪れないことに疑問に思ってその両目を恐る恐る開く。
彼の目の前には片目を撃ち抜かれ、苦悶の唸りを上げているワイルドウルフの姿があった。
「ぐぅ、ぐるぅわーーーーッ!!」
片目を弓矢に貫かれたワイルドウルフは破れかぶれといった調子でハントに襲いかかろうとするが――
ボンッ!!
「えっ!?」
少年の目の前のワイルドウルフは突然頭部に大きな穴が穿ってそのまま地面に崩れ落ちて絶命する。
「まったく見てられないな。ほら、その剣貸してみろ」
「え? え? 今の兄ちゃんが?」
混乱した様子のハントから俺は剣を受け取る。そしてそのまま一頭のワイルドウルフに向かってダッシュ。
「ぐるッ!?」
一瞬でワイルドウルフに近づくとそのまま剣を上段から振り下ろす。
ボトッ
俺の剣によって切り落とされたワイルドウルフの頭部が鮮血とともに地面に転がる。
「おい!
「え!? ファ、
俺の合図によって腰を抜かしていた魔術師の少年は
「ぐるぅわーーーーッ!!」
それを最後残ったワイルドウルフがすぐさま
ボンッ
という小気味よい音が響いたと思ったら、またワイルドウルフの頭部に穴が穿った。
ドサッ
最後の一体もエネルギーを失った自動人形のように地面に崩れ落ちる。
「魔法が防がれるんだったらそれを陽動に使え。魔法発動中はどうしても隙きが生じるんだからな」
「………………」
少年たちから返答はない。口をあんぐりと開けてお互いに顔を見合わせた後に、
「すげえ! 兄ちゃん弓師なのにめちゃくちゃ強いじゃないか!」
「あんな強力な魔物一撃で倒すし! それになんで剣まで使えるんだよ!」
「いや、ジョブが違うっていっても多少適正あれば使えるぞ。同レベル帯の剣士にはまず間違いなく敵わないけどな」
目を輝かせて興奮した様子で少年たちは次々と俺に対して称賛の言葉をかけてくる。
「兄ちゃんすげえ! 兄貴、いや、師匠と呼ばせてください!」
「兄貴の後ならどこまでもついていくぜ! 凄すぎて今でも鳥肌が立ってる!」
あまりの変わりようにちょっと戸惑うなこれは。
「じゃあ、レオンお兄ちゃんを私のお兄ちゃんに認定して上げる!」
「え!?」
みんなの視線がサラに集中する。
「お兄ちゃんに認定してもらえたらどうなるんだ?」
サラは目を煌めかせながら俺を見上げていう。
「将来サラのお婿さん候補になれるの! レオンお兄ちゃんは候補二人目ね!」
「っておい、ハントお前、サラちゃんと将来結婚するつもりかよ!」
「近親相姦だぞ、近親相姦! いけないんだぞ!」
仲間の少年二人がハントをからかう。
「ちょ、それはサラが勝手に言ってることで……」
ハントは顔を赤くして否定するが、
「えーー? お兄ちゃん、前は嬉しいって言ってくれたのにー!」
サラに追い打ちをかけられ、その顔を更に赤くする。
「よし、じゃあ、魔石と素材とってギルドに戻るぞ」
「ワイルドウルフの素材って毛皮と牙だろ! 一体いくらになるんだろ!」
「ばか! 俺たち役にたってないんだから分前もらえる訳ないだろ!」
「いや、普通にみんな公平に分配するぞ」
「………………」
またも少年たちに静寂が訪れる。お互いにその顔を見合わせた後、
「やったーーー!!! 兄ちゃん太っ腹! やった、これで久しぶりにまともなもんが食えるぞ!」
「母ちゃんにもちゃんと食べさせてやれる! ありがとう、ありがとう、兄ちゃん!!!」
「俺も家で待ってる妹たちにお腹一杯食べさせてやれる! 兄ちゃんありがとう!!!」
感謝の言葉を述べながら少年たちは嬉しそうに素材を剥ぎ取るため魔物に駆け寄る。別に金に困ってるわけではないし、共同討伐してるんだから分前を平等に分けるのは当然だ。そんなに喜んでもらえたんならよかった。少年たちは慣れた様子で魔物から毛皮を剥ぎ取っている。心地よい風がまた平原を吹き抜けていった。
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