第27話 作戦会議

「なるほど、経験値貸与に強制執行ときたか。そりゃあ、とんでもねえなあ」


 無精髭を撫でながらクライブは昂揚した表情で呟くように話す。


「それで前の街である程度の見通しがついたんで王都で一気に勝負仕掛けようと思うんすけど。レオンが伯爵になったし、公爵とも渡りもつけたから大丈夫っすかね?」


「甘え、甘えよその考えは。伯爵様っていえば随分高位な身分だ。すいませんね、レオン様、最初は不躾な話し方をしてしまって」


「いえ、気にしないでください。っていうか最初と同じ感じの方が自分としては自然です」


「そうか、じゃあそうしよう」


 あっさりとクライブは前言撤回する。随分とさっぱりした人物のようだ。


「伯爵で公爵に渡りもつけていっても地方だったらそれでもいいがここは王都だ。大公の後ろ盾をもった商会だって存在してる」


「師匠みたいにっすか」


 ライラとクライブ以外の全員が驚いた顔になる。みんなこんなおっさんが、と思っているに違いない。

 

「俺みたいなやる気なしはいいんだよ。大公の後ろ盾をもった商会、表立てはしてないが王族直下ってところもある。それに他国の力をもった商会に、その外交力と経済力をたてに攻勢をかけられたらひとたまりもないぞ」


「むむむ……」


 ライラは唸りながら腕組みをする。


「喉乾いたな。なんか飲むか?」


 そういってクライブが席をたとうとするが、


「あっ、私がやりますよ。正直話についていけそうにないし。キッチンはあちらですね」


「ああ、すまねえな」


 ニーナが気を利かせてみんなの飲み物の用意に席をたった。


「最低でもお前らの活躍によって王が利益を享受する構造にする必要がある」


「王が!」


「王がなのです!」


「きゅぅいーーーー!」


 ライラの後、たぶん分かっていないだろうソフィとキュイも後に続く。


「といっても王と直接パイプを繋げられるような伝手も力も俺には流石にねえ。それに直でパイプをつなげて大儲けしちゃうと逆に強いヘイトを買う可能性もあって危険だ。よって繋ぐのは王の直系」


「そのご子息や王妃っすか……」


「ああ、その中で俺が繋げられる人物が一人だけいる。ただ潰される可能性があるくらいに力は弱い人物だ。なので一種の賭けだな。それでもよければ繋げるが……」


 みんなの視線が俺に集まる。最終判断は俺か……。


「…………お願いします。可能性がある所に賭けたいです」


「そうか」


 ぶっきらぼうなクライブが初めて笑顔をみせた。


「じゃあ、早急につなげる」


「それで俺たちに何かできることは?」


「ん? なんだできることって?」


「いや、やってもらいっぱなしじゃあ、WinWinの関係にはなれないのかなって……」 


 俺のその言葉を聞くとクライブは豪快に笑う。


「いいかレオン、俺が商人で一番大切にしているのは一に信用、二にコネだ。一と二をしっかり守っていれば、それ以外のものは基本、金勘定だけしっかりしときゃ勝手についてくるもんだ。今回はレオンという規格外の人間の信用とコネが得られる。俺としちゃ、プライスレスといっていいぐらいの価値がある」


「レオン、商人がプライスレスっていうのは最大の褒め言葉っすよ」


「まあ、おだてるために使う時もあるがな」


 そういってクライブとライラは二人で笑う。商人だけに通じる笑いのツボだろうか。ソフィもキョトンとしてるしそこまで面白いのかよく分からない。


「まあ何にせよライラ、お前はよくやった! レオンなんて超弩級のスキル保持者を捕まえやがってこの野郎っ!!」


「へへへーー」


 そういってライラは鼻をこすっている。


「おまたせしましたー」


 そこにニーナが飲み物を用意してそれぞれに給してくれる。ミルクもあったようでキュイにはミルクが給された。


「ああーー、二日酔いにはやっぱりコーヒーだな」


 こめかみを抑えながらクライブがいう。


「全くこんなので大公やら王族やらとコネを持ってるんだから信じられないですよね」


 それには同感だった。師匠をこんなの呼ばわりはどうかと思うが、クライブがそれに反応する様子は全くない。

 

「いいんだよ、高貴な方々は庶民のこんな汚え建物にはこねぇから」


 

 後日、早速クライブから連絡が届き、アポが取れたとのことだった。俺たちが繋げられた人物はダガール王の8番目の末子。まだ齢8才だというリディア王女だった。

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