第38話 逃亡少女
「アクセレイ公爵には1年前に白金貨10枚貸してて今利息で白金貨300枚程度っす」
「今考えたら当時でよく白金貨10枚も貸せたよな」
「いやあれ借金して捻出したんすよ。比較的すぐに返せたっすけど。でアクセレイ公爵は金溜め込んでるみたいっすけど白金貨300枚あればほぼ一撃死させられるっすね」
俺たちは商会でどうしたらバッサーノ家をつぶせるかという議題で議論を行っている。
「バッサーノ家は王妃派だって?」
「ああ、公爵になったのも王妃殿下の口利きがあってからのもの。アクセレイから王妃へは相当な額が献上されているはずだ」
「じゃああのヒステリーの王妃がバッサーノ家のアキレス腱でもあるわけか」
会議にはライラの師匠のクライブも参加をしてくれている。
「財政的には潰せるけどそれで公爵家が取り潰しになると言われたら微妙かな……公爵クラスになると当事者間のみでの売買も厳しいし……どうしたものか……」
みんなで頭を悩ませる。ちなみにこの会議にはニーナとソフィは参加していない。理由は言わずもがな。だがキュイはなぜかライラの膝の上に収まっていた。
「きゅぅい、きゅいきゅい! きゅぅぅぅいいい?」
「なるほど、だけどそれじゃ無理っすね」
「きゅぅういいいい」
何を議論したのかわからないがキュイも一緒に考えてくれているらしい。
「レオンが強制執行で返済させたお金を王に献上すればいいんじゃないっすか? それでバッサーノ家を廃嫡してくれないっすかね?」
どうなんだろう? そこのところは俺ではわからない。クライブがその疑問に答える。
「うーん、アクセレイ公爵に明確な落ち度なり、王族に不利な状況になるとかじゃない限り厳しいかな……。王も自分の妻の米びつに手を突っ込むようなものだし、金が好きな人だけど流石に躊躇するだろうな……」
議論はまた振り出しに戻り、またみんなで頭を悩ませる。そこでライラが、
「じゃあ奴隷商をしてるってことを暴露すれば……」
「いやそれじゃあ弱い。っていうか王族も聖人君子ではないのでグレーなこともやってるからな。自分たちも脛に傷を持つから民衆から相当な突き上げをくらうとかにならない限り、それだけでは理由にはならないな」
うーん、ようするに王族に不利になるようなことがアクセレイに繋がればいいのか。一体何があるだろう?
そこで会議室のドアが突然ノックされて開かれる。
「ご、ごめんね、会議中に。ちょっと気になる子供を保護しちゃって……」
ニーナの傍らにはその手を繋いで警戒の視線をこちらに向ける一人の少女がいた。
「出張してた商会の人が保護して、今から警備局に連れて行こうとしてた所なんだけど、この娘に話を聞いてみたら奴隷商に攫われたみたいで…………」
奴隷商はバッサーノ家が密かに生業としている商売だ。すべての奴隷がそうであるわけではないが、この少女にバッサーノ家が関与している可能性がある。
「お嬢ちゃんのことを攫ったのはどんな人だったか覚えてる?」
「……髪のない大きい人と、後片方だけの小さいメガネをかけた小柄なしわくちゃのおじちゃん」
前者の髪のない大きい人の情報はないが、後者の情報は俺たちが入手している情報と一致する。
そこに会議に参加していなかったソフィも合流する。少女は一瞬ソフィを見るとぎょっとした表情をした。だがソフィがキュイを抱きしめながら椅子に座るのを確認すると少女の表情は元に戻る。少女の反応はなんだろう? 少し気になるがまあいいか。
「それでどこに連れて行かれたのかな?」
「森の中の大きいおうち。地下室もあった。地下室は瓶に詰められた変なものが一杯。それに……私と同い年くらいの子たちが……」
そこまで話すと少女はブルブルと震えだす。その少女をニーナがそっと抱きしめる。
「この娘が保護された場所と森をどうやって逃げてきたのかを聞く限り、この娘が囚われていたと思われるのは大体この辺りよ」
「そんなところに?」
そこは近くに集落も何もないような辺境な森の中であった。信じがたいような情報ではあるが……
「そこはバッサーノ家の領地っすね」
俺たちはライラのその言葉にうなずく。少女の証言が子供ならではの間違いである可能性はあるが、確かめる必要はあるだろう。
「それにこの娘の話を聞く限り、どうやら人体実験みたいなことをしてるみたいなの」
「人体実験?」
「はっきりとはわからないんだけど、この話はこの娘が恐がるからちょっと後で……」
その情報が真実だとしてなんでそんな辺境で人体実験を行う必要があるんだ? 一体アクセレイたちは何を行っている?
「よし、じゃあそこを調べにいくか」
そこはアクセレイの公爵領であるため、悪事を確認しても追求できない可能性もあった。しかし俺はアクセレイたちに切り込める可能性がある所にまずかけることにする。
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