第8話 強制執行!!

「おらぁ!!」


 ヒョードルが加えてきた拳撃によって地面に小さなクレーターのような穴が穿った。辺りには土煙が舞う。


「ちっ、避けやがったか」


 ティラナの町で最強の男。冒険者パーティーリーダーのヒョードルとの対決の時。50レベル台にしては拳闘士にしても大した威力だ。まじめに鍛錬していたら強敵になっていただろう。まじめに鍛錬していたらの話だが。


 俺は弓を背中にかけて手ぶらになる。


「なんの真似だ?」


「拳闘士で格闘戦が得意なんだろ。お前の得意な分野で戦ってやるよ」


「くっくっく……」


 ヒョードルは下をうつむき不気味に笑う。


「なにがおかしい?」


「いや、てめえみたいな勘違い野郎をぶちのめせると思うと嬉しくてな」


 こいつは今まで、俺と他メンバーとの戦闘を見てなかったのか? するとヒョードルは背中のバックから何か拳具を取り出し両腕に装備した。色は漆黒で素材はなんだろうか? ドラゴンの装飾が施されており見ただけで相当な代物であることがわかる。


「これは竜腕拳具ドラゴンアーム叙事詩エピック級をこえた伝説レジェンダリー級の一品だ。これが俺をティラナ近隣で最強にせしめている奥の手。これを俺にはめさせたからにはてめえの骨という骨を砕き、内臓をめちゃくちゃに破壊して、その口からは臓器を出させてやる。自分で自分の内臓の色を確認させてやるぞッ!!」


 そこまで咆えるとヒョードルは俺に踊りかかってくる。まずは右ストレート。俺がそれを受け止めると、その威力は凄まじく、周囲に衝撃波が生じる。


「よく受け止めたなあ! だがそれがいつまで持つか? お前には俺の靴を舐める栄誉を与えてやる。首輪をつけて四つん這いに歩かせてペットのように飼ってやる。食事は俺らの排泄物だ。生きてきたことを心底後悔する苦痛と屈辱を与えてやるぞぉ!!!」


 右フック。左ボディ。上からの打ち下ろしからアッパーカット。今度は右フックからの反動を利用した左フック。間髪入れずに次々加えられるヒョードルの攻撃を俺はすべて防御する。

 

 ドドドドドドドドドッ!

 

 周囲に凄まじい衝撃音が辺りに響き渡るが……。


「はあはあ、てめえ、なんで傷一つ負わねえ!!」


 余裕だったヒョードルの顔にはじめて焦燥が浮かぶ。


「いくら伝説レジェンダリー級っていってもそのレベル換算した上昇効果はレベル10くらいだろ。それじゃ俺にダメージは与えられないよ。それに攻撃力だけが上がっててもさ」


 俺は軽くジャブをヒョードルに一つ加える。するとそれだけで宙にヒョードルの鼻から吹き出した鮮血が舞い、彼は後方に大きく吹っ飛ぶ。


「いまのも軽く撫でたくらいだけど、そんなのでダメージくらうんだもんな」


 ヒョードルは鼻を抑え、目に涙を溜めている。


「ちょ、ちょ、ちょっと待て! おかしい! 何かの間違いだ!」


「何が?」


 俺は続けてヒョードルにジャブを放つ。ヒョードルはまた鮮血を宙に散らし、後方に吹っ飛ぶ。


「それで?」


 またヒョードルの顔面にジャブを叩き込む。


「俺をどうするって?」


 もう一撃。目は腫れ、鼻は完全につぶれている。


「首輪をつけて飼ってくれるって? 随分愉快な発想をしてるな、お前」


 更にジャブを。今度は鮮血だけじゃなく、ヒョードルの砕けた歯片も宙に舞う。


「どうした元気がなくなってきたけど」


「………………」


 顔を倍近く腫らしたヒョードルはもはや戦意がなさそうに見えた。


「…………どうせてめえは俺らを殺すことはできねえ。そんな度胸はねえだろ? この借りは必ず返しにいくから楽しみに待ってろよ」


「………………」


 俺はヒョードルの他、剣士と魔術師の二人にも目を向ける。彼らも不敵に笑っている。こいつらもヒョードルと同じ考えのようだ。


「お前らは殺してきたのか……俺たちみたいにお前たちに逆らう冒険者たちを……」


「ああ、殺してきたぜ! 邪魔になりそうな奴! うだうだうるせえ奴! この世は弱肉強食だ、食われる奴が悪い!」


 だがそれをするなら自分たちも殺される覚悟がないといけない。こいつらにそんな覚悟がほんとにあるのか? ただの強者の愉悦でしかないのではないか?

 

「相手が強いからって引いてはいけない。どんなにレベルが開いていても絶望的な戦力差があっても諦めてはいけない。お前がいったこの言葉に嘘はないな?」


「ああ、嘘はねえぜ? 実際俺たちはてめえに折れたか? 人を殺す度胸もねえチキン野郎がよぉ!」


 であればその言葉に嘘がないか実際に確かめてみよう。


「俺の経験値貸与の能力だが」


「…………なんだ、今更?」


「経験値ってのは実態のないものだ。金銭や不動産の貸し借りには実態が伴う。だから差し押さえっていう手段が使える。だけど経験値を貸して返してもらえなかったら、実態を伴わないものだから差し押さえのしようもない。泣き寝入りすることになる。そう考えてるんだろ?」


「…………なにが言いたい?」


 何か嫌の予感を感じたかのようにヒョードルは顔をしかめる。


「経験値貸与のサブスキルとして強制執行というスキルがある。これは返済しなかったものを強制的に返済させることが可能だというスキルだ。お前らに貸した経験値は一人あたり50万。今では利息も含めて100万を超えている。これで強制執行を実行するとお前ら経験値マイナスになるなあ」


 ヒョードルたちはお互いに顔を見合わせ、その顔色を青くする。


「ちょ、ちょっとまて……」


「今日ここで俺に勝てなくても借りてる経験値はそのまま踏み倒す。その上で自分たちのレベルを上げるなり、もしくは、誰か人を雇うなりして俺に復讐をしようと思ってたか? レベル0になってマイナス経験値を負ったお前らがこれから先、冒険者を続けていられるとでも?」


「待て! 待て! 待て! 待ってください!! 勘弁してください!! そんなつもりじゃなかったんです!!!」


 強制執行の能力を知らせていなかったニーナやハントたちも驚いた顔をしている。


 いつしかヒョードルたちはその目に涙を浮かべながら、俺の足元に群がり土下座をして懇願する。


「お願いします! 足を舐めろというなら舐めます! レオンさんの下僕になれというならなります! だから勘弁してください!!!」


「どんなにレベルが開いていても絶望的な戦力差があっても諦めない。この言葉が本当かどうか確かめさせてもらうぞ」


「嫌だぁあああああああああああああ!!! 止めてくれぇええええええええええええええええッ!!!!」


 強制執行フォースエグゼ!!


 ヒョードルたちから経験値が光の粒となって外に漏れ出てきて、それがすべて俺に吸収されていく。温かいものが自身の深部に積み上げられていくような、なんとも形容しがたい心地よい感覚だ。


 数秒かけて貸しているすべての経験値を返却させた後に鑑定スキルでヒョードルたちの状態を確認してみる。レベルは0。各ステータスは幼子にも負けるのではないかというくらい低い。そしてそれぞれ保有経験値はマイナス40万を超えていた。


「は、はああ、はあああああああああッ、俺の力があ。力がなくなったぁああああああああッ!!」


 狂気の表情を浮かべ、その手を震わせながらヒョードルは衝撃を受けている。


「じゃあ、お前らの言葉が本当か確かめさせてもらうぞ。おい、ハントたち。今度はお前らの番だぞ」


「え? 兄ちゃん、どういうこと?」


「こいつらはもう全員レベル0だ。リベンジの時だっていうことだよ。ただ赤ん坊並の強さしかないから殺しちゃわないように気をつけてな。おい、ヒョードル。お前らはどんなにレベルが開いていても、絶望的な戦力差があっても諦めないんだったよな」


「あっ、あああああ、ああああああああああああああああああああああッ!!!」


 ヒョードルは俺の真意を理解し、絶望の叫びを上げた。

 




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 本作をここまで読んで頂きまして大変ありがとうございます。


 遂に最初の強制執行が発動されました!

 個人的には経験値貸与より、制限がほぼない強制執行の方がチートかなと思ってます。


 少しでも、


「面白い!」

「続きが気になる!」

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