第13話 二人っきりの試着室で、学校一の美少女のおっぱいを感じる

 今まさに、おっぱいと対面していた。

 浩紀は巨乳の膨らみを肌で感じているのだ。


 隣街のデパート。水着売り場の試着室。室内が狭いこともあり、夏芽先輩と向き合い、胸同士が当たっていたのだ。

 以前は背中でおっぱいを感じていたのだが、今は正面からおっぱいを感じていた。


「せ、先輩?」

「なに? というか、浩紀って、なんで試着室に入ることにしたの? あれだけ嫌がってたのにさ」

「それは、夢がいたんです」

「夢? 浩紀のクラスメイト?」

「はい。なぜかいたんですよ。だから、面倒ごとになりたくないですし」

「へえ、でも、ここ、隣街でしょ? 出会うなんて奇跡じゃん」

「そうかもしれないですね……」


 笑えない。

 夢と隣街で、しかも、そのデパートの水着売り場で出会うこと自体、神がかっている。

 奇跡過ぎて、苦笑いを浮かべてしまう。


 でも、見間違いかもしれない。

 冷静に考えればそうだ。

 もしかしたら、見間違いかもしれないと、浩紀は自身に言い聞かせていた。

 現実逃避するかのように。


「ねえ、それじゃ、今から着替えるから」

「……え? ええ⁉ ちょっと先輩⁉」


 正気なのか思い、動揺してしまう。


「浩紀? そんなに声出したら、聞こえるんじゃない?」

「……そ、そうですね」

「だったら、静かにして」


 夏芽先輩からの親指と人差し指で、浩紀の口元が軽く摘ままれ、塞がれてしまったのだ。


「バレたくなかったら、静かにしてよね?」


 先輩は口元から指を離す。


「は、はい……言われなくても、わかってますから……」


 気恥ずかし気に小さく返答し、浩紀は押し黙るのだ。


「でも、ちょっと離れてくれない?」

「離れるといっても、本当に少ししか」

「まあ、しょがないっか。着替えづらいけど、このままでね」


 夏芽先輩はなりふり構わず、浩紀と二十センチほどしか離れていない状態で、器用にTシャツを脱ぎ始めたのだ。

 そして、浩紀の視界に、先輩のブラジャーが映る。


 ブラジャーからは巨乳の谷間がハッキリと見えた。

 近距離で巨乳を目撃し、鼻血が出そうになる。

 以前も先輩の谷間は見たことはあったが、あの時は暗い教室で、ハッキリとではなかったのだ。


「ねえ、なにボーッとしてさ。おっぱい、やっぱ好きでしょ?」

「それは……」

「それは?」


 ふと思う。

 浩紀は真面目な人ということで、学校では生活しているのだ。

 今ここで頷いてしまったら、悪手とも呼べる返答の仕方。

 誤魔化した方が断然いい。


「好きですけど。今はそんなことより」

「もう、話をそらすしー」


 先輩は不満げに頬を膨らます。


「それよりも、早く着替えてください……俺、後ろ向いてますから」

「なんで? 着替えているところ直接見てよ♡」

「いや……」


 それ以上に、このままだと下半身の方がどうにかなりそうだ。

 巨乳な上、それを狭い空間で見せつけられている。

 鼻血も出そうで、上も下も色々と緊急事態だった。


「そうやって、真面目ぶるしさー、もっと、見てもいいんだよ」

「俺は真面目なんですから。そういうのは」


 浩紀は先輩から顔をそらすが、ブラジャーから見える巨乳にばかり視線がいってしまう。

 やはり、おっぱいには勝てないかもしれない。

 おっぱいの吸引力というか、魅力を改めて感じた瞬間だった。






「あれ……? さっき、ひろがいたような気がしたんだけどなぁ」


 水着売り場らへんにいる夢は、辺りを見渡していた。

 クラスメイトの浩紀の存在になんとなく気づいていたようだが、見つけられずにいたのだ。


「というか、今日の午後から一緒に会うとか言ってたのに。どうして、ここにいるのかしら? 私の見間違いかな?」


 夢は自分に問いかけ、ちょっとばかし悩みこんでいる。

 見間違いとか、勘違いとかは誰にでもあるのだ。


 まさか、六つ先の街中のデパート内で会うわけがないと。そもそも、水着売り場は、女性専用の場であり、男性である浩紀が一人で訪れるわけがないとも思っていた。


「だよね、ひろなわけないよね……男性のひろがここにいたら、ただの変態だし……。で、でも、女性と一緒だったら……」


 夢の内面で今、不安な想いが渦巻いていた。

 学校一の美少女――夏芽雫先輩と訪れているのではないかと、一瞬、動揺してしまうのだ。


「……」


 夢の心は揺れていた。


 先輩に奪われてしまうんじゃないかという想いが、夢の中で膨れ上がっていく。

 心配な想いを抱き、彼女は握った自身の手を胸に当てて考えていたのだ。


「違うよね……あれは、ひろがじゃないよね?」


 夢はハッキリとしない感情のまま、一旦別の水着売り場へと移動した。

 試着室辺りを歩いていると、聞き覚えのある声が耳に届くのだ。

 それはまさに、浩紀そのもの。


 夢は、ふと、その試着室へと視線を向けた。

 そこは女性専用の試着室。


 まさかいるわけないよねと思いつつも、動揺する心が加速し、怖かったが、気になってしょうがなかった。

 試着室のカーテンの先に、本当に浩紀がいるのか確かめたい衝動にかられたのだ。

 夢は再び、胸元で手を強く握りしめる。






「先輩? ちょっと危ないですって」

「別にいいじゃん。ほら、もっと見てよ♡」

「それは……」

「本当は真面目じゃないんでしょ? エッチなくせにー、もっと間近でおっぱいを見せてあげよっか♡」


 夏芽先輩は二十センチ程度の間隔しかない距離で、浩紀に抱きついてくる。

 二つの膨らみが、浩紀の体を襲う。


 や、ヤバい……。

 おっぱいが――

 至近距離でのおっぱい当てはもう……。

 鼻血と下半身のアレを制御しながらの耐久は辛かった。


「ねえ、もしかしてひろ?」


 刹那、聞き覚えのある声が響く。

 浩紀は何かの間違いだと思った。

 まさか、夢とこんな状態でバレてしまうなんて、最悪なシチュエーション。


 ということは……さっき感じた、あの感覚はやっぱり、夢だったのか。

 今、ようやく、わかった。

 あれは見間違いとかではなく、本当に夢だったと思うと、心臓の鼓動が加速する。


 ど、どうしたらいいんだ?

 ブラジャーを身に付けただけの巨乳な先輩からは抱きつかれているし、カーテンの先には、クラスメイトの夢がいる。


 たった一枚の布によって、現状が維持されている状況。

 生きるか死ぬかの境界線のような現状に、さらに心臓が熱くなるのだ。

 ど、どうすれば……。

 そうこう考えていると――


「だよね? ひろじゃないよね? まさか、ひろがここにいるわけなんてないよね?」


 夢の悲し気な声。

 普段は聞いたことのない、か弱い話し方だった。


「私ね。ひろの事、本当は好きなの。だから……んんッ、というか、なんで、こんなところで、話してるんだろうね。あはは……変だよね。カーテンの先にいる人が赤の他人かもしれないのに……」


 夢は泣きがちな声質で軽く笑い、自身の慰めているようでもあった。


「ごめんさないね。全く知らない人なのに」


 と一言だけ伝えると、夢がどこかへと行く足音が聞こえたのだ。


 立ち去ったのか?


 夢から、まさか好意を抱かれていたなんて。

 ファミレスの時から薄々感じていたが、浩紀は複雑な心境だった。


「浩紀って、モテてるじゃん」

「か、からかわないでくださいよ……」


 先輩からさらに抱きつかれた。


 夢と、今日の午後、どんな顔で向き合えばいいのか、試着室にいる中、常に考えてしまう。

 だがしかし、気を抜いたことで鼻血が出るのだった。


「あ……」

「やっぱ、感じてたじゃん、変態」


 夏芽先輩から、さらに胸を押し当てられるのだった。

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