第39話 使徒たち
「なぜ失敗した? 言い訳ぐらいは聞いてやってもいいぞ」
ルディはアクセレイの秘密の部屋に呼び出された。レオン商会の殲滅に失敗してからのはじめての親子の対面であった。
アクセレイの秘密の部屋。家族には公然の秘密ではあるが、その秘密の隠し部屋にはアクセレイがこれまで集めた金銀財宝が山のように積み上げられている。お金を何よりも愛し、信じているアクセレイの誇りであり、何よりも大切にしている部屋であった。
「……よ、予想より相手のレベルが高く……」
「お前はプラチナ級じゃろうがぁっ!! この国で一番の冒険者のなあ!! それが返り討ちにあったじゃと!? ふざけるのもだいがいにせいよ!」
この国には今、プラチナ級を超えるダイヤモンド級の実力を持つ冒険者が認定申請をすることなく存在しているのだ。それを話した所で信じてもらえる可能性は低い。なにせダイヤモンド級など世界唯一、一グループしか存在しないためだった。
「ま、誠に申し訳が……」
「後継の話だが一から考え直さないといけないのう」
「ち、父上、それは! 私以外にバッサーノの後継に相応しい人間はおりません!」
「ならばそれを証明してみせよ。プラチナ級の冒険者としてな!」
ルディは最早プラチナ級の冒険者とはいえない。強制執行されたことによりマイナスの経験値を負ってレベルが0なのだから。だがその事実を父には口が裂けてもいうことはできなかった。あの時にいた領兵たちには洗脳魔法が継続していたため、その事実を漏らさないようにと念を押している。
「よいか、わしはこの部屋の金貨を一枚でも減らす要因となることは何があっても許さんぞ。それが例え親兄弟、わしの家族、実の子供であってもな!」
アクセレイは地面に無造作に撒き散らされている金貨を手に取りながらそう宣告する。
「しょ、承知しております」
ルディは父のそういった性質は把握していたが、念を押すためにあえてそう告げてきたのだと思われた。次に失敗すれば後継どころか命すら危ういという脅しだ。
「父上、先生の力をお借りしてもよいでしょうか? 失敗するつもりはありませんが、念には念を入れるという意味で」
「先生の? うーん…………」
先生が相当な実力者ということはわかっているが正直あの化け物に勝てるかは未知数だった。だが最早ルディ自身に勝機がないため先生に賭けるしか道はない。
「よし、許可する。だが先生が無理だといったら無理だぞ」
「はい、そこはお任せください」
ルディはその後すぐ早速先生の元へと向かった。
「ほんとにあった……」
森の中に佇む大きな邸宅。ぱっと見では貴族の住まいにしか見えない。捜索に時間ががかるかと思っていたが飛行魔法により上空より確認したため邸宅はすぐに見つけることができた。
ニーナにライラ、ソフィにキュイと仲間はみんなついてきている。俺は代表して玄関のドアを専用の器具でノックする。
しばらく待つと邸宅のメイドと思われるメイド服を着た女性が玄関の扉を開けて現れる。
「すいません、この邸宅の主に会いたいのですが」
「お約束はされておりますでしょうか?」
「いえ、約束は特にしていません」
「ご主人さまはお約束のない方とお会いになりません」
メイドは無表情の無感情に告げる。
「この邸宅で奴隷の受け入れと人体実験を行っているという情報を掴んでいます。それについて話がしたいとお伝え願いますか?」
「…………少々お待ちください」
メイドは邸宅の中に引っ込み玄関の扉は閉じられる。
さて鬼が出るか蛇が出るか。
「みんな気を抜かないようにね」
ニーナたちは緊張感を持った面持ちでうなずく。
「こちらへどうぞ」
しばらく待っていると、先ほどのメイドが俺たちを邸宅の中へと招き入れる。一階の一室、そこかの隠し扉と思われる入り口から地下へと下っていく。どこに罠などあるかわからない。俺は最大限警戒する。
地下の通路を通過し、突き当りの部屋へと入る。そこは地下室とは思えないような広い空間だった。実験器具や装置のようなものが散乱し、部屋奥中央に巨大な金属製の容器。その左右にそれより少し小さな同じような容器がいくつか配置されている。それぞれの容器にはガラス製の窓が設置されており、内部を確認できる構造になっているようだった。
「我が研究所へようこそ! 私は研究所の所長であり、邸宅の主でもあるドマーゾだ!」
ドマーゾが代表して声を上げる。彼の背後にはメイドたちがズラリと並べられていた。そしてその背後には……ルディ? なぜ奴がここに……。
「私はレオンといいます。ここで奴隷たちが買われて囚われているという情報を得てきました。この研究所の目的は一体なんですか? それにルディ、なんでお前がここにいる?」
「キッイーーッヒッヒッヒ」
ドマーゾは不気味な笑い声を上げる。
「奴隷が囚われているなどと心外だな。彼女らは私によって新たな素晴らしい生を得たのだ! 称賛されることはあれ非難される謂れはない。それに我が使徒の一人でもあるソフィよ。姿が見えなくなったと思ったらそんな所でなにをしているのだ?」
「え!?」
ソフィは苦悶の表情で頭を抱えていた。
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