第1章 貴族興亡編
第22話 後継候補
カチャカチャ
室内にはナイフとフォークでの食事の音が響いている。長机の端、上座に座るのはアクセレイ = バッサーノ。バッサーノ公爵家の家長である。そのアクセレイから一番の手前の席に座るのはルディ = バッサーノ。ルディはバッサーノの家の三男坊であった。
「うん、本日のカモのローストはうまいな! 柔らかなカモ肉にソースがよく合う」
「お褒め頂きましてありがとうございます」
給仕長がルディに頭を下げる。
「それで父上」
「……なんだ?」
アクセレイはカモ肉のローストを口の中で楽しみながらルディにこたえる。
「跡継ぎと私の婚約の件についてなんですが」
ルディの隣では長男のブレンダンと次男のエリックが苦々しげな表情をしながら食事を行っている。
「私の婚約者はいつになったらこちらに来ますでしょうか? 後、大公閣下より婚約者を受け入れるのでそろそろ私を正統な後継者としての周知を行ったほうがよいかと」
「婚約者については大公閣下より半年以内と言われておる。周知についてはしっかりと準備を進めている最中だ。心配するな」
ルディはバッサーノ家では三人兄弟の三男坊。本来であれば跡継ぎの予定ではなかった。というよりルディは素行が悪かったため、半ば勘当同然の扱いであった。だがプラチナ級の冒険者にまで成り上がったため勘当を解かれて、次期当主待遇で今は生家に受け入れられている。
「父上、ルディなどを次期当主などと本気なのですか? こいつが幼少期からどんなことをしでかしてきかたお忘れでしょうか?」
ルディは子供のころよりむごいいじめや、女児へのひどいいたずら。大きくなってくると父親の威光をつかって更に好き放題をし、婦女暴行から果には強盗まがいのことまでやり、領民から凄まじい反発が発生して領地が反乱になりかけた。落とし所をつけるためにルディを勘当という処分にしたという経緯があった。
「兄上、男の僻みはみっともないですよ。私は自らの実力でプラチナ級まで上りつめたのです。ずっと父上の庇護下のもと温室でゆくゆくと過ごしてきた兄上たちとは違うのですよ。公爵という身分に甘え、何一つとして努力をしなかった無能と、外にでて名声を勝ち得た優秀な人間が比べものになると思いますか?」
「何ぃ!」
「止めろ! 先生もいらっしゃるのだぞ」
ルディの目の前には唯一の部外者として先生と呼ばれた年配の男が座っている。ボサボサの髪に黒い魔術師のローブを着ている所から魔術師であることは分かるが、豪奢な身なりをしたルディたちとは明らかに異質であった。
「キッイーーッヒッヒッヒ。私は別に構わんよ、存分に兄弟喧嘩をやりたまえ」
先生と呼ばれた男はそう不気味に笑うとまた目の前の食事に取り掛かろうとするが、
「そうだ、アクセレイ伯爵。例の商品の入荷はまだですかな?」
「入荷が遅れておりまして大変申し訳ございません、先生。早急に手配はかけてはいるのですが、なにぶん商品が商品でもありますので……」
「キッイーーッヒッヒッヒ。研究が滞っているのでなるべく早くに頼みたい。私も適材適所は配置しているのだが、どうにもうまくいかん。そちらにはルディ君にせよ、優秀な人材が揃っているようでうらやましいよ」
「もったいないお言葉」
公爵ほどの身分のアクセレイにそのような言葉遣いをさせる、先生と呼ばれるこの男の名はドマーゾという。錬金魔術師をしており、大公家出身で今は訳あってアクセレイが援助をしていた。
「にしても我がバッサーノ家も悲願の大公となれるやもしれぬ。ここが正念場。ゆめゆめよろしく頼むぞ、ルディよ」
その父の言葉にルディは誇らしげに顔を輝かせてこたえる。
「父上、私に全てお任せください。無能で役たたずの兄たちと違って、私に任せて頂ければすべてが上手くいきます!」
「ちっ!」
父親にそう笑顔で爽やかに宣言するルディの隣の兄たちからはあからさまな舌打ちが聞こえてきた。そんな兄たちの様子を無視してルディは続ける。
「男爵から公爵までわがバッサーノ家を一気に引き上げた父上と同様、私も公爵から大公へと身分を上げられるよう尽力させていただきます。大公家から王族の血を引き込み、そして、国で唯一のプラチナ級の冒険者という称号をもっている私ならば必ず成し遂げられると固く信じております!」
「期待しておるぞ、ルディ」
互いに信頼し合うように微笑み合う、ルディとアクセレイ。その横で下を俯いている兄二人。そしてそんな様子を我関せずと次々と給される食事を平らげていくドマーゾと三者三様の様子がそのテーブルでは繰り広げられていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます