第40話 リミット解除

「私は……私は……ソフィなのです……私はあなたの……ああ、記憶が……ゔゔーー」


 ソフィは痛みに耐えるように頭を抱えている。記憶が蘇っている?

 

「お前は我が使徒の第一号だ。あの麗しき日々を忘れたのか? お前と私の仲睦まじい日々のことを? さあ我もとへ帰ってこいソフィよ」


「ゔゔーーーーーっ!!」


 ドマーゾのその言葉は更にソフィの苦悶を強める。


「止めろ、ソフィが苦しんでいる! ソフィは今は俺たちの仲間だ!」


「レオン貴様、誰にものをいっている! ドマーゾ様は大公閣下の血筋を引く現王妃殿下の実の兄であらせられるぞ!」


「キッイーーッヒッヒッヒ」


 ドマーゾはルディのその言を受けてまた不気味な笑い声を上げる。


「大公閣下の血筋…………? そんな方がこんな辺境で一体何を?」


「愚か者たちのせいだぁあああああああああああっ!!!」


 ドマーゾは突然人が変わったかのように大声を発する。 

 

「我が崇高なる研究を理解せずに私をこぉんな辺境へと追いやりよってぇえええええええッ!!! 見ろ我が使徒たちの神聖なる面持ちを! 我が最高傑作たちをぉおおお!!!!」


 ドマーゾの背後には変わらず無表情なメイドたちが立っている。ドマーゾの変化にも俺たちとのやり取りにも一切の感情が動かされないようでその表情も変化をすることがない。


「…………なぜドマーゾさんはこんな辺境へと追いやられたのですか?」


「それは我が錬金魔導研究の人工生命の創出に関わる研究のためだ。一からの生命の創出は正に神の所業。そうではなく既存存在をより崇高なる存在へとアップデートすればいいのでは? 私はこれに気づくことができ、実際に研究も好結果を残せていた。しかし、私の研究に人命などを理由にケチをつける人間が多くてな! 崇高なる目的で崇高なる存在である私が下賤な平民たちの命を使い潰して何が悪いというのだねッ!! いつしか支配階級である王族の人間までも下賤なものたちの言葉に感化されて私を王族から追放しやがったのだよぉおおおおおおおっ!!!」


「…………その使い潰したという人命の数は?」


「さあ、正確には数えてはいないが数十は超えるのではないかね。興味がないので特に数えてはおらんが」


 なるほど、ドマーゾが超弩級のクソ野郎だということが分かった。倫理観も社会性もゼロで自分がしたことに一切の良心の呵責を感じていない。一体どういう教育が行われたらこんな人間が育つのだろうか?


「さあ、こいソフィよ! 我もとへ! 我が胸へ帰ってくるがいい!!」


「ゔゔゔゔーーーーーいぃやぁあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ッ!!!!」


 ソフィは頭を抱えたまま苦痛の叫びを上げる。そしてその後は下を俯き、頭を抑えていた両手もぶらりと垂れ下がる。


 下を俯いたソフィはゆっくりとドマーゾへと歩みを進める。


「きゅ、きゅ?」


 ソフィの胸元にいたキュイが疑問の声をあげるとソフィはキュイを掴むと後方へと投げ捨てた。


「キュイちゃん!」


 ニーナが投げ捨てられたキュイを拾う。


「きゅぅぅぅぅ」


 キュイは悲しそうに鳴いている。

 

「よし、ソフィを除いた我が使徒たちへ指令を与える。我が研究所への礼儀知らずの侵入者たちを排除しろ! 息の根を止めて肉塊の屍と化せ!」


 ドマーゾの背後にいたメイドたちの目が一瞬光った後に広大な地下空間の上空へとそれぞれ浮かぶ。


「侵入者……認識したのです……攻撃……開始……」


 それぞれが魔法を発動して一斉に俺たちに攻撃を仕掛けてくる。まずい!


魔法障壁マジックウォール!!』


 俺は瞬時に魔法の防御魔法を発動する。薄白い壁が俺たちの前に構成され、次々に攻撃された魔法を弾く。


「分析……障壁魔法……範囲魔法から戦略変更……一点突破の凝縮魔法により……障壁を破壊」


「ダメだもたない! ニーナ、ライラ備えろ!」


「「はい!」」


 ここに到着する前にニーナとライラ、それぞれに経験値譲渡を行い、二人ともレベルは80を超えている。


 魔法障壁がひび割れ――――粉々に破壊された。


 俺たちはそれぞれ迫りくる魔法を躱す。


「ライラは前衛にて相手戦力の無効化! ニーナはライラの補助を! 俺は後衛から敵を攻撃する!」


「「了解!」」 


 早速ライラはメイドたちへと斬りかかっていく。俺はそのライラを集中攻撃しようとするメイドたちに向かって爆発式のマジックアローを連射する。殺傷能力を抑えた速度重視タイプだ。


 次々に俺のマジックアローが着弾する。メイドたちは俺のマジックアローのスピードに対応できていない。


 そこをライラの魔法剣が追撃する。魔法剣はレベル80を超えてライラに発現したスキルだ。殺傷能力を弱めた、打撃性を高めた魔法剣を使っているようだ。ライラの魔法剣での攻撃を受けたメイドの一人が昏倒して地面へと落下して戦線を離脱する。


「リミット解除! 80%から100%へと制限を解除する!! 不敬者たちに鉄槌を!!!」


 ドマーゾのその言葉の後、メイドたちの動きが明らかに変わる。スピードは向上し、ライラの魔法剣の攻撃を躱すようになる。ライラはレベル80を超えているのだぞ! メイドたちのレベルは70ほどしかない。一体どういう仕組みだ?


「更にリミット解除! 100%から120%へと制限を解放する!! 使徒たる力を見せてやれ!!!」

 

 その時、ニーナの足をメイドが放った閃光魔法が貫く。ニーナはすぐに自身に治癒魔法をかけて回復するが、まずい対応できないレベルになってきている。


「うぉおおおおおおおおおッ!!!」


 俺は抑えていた魔力を解放する。そして更にスピードを高めたマジックアローを連射した。

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