第28話 不遇王女
「これはまたなんと言ったらいいか……」
王女が住む邸宅は20も30も部屋があろうかという大きな邸宅であるが、庭の手入れはできておらず草は伸び放題。窓もところどころ割れているようにも見えるし、石壁はところどころが剥げてメンテナンスがされてないようだった。この邸宅は今は誰も住んでいない廃墟になっているといわれてもほとんどの人間が信じるだろう。
「よし、じゃあお前ら粗相のないようにな」
無精髭を剃り落とし、ボサボサの髪はロールバックにして整え、ピシッとしたスーツを着込んだまるでこの前とは別人のようなクライブの姿がそこにはあった。やるときゃやる男ってわけか。
入り口の専用の金具でドアをノックする。しばらくしてドアが開かれると白ひげ、白髪をしたダンディーな男性が現れた。執事服を着ている所から執事だろう。
「お待ちしておりました。それではこちらで王女殿下お待ちです」
そういって執事は俺たちを先導する。邸宅の中はところどころ壁紙の痛みなどは見受けられるが、流石に不潔感はなかった。2階にあがり、一室のドアをノックする執事。
「良いわよ!」
部屋の中から元気のよい声が聞こえてくる。
「失礼いたします」
一礼をしながら執事は入室し、俺たちはそれに続く。
部屋の中に入ると両手を腰に当てて仁王立ちをしたリディア王女の姿がそこにはあった。俺たちはリディア王女に向かってひざまづく。
リディア王女は真っ赤なドレスを着込み、薄紫のカールの長髪をしている。将来はきっとすごい美人になるであろう整った顔立ちだ。まるで人形のような白い肌にその表情からは気が強そうな性格があらわれていた。
「皆様、よくおいでになられました! 私がダガール王の8番目の子供の王女ことリディアですわ!」
そこまでリディアは言い終わった所で傍らにいるメイドの方をチラリと盗みみる。メイドは無言でリディアに向かって親指を立ててぐっどポーズを送る。それを見るとリディアはぱぁっと顔を輝かせた。たぶんメイドと事前に挨拶の練習をしていたのだろう。
「この度はこのような機会を設けて頂きまして誠にありがとうございます。今回はここにおります、最近貴族になりましたレオン伯爵とレオン商会の面々を紹介させて頂きたく参りました」
俺たちはそれぞれが簡単に自己紹介の名乗りを上げる。
「執事のカールにメイドのセリオンも良さそうだというから、王女の私が後ろ盾になってあげてもよろしくってよ!」
「経験値貸与に強制執行、いずれもスキルとしては超一級品です。いずれ商人の世界の覇権も取るやもしれないというレベルの神級といってもいいほどのスキル。是非とも後ろ盾をお勧めいたします」
執事のカールはしっかりと事前調査をしているのだろうと思わせる所感を述べる。
「それで私がレオン商会の後ろ盾になったら……どのくらいのお金銭がこちらに入るのですの?」
「まだはっきりとは申し上げられませんが初年度で少なくとも白金貨で数枚程度は固いかという試算となっております」
商会の利益の1割をリディアに献上するという事前の話だった。
「そ、それでカールやセリオンはもう少し楽な生活ができるのかしら?」
リディアは心配そうにカールとセリオンを見やって質問を投げかける。まだお金のことはよく分かっていない、かつ、世間知らずでもあるのだろう。
「カールとセリオンはリディア王女を憂い、無償に近いような給与でいま王女に仕えている」
リディアたちには聞こえないような小さな声でクライブは俺たちに伝える。
「それだけあれば十分でございます。それよりもまだ先に庭や邸宅の修繕を……」
「邸宅やお庭はもっと余裕ができてからでよろしくてよ。カールとセリオンの待遇の改善を最優先にして頂きたいですわ!」
「王女様…………」
リディアのその言葉でカールとセリオンは下を俯く。
「それで、レオン。私ども王族が商会の後援となる場合は王の許可が必要になりましてよ。今度、お父様との接見に私と同席してもらってもよろしくって?」
「かしこまりました」
「それでは今日の接見はここまでといたしますわ」
リディアはそこまで言い終わるとまた傍らのメイドの方をチラリと盗みみる。メイドはまた無言でリディアに向かって親指を立ててぐっどポーズを送る。それを見るとまたリディアはぱぁっと顔を輝かせて嬉しそうにしていた。
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