閑話:異世界金融 サキュバスキャバクラにハマった男①

「ではお名前と年齢、ご職業を聞かせて頂いてもいいっすか?」


 簡素な事務所の一室。ルドルフはねこ耳の獣人の受付の女性からヒアリングを受けている。

 

「ルドルフ、16歳。今、魔術学園の学生。で一応俺んち、貴族の子爵だから。今日は金貨2枚を借りたいと思ってる」


 ルドルフは足を組み、ソファーに両手を広げた偉そうな態度で答える。


「そちらにいる女性の方は?」


 ルドルフの隣で顔を赤らめ恥ずかしそうに俯いている女性。


「ああ、こいつは俺の女。マリー」


「マ、マリーと申します。私も16歳で同じ魔術学園の学生ですが、私は平民ですっ」


「…………なるほど、それで今日はなんでお二人で?」


 ヒアリングを何かの用紙に書き込みながら受付の女性はルドルフに問いかける。


「金借りんのは俺なんだけど、こいつは保証人で」


「は、はい、よろしくお願いします!」


「………………」


 受付の女性は訝しげに二人を確認する。その様を見てルドルフは内心焦る。


 借りようとしている金額が高すぎたか? 

 または平民の女が保証人では足りなかったか? 

 または学生にはやっぱり貸してくれないか? 

 と。


「……返済期限は3ヶ月で利息はトイチですが、大丈夫っすか?」


「ああ、大丈夫、大丈夫」


 ルドルフは軽く答える。その大丈夫は本心であった。なぜならルドルフに借りた金を返す気は一ミリもなかったから。保証人のマリーに押し付けて自分は一銭も払う気はないから。


 受付の女性は少し考え込んでいたが、彼女から金貨2枚が手渡される。ルドルフは思わず頬が緩む。


 なぜルドルフがこのような考えと行動に至ったかを知るのは数日前に遡る必要があった。



 


 数日前のこと。


「やだぁもーー」


「えーーいいだろーー」


 響く女の子たちの嬌声。クリスタルによって煌めくネオン。


 そんな中でルドルフはテーブルで一人貧乏揺すりをしながらドリンクを飲んでいる。ルドルフの視線に先にあるのはルチアというサキュバスだ。現在他の男性の接客中で来店して30分ほど待たされている。


「ちっ、いつまでイチャイチャしてんだよ」


 自分が恋慕を抱いている相手が他の男とイチャついているのを見ることほど不快なことはない。ルドルフのイライラがマックスになろうかというその時、ボーイがルチアのテーブルへいく。そしてルチアがチラリとこちらを見る。おっ、やっとこっちに来るか?


「すいません、お待たせしましたぁー」


 前かがみになって謝りながらルチアはテーブル席に座る。その時、ルチアの胸元の開いたドレスの豊満な谷間に視線がいく。


「いや、そんなに待ってないから……」


 先ほどまでのイライラはどこへやら。ルチアがやってきてくれたことでルドルフは熱に浮かれる。


 その豊満な胸に引き締まったくびれ。細く美しい脚に抜群のプロポーションのその肢体は、銀色に輝く身体にぴっちり密着したドレスに包まれている。どこか小悪魔感を感じさせるキュートさと、それでいてはっと息を呑むような美しさも兼ね備えた美人でもあった。


「ごめんなさいね。私たち自分でつくテーブル選べないから。店にルドルフさんが来店したのわかった時にはすぐにでもテーブル移動したかったんだけどぉ」


 そういってルチアはその手をルドルフの太ももに置く。ルドルフの熱がまた少し上がる。


「しょ、しょーがねーな。あの黒服のウェイターどもだろ? あいつらがしっかりしてねえからダメなんだよなぁ」


「そういつも私たちの希望より、どれだけお金を落としてくれるかで在席が優先されちゃうから。さっきの人、あんまり私好きじゃないんだけど、お金払いだけはよくて……。今日もシャンパン開けてくれたし……」


「どれ? そのシャンパンって?」


「えっとー、これぇ」


 ルチアが指差した先にあるシャンパンの金額は…………銀貨20枚もする。シャンパンの中では比較的安いものではあるが、ルドルフはその金額に目ン玉が飛び出そうになる。

 

「じゃ、じゃあ、それ頼みなよ」


 男への対抗心によりそういってしまう。


「ええーー、ほんとにいいのーー! ルドルフさん好きぃー!!」

 

 そういってルチアは豊満な胸をルドルフに押し当ててくる。ルドルフの鼻の下が自然と伸びる。


「あのー、うれしいんだけど無理はしないでね?」


 ルチアは可愛らしく顔を傾けながらルドルフにいう。


「む、無理なんかしてねえよ。前にもいった通り、俺は貴族でうちは子爵だからな」


「えーー、すっごーーい。じゃあ将来はルドルフさんは子爵なんだぁ。ええー、もしかして今からルドルフさんに唾つけておいたら、子爵夫人に玉の輿に乗れたりぃ?」


「ま、まあ、それも不可能ではねえかな?」


「えーつけるつける、ルチア、ルドルフさんに唾をつけるぅー!」


 ルチアはまた豊満な胸をルドルフに押し当ててくる。そこへ、


「そろそろ時間となっておりますが、どういたしましょう?」


 ボーイが延長を確認してきた。チラリとルチアを見る。期待に満ちた眼差し。


「…………延長で」


「やったー、じゃあ、乾杯しよー」


「あ、ああ」


 その日初めての乾杯をルドルフはルチアと交わした。




 

「ああぁーーー」


 思わずため息が漏れ出る。店を出て会計を済ました後。何ヶ月分かの前借りしたお小遣いをすべて使い果たしてしまった。もう尻の毛まで抜かれてすっからかんだった。


「でも、よかったなー」


 ルチアから押し付けられた胸の感触を反芻する。自然のその表情が緩みニヤける。


「後もうちょっとでやれそうなんだけどなー。ルチアちゃんの俺のこと気に入ってるみたいだし、あんな店に貴族なんてこねえだろうしな」


 サキュバスキャバクラにはアフターという制度があり、そのアフターに誘われた場合は休憩という名目でその女性を抱くことができるという仕組みがあった。まあ、それも必ず抱けるというわけではないらしいが、そうなるとかなり脈が強いと考えていいだろう。


 貴族の先輩は金貨1枚も2枚もするような高級なシャンパンを開けて、サキュバスをおとしたといっていた。


 ルチアのあの豊満な肉体。柔らかな身体の感触。めちゃくちゃにしてやりたい。だが、その為の軍資金といえるものは一銭もない。シャンパンどころかまたあの店に来店することする難しいという状況であった。


「はあー、とりあえず大人しく学園にいくかあ」


 今の時刻は昼であった。ルドルフは昼割を利用する為、学園をサボってサキュバスキャバクラのお店に来ていたのだ。こんなことを父に知られると叱られるどころの話では済まない。だが、一度学園を卒業した先輩に店に連れてきてもらったルドルフは、サキュバスキャバクラに完全にハマってしまって自分で自分を制御できないのであった。

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