第33話 商会襲撃

「ゔゔゔーーっ」


 ライラは身体中傷だらけですでに虫の息で事務所の床に横たわっている。仮にもプラチナ級のルディ相手には勝負にならなかった。


「お前がレオンの冒険者メンバーでもあるってやつだな」


「お前、なんなんすっか……」


「レオンから聞いてないか。宿借りの寄生虫を前にしていたって」


「…………クソ野郎」


 ライラのその言葉を聞いてルディはくっくっくっと不気味に笑う。


 商会内部は無茶苦茶に破壊されていた。少しでも金に変えられそうなものはすべて奪われ、ルディの一団の荷馬車に詰め込まれている。物的被害もひどいがそれよりももっと酷いのが人的被害だ。


 商会員でも腕に覚えがあるものはある程度の抵抗は示したが勝負になる訳もなく、商会員たちは一方的に殺戮された。事務所内にはむせ返るような血の匂いが充満している。


 ライラは辺りを見渡しレオン商会の惨状に涙する。

 

「ゔゔゔーー、私の商会がぁーー、みんながーーっ」


 ルディはそのライラの髪の毛をひっぱり無理やりその顔を上げさせる。


「てめぇはレオンの餌だ。後で楽しんでやる。後、事務員、お前は命は助けてやる。レオンにルディが挨拶に来たと伝えろ」


 失禁し、腰を抜かした事務員はうんうんと無言で頷く。


「よし、帰るぞ!」


 この世の地獄を作り出した一団はルディのその言葉でレオン商会を後にしていく。


 



「もうそろそろ帰った方がよくないですかー」


「うーん、もうちょっとこのままでー」


 ぽかぽか陽気の木漏れ日の元、俺たちは横になって昼寝をしていた。キュイも遊びつかれてソフィに抱かれて寝息をたてている。


「怒られますよー」


「うーん、だぶん大丈夫っしょー」


 俺はそう答えながらもたぶんライラに怒られるだろうなとも思う。だがこの幸せな時間を終わりにしたくなかった。後ちょっと……後ちょっと……。


 その時、平原を走ってくる女性を目にする。こんな郊外の平原を女性ひとりで?


「うん? あの人は……」


 俺は起き上がりその女性に目を向ける。見覚えがある……っていうかレオン商会の事務員さんだ。走ってこちらに向かってきているが何か様子がおかしい。


「レオンさん……商会が……商会が……」


 事務員さんはその目を真っ赤に充血させて涙を流しながら、俺に訴えかけてきた。



 

 

「おお、早かったなあ」


 俺たちの姿を確認したルディの言葉。


 王都からバッサーノ公爵領へと通じる街道の途中。のんびりと馬車に揺られてバッサーノ公爵領へと向かっていたルディたち一団に俺たちの早馬は追いついた。


「ゔゔゔーー、レオン申し訳ないっずぅ」


 馬車を止めルディと一緒にぼろぼろな姿で後手を縛られたライラが泣きながら馬車から出てくる。


「領に連れ帰った後に楽しもうと思っていたが丁度いい。お前はこの後レオンの目の前で犯してやる」


 ルディはライラの髪の毛をひっぱりながらその顔を舌でなめる。


「止めろ!」


「うるせぇ! 誰にものをいってやがる? 今はてめぇの元冒険者パーティのルディじゃねえ、バッサーノ公爵の後継者のルディ様だ!」


 ルディが元々公爵の出で勘当されて冒険者をやっていることはメンバー全員知っていた。そしてレオンを追放してからそれぞれ生まれ育った国、領地へと戻りプラチナ級の冒険者という泊を元に第2の人生を歩んでいるということもレオンは把握していた。だからといって突然こんな暴挙に出てくるとは夢にも思っていなかったが。


「公爵なら何をしてもいいと? 罪のない商会員たちを殺害しやがって……てめぇは絶対に許さないっ!!」


「こっちは大義名分はちゃんとあんだよ。お前らが法律を違反したってなぁ」


 ルディは不敵に笑いながらこたえる。


「税金の滞納をしている商会のメンバーは皆殺しにしてもいいと法律に書いているのか?」


「いいんだよ、大義名分だけがあれば。後は抵抗したから殺した! それだけだ!」


 実際には問答無用で虐殺が始まったと聞いている。

 

「ならば俺は罪なき人々を殺したお前たちを討伐してやる!」


「はっ!? 無能な弓師のお前が誰にものいってやがる!」


 まずは……。


 突如として破裂音が響き渡った後に、周囲が煙に包まれる。


 俺は爆発系のマジックアローによってルディたちの周囲に一種の煙幕を発生させた。


「な、なんだぁ!」


 領兵たちは一瞬パニックに陥りそうになるが、


「くだらない」


 ルディの風魔法の暴風によって煙幕は一瞬で消え去る。


「なんのつもり…………そういうことか」


 俺はルディから奪ってきた傷だらけのライラをニーナに任す。


「申し訳ないっす、申し訳ないっす」 


 ライラはぐちゃぐちゃに泣きながらそう繰り返す。


「大丈夫だから……ライラは何も悪くないから……」


「ゔゔゔーーー」


 ライラは咽び泣く。ニーナのヒールの光に包まれたライラを後に、俺はルディたちと再度向き直る。


「いいかお前らは手を出すなよ。しばらく見ないうちに随分と調子にのりやがって。レオン商会だあ? 平民出の無能が勘違いしやがって、思い知らせてやる!」


「………………」


 いつしか辺りには暗雲が垂れ込みはじめていた。

 

 俺は瞠目しルディたちに追放されたあの日の光景を思い出す。復讐を誓ったあの日のことを。


「やっと……やっとだ……」


「はあ? 何いってやがる」


 俺は目を見開く。

 

「やっとお前に思い知らせられる日が来たといってるんだよ! 弓師が無能だと? 経験値貸与を踏み倒しておきながら俺が役立たずだと? 挙句の果てに俺を殺そうとまでしやがって!! お前自身、自らの身を持って思い知れ!!」


「うぅるぅせぇええええええええッ!! ゴミジョブの弓師のクズが勘違いしやがってぇ!! クズのてめぇが俺に思い知らさせるだと? 勘違いするのも大概しやがれクソ野郎がぁ!!」


「勘違いしているのはお前だ!! 大した努力もせずに俺の経験値貸与によってプラチナ級になっておいてどの面下げてそれをいうか! それに……」


 ライラの姿と事務所の惨状とが俺の脳裏に浮かぶ。心の奥底から爆発するかのような怒りの炎が舞い上がる。


「それに俺の何よりも大切な仲間を傷つけるだけでなく殺戮までしたお前ら…………絶対に許さないッ!!!」


「それはこっちの台詞だぁ無能野郎がぁーーッ!! てめぇにはこの世のありとあらゆる苦痛を与えて殺してやるぅッ!! 生きてきたことを後悔させてやるぞぉおおッ!!!!」


 その時、近くで雷が落ちた凄まじい音がしたのを合図にレオンとルディとの戦闘が始まった。

 

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