第21話 レオン伯爵

「あ、あぁああああああああっ! こんなぁ、こんなぁああああああ!!」

 

 フレドリックの悲痛な叫び声は夜空に飲み込まれていく。


 フレドリックは青い顔して子鹿のようにブルブルと震えている。余程、アクセレイのことが恐ろしいのだろう。


「どうでしょう、アクセレイ公爵への借金。私が肩代わりしてあげましょうか?」


「……え!? ほ、本当ですか!? 是非ともお願いします!!」


「といってももちろんタダというわけにはいきませんが」


 フレドリックはその表情に警戒の色を浮かべる。


「私にフレドリック伯爵の伯爵位の身分を売ってください。金貨100枚で。それが借金を肩代わりする条件です」


「そ、そんな安すぎるぅ!!」


 伯爵位の身分など下手すると白金貨で100枚以上かかってもおかしくはなかった。たがショックを受けて思考停止状態に陥っている今なら俺の条件を飲む可能性が高い。それに買い手を見つけるまでの時間的な余裕がほぼないのも狙い所だった。俺は畳み掛ける。


「そうですか。別に私は売っていただかなくてもいいんです、これはお願いしてるわけではないので。ですが、こんな短期間で伯爵位なんかを買ってくれる人が見つかりますかね? 千載一遇のチャンスではないでしょうか? 金貨100枚をぽんと出せる人間は極々限られていると思いますよ」


 フレドリックはごくりと唾を飲む。アクセレイ公爵の借金を返せなければどちらにせよフレドリックに待っているのは地獄だ。


 フレドリックは俺に土下座をして目を真っ赤に充血させ、全身を震わせながら、


「…………おーーねーがーーいーしーーまーすーーーっ」


 言葉を絞りだすようにしていう。


「何をですか?」


「…………伯爵位の金貨100枚での譲渡をです」


「ライラ頼む!」


 俺のその言葉にライラは頷き、すぐにカバンから一枚の紙を取り出す。そしてそこに素早く必要事項を明記していく。


「できたっす。伯爵位譲渡の契約魔術書」


「ありがとう」

 

 俺はライラから契約魔術書を受け取り、傍らからナイフと取り出してフレドリックに促す。


 フレドリックは震える手で親指をナイフで傷つけそれで血印を契約魔術書に魔術書に押印する。俺も血印を押印すると契約魔術書は光り輝き、消え去っていった。


 俺はステータスを確認すると称号に伯爵位が追加されていた。王から拝命されたわけではないので契約魔術書は一種の賭けだったが、うまくいったようだった。


「よし! ではフレドリック、並びに、領兵は拘束の後、投獄。罪状は追って沙汰を伝える」


「ま、待て! わしも罪に問われるのか!? 話が違うぞ!」


「……罪に問わないなどと私が一言でもいいましたか? 私があなたと交渉したのは伯爵位の買取。それだけです。それともこのの私に文句があるとでも?」


「…………あああ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙っ」


 自らの末路を悟ったフレドリックはへなへなと泣きながらその場にひざまずく。




 フレドリックと領兵たちの連行にハントや少女たちの送迎、そして襲撃をうけた村の負傷者の治癒などが終わった時。勝てないとわかっているからか領兵たちは抵抗するそぶりなどは見せなかった。ちゅんちゅんと小鳥のさえずりが聞こえてくる。いつしか時刻は早朝となり、東の空から太陽がのぼりはじめており、美しい朝焼けを目にすることができた。結局、徹夜作業となってしまった。


「レオン」


 俺はその声色にギクリとする。そしてそーっと声がした方向を恐る恐る振り返る。そこには仁王立ちしたライラの姿があった。


「強制執行ってお金も対象だったんっすね?」


 不敵な笑みを浮かべながらライラは俺に尋ねる。


「あ、ああ、そうなんだよ。ごめんね、伝えてなくて。ちょっと驚かしてやろうと思ってさ」


「……ええ、しっかりと、十分に、大いに驚いたっすよーー!」


 ライラはまだ貼り付けたような笑顔を浮かべていたが、その表情を般若へと変えて、


「なーーんーーでーーーいわないっすかぁ!! そんな大切なこーとーをーーっ!!」


「ご、ごめんなさい……」


「…………レオンはよくわかってないみたいすっけどね、これはとんでもない能力っすよ。債権の強制返済だなんて…………間違いなく金融の覇権がとれるっす!」


 そうなのか? 確かに便利だとは思うけど。


 近くのベンチにはニーナが座り、徹夜作業の疲れもあってうつらうつらとしていた。


「はあー、今日はもう疲れたっすから後日それはしっかり考えるとして、これでまた世界一の商会の夢が近づいたっす! レオンも貴族になったことだし!」


 よかった、ライラはそんなに怒ってないみたいだった。


「じゃあ、また後日でいいんだけど、ちょっとまた調べて欲しいことがあってね」


「なんっすか?」


「えっとね…………」


 その時、ベンチでコクリコクリとしていたニーナが大きく船をこいでベンチから転げ落ちた。





「この度はこのような機会を設けて頂きまして深く御礼申し上げます。私がこの度、フレドリックより伯爵位を引き継ぐこととなりました、レオンと申します。今後ともよろしくお願いいたします」


 俺は招待主に頭を下げる。


「レオンだな聞いておる、頭を上げて席につけ。今日はもてなしを用意しておる」


「ありがとうございます。それでは失礼いたします」


 俺は椅子に座り、招待主と長テーブルの両端で向かい合う。


「それでレオン、お前何か事業は行っておるのか? フレドリックのぶどう事業はダメになったのだろう?」


「はい、そちらは利益が見込めそうにないため、破棄いたしました。私は金融の事業をおこなっております」


「ほう、具体的には?」


「簡単に申し上げますと、金貸しになります」


「なるほど」


 招待主はその顔に薄っすらと笑みを浮かべる。


 ウェイターがやってきて飲み物と前菜を招待主と俺のそれぞれに給仕する。


「よろしければお近づきの印として、私どもからお金を借りて頂けないでしょうか?」


 招待主が最近お金を必要としていることは事前に調査済みであった。招待主はレオンより高位の公爵位となる。通常、低位の貴族から高位の貴族に融資など金銭の貸借をする場合、それは金銭の譲渡と同じ意味を持っている。


「それは助かる。で、どれくらい融通可能だ?」


 招待主の名はアクセレイ = バッサーノという。


 そしてアクセレイはレオンを追放した元冒険者メンバー、魔術師ルディ = バッサーノの実父でもあった。





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 本作をここまで読んで頂きまして誠にありがとうございます。

 

 強制執行はすべての貸与について有効なのでした。

 ということで今度は金貸しざまぁも入ってきます。


 また今後は閑話として異世界金融でのナ○ワ○融○やミ○ミの○王的なサブストーリーも、ちょこちょこ投入していけたらなと思っています。

 (反応悪そうなら止めるかもしれませんが・・・)


 これで初期設定は大体出しきりましたのでここまでを序章とさせて頂き、次章からはいよいよ追放元メンバーのざまぁへと移っていきたいと思っています。

 続けてどうぞお楽しみ下さい。

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