第32話 税金の滞納
「いい天気だねー」
王都郊外の平原でぽつんと根をおろしている大木のふもと。大木の木漏れ日に包まれながら俺たちはニーナが作ってきてくれたサンドイッチを頬張る。
硬めのパンに生ハムと新鮮な野菜が挟まれており、少し酸味がありながらも旨味が凝縮されたような絶妙なソースがかけられている。パンを頬張ると新鮮な野菜のシャキシャキ感が最初に感じられる。その後に野菜と生ハムとソースの絶妙なハーモニーを口の中で感じる。そして硬めのパンの何度も噛んでいるうちに旨味が高まっていくという三重奏が口の中で奏でられていた。
「うん、おいしい!」
「めちゃうまなのです!」
「ほんと! よかったー」
キュイにも食事をニーナは用意してくれていたが、元々の生息地の平原ということで野生の血が騒ぐのか食事そっちのけで楽しそうに平原を飛び回っている。
木漏れ日に照らされて美味しい食事をみんなと頂く。平和で幸せなかけがいのない時間だ。
「レオンはどうしてこんなに私によくしてくれるのですか?」
ソフィからの突然の質問。
俺は食事の手が一瞬止まる。なんでソフィによくするのか?
「うーん、何ていうか俺はそんなによくしてるつもりはないっていうか。ソフィという人に出会える縁があって自然とこうなったっていう感覚なんだけど……」
「レオンはきっとそういう人なんですよ。ライラはスカウトって形だから少し違うけど、私も拾われたみたいな感じといえば感じだし」
「そうなのですか……」
その時、平原に風が吹いてニーナとソフィの美しい髪が風にたなびく。
「きゅきゅきゅーーーぃい!」
風にのって更に上空へと上ったキュイは楽しそうな鳴き声を響かせている。
「好きかもなのです」
「え?」
「ソフィはレオンが好きかもなのです……」
「…………え?」
突然のソフィからの告白。いや、好きかもなので断定ではない? ニーナも突然のことでその目を丸くしている。
「それはソフィからレオンへの愛の告白?」
ニーナは口部を両手で覆い目を輝かせながらソフィに尋ねる。
「ソフィは人が好きという気持ちがよく分からいないのです」
「うーん、ソフィはキュイのことは好きなのよね」
「はい、好きなのです」
ああ、そこは即答なんだ。
「それとレオンへの気持ちとどう違うの?」
「…………ソフィはレオンを思うと温かい気持ちになるのです。胸の辺りがポカポカして……。言葉にするのが難しいのです」
「…………だってレオン」
ニーナは赤い顔をしている俺にニヤニヤしながらいう。
「うん、まあ、そ、そうなんだ」
俺はなんとも煮え切らない態度をとってしまう。
この場にライラがいればここぞとばかりに追求とつっこみがされただろうが、彼女は仕事が忙しいということでこのランチ会は欠席している。ライラは商会が急拡大している今、仕事が楽しくてしょうがないといった様子だ。よかったライラがいなくて……。
しばらくの間なんとももどかしい空気が俺たちの間に流れた。
一方、ライラの今の様子はというと――
「姐さんここは?」
「その場合は様子見で。返済の期限が過ぎてるから圧力はかけておくっす」
レオン商会事務所内部でのいつもの光景。ライラは部下たちからは姐さんと呼ばれていた。レオンを長とするレオン商会の実質のNo.2がライラであった。
今商会には新人数名と事務員と教育係で1名。10名に満たない人員がいて、他の商会員は外回りに出ているという状況であった。ライラは教育係と新人の教育を行っている最中である。
その時突然、事務所入口のドアが乱暴に開け放たれ、何人かの男たちが我が物顔で事務所の中に乗り込んできた。
ライラは最初は取り立てを行っているものが脅しにきたのかと思った。しかし今きつい取り立てをしている案件はないはず。それに乗り込んできた先頭の男はローブを来ており魔術師のように見受けられる。それに他の男たちは明らかに兵士であった。
「ここはレオン商会で間違いないな」
「そうっすけど、お宅どちらさんっすか?」
そのライラの言葉に魔術師と思わる男の眉が不快そうにピクリと動く。
「言葉に気をつけろ、私はバッサーノ公爵家の次期当主のルディという。今回レオン商会が税金の滞納をしているため取り立てに参った」
「税金の滞納? レオン商会は税金をきっちり収めているはずっすけど」
ルディは一枚の用紙をライラの目の前に突きつける。
「経験値貸与をしようした事業に対する税徴収の法律? …………レオン商会に限定して狙い撃ちにされた法律じゃないっすかこれ!」
「レオンはいないのか?」
「レオンは今留守っす」
ルディは一瞬残念そうに眉をひそめるが、
「まあいい、法律の施行日は2日前。税金の滞納により商会員のメンバーたちを拘束する!」
「そんなこちらには何も知らせずに横暴っす! そんなの守れる訳がないっすよ!!」
「抵抗するということだな? おい、お前らかかれ! 抵抗するものは容赦なく殺せ! 抵抗しなくても殺せ! 奪い犯し殺せっ!!」
「何を!? そんなことは絶対させないっす!」
ライラは傍らにたてかけていた剣を抜いてルディたちに踊りかかった。
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