第27話 夕暮れ時に、友奈と一緒に帰るだけだったんだけど…
東城夢の家を後に、先ほどの曲がり角で友人と別れた。
夕方六時を過ぎた頃合い、一人で道を歩き、自宅へと向かっていたのだ。
夢の料理はそこまで不味いというわけではなく、普通。
昔と比べれば、普通以上に美味しかったのである。
一応、盛り付けの方は妹の友奈から教えてもらった通りのことを伝えておいたので問題はないだろう。
あとは、店屋判断になるかもしれない。
そうこう考えていると――
「お兄さん……?」
優菜の声がする。
背後を振り返ると、そこには制服姿の妹が居た。
「友奈か。どうした? 今帰りか?」
「はい。ちょっと今日は色々あって」
「そっか。じゃあ、一緒に帰るか?」
「はい。私もそのつもりで、話しかけたんですから」
友奈が隣までやってくる。
「お兄さんは、どこかに立ち寄ってきたんですか?」
「立ち寄ったというか、夢の家に少しな」
二人は歩き始める。
「夢姉さんのところ? 何かあったんですか?」
「え、いや、大した理由ではないというか」
「大した理由ではないとは?」
「夢に料理の盛り付けを教えていたというか。友奈から教わったやり方をな」
「料理? もしや、夢姉さんの料理を?」
「そうだよ。簡単に言えばな」
「でしたら、そういえばいいのに。それで味は? どうでしたか?」
友奈は注意深く聞いてくる。
「いや、そこまでは、変な感じじゃなかったけど」
「隠し調味料がなくても?」
「それがなくてもさ。それなりによくなってはいたよ。まあ、料理の見た目だけだと、なんの料理かわからない感じだったけど」
「それほど、摩訶不思議な見た目をしていたということですね」
浩紀は頷く。
「それで、どんな見た目を?」
「毛玉みたいな、そんな感じだよ」
「毛玉って。料理じゃないですよね?」
「そうだな……けど、味の方は普通だったからさ」
「そうですか。でしたら、以前よりもよくなったと。そういうことですね」
友奈は考え込むように右手で自身の頬を触っていた。
「でも、どういう経緯でうまくなったんでしょうか?」
友奈は一旦考え込む姿勢を見せ。
「もしや、あのお店で働いたからという理由でしょうか?」
「……そう、かもしれないな。だとしたら、あの店は凄いな」
「そうですよね。時間があったら、また行ってみましょうか?」
「……気が向いたらな」
浩紀は遠回しな感じで、誤魔化すような話し方をする。
「まあ、夢がバイトしている店屋には後で行くかもしれないとして……今日の夕食はどうするんだ?」
「え? さっき食べてきたんですよね?」
「……そ、そうだが……?」
浩紀はおどおどした感じに、隠すような口ぶり。
「まあ、いいじゃんか」
「……」
隣を歩いている友奈からジーッと見つめられる始末。
「お兄さん、もしや、口直し的な感じに、私の料理を食べようとしてません?」
「……」
浩紀はドキッとした。
足の歩みが若干遅くなる。
「図星ですよね?」
「……はい」
浩紀は素直に頷くように返答した。
妹の感の鋭さからは逃げられないと思ったからである。
「でしたら、夢姉さんに、そのこと伝えておきますから」
「え⁉ ちょっと待って⁉ それは言わないでくれ」
浩紀は立ち止まり、隣にいる友奈と向き合う。
「嘘ですから。冗談です」
「……驚かすなよ。俺もさ、変な言葉をポロッと口にしてしまって、殺されかけたんだからな」
「それはお兄さんが悪いです」
「そうだろうけど……本当にヒヤヒヤしたよ」
浩紀は胸に手を当て、ゆっくりと深呼吸をしたのだ。
浩紀は正面を向き、再び妹と横に並んで歩き出す。
「でも……」
「なに?」
「んん、なんでもないですから」
妹は口を閉ざす。
そして――
「あのね、お兄さん? 話は変わりますけど。今日訪れた場所で、インスタント食品を貰ったんです」
「インスタント? なんの?」
「開けてみないとわかりませんけど。食べてみますか?」
「まあ、ものによるけど。それを今日の夕食にするの?」
「はい。今から作るといっても、結構時間がかかりますから」
「そっか」
でも、友奈が貰ってきたものである。
それなりに美味しいものだろう。
「それを、どこから?」
「委員会活動の一環として、とある場所を訪れていたので。そこからですね」
「委員会? そういえば、友奈って、なんの委員会だっけ?」
「児童委員会ですね」
「そんなのあったかな?」
「私が在籍している委員会は特殊で、教頭先生に言わないと所属できない委員会なんです」
「そうなの?」
「はい。なので、知っている人しか知らないと思いますよ」
「相当、特殊だな……友奈はどこで、そんな委員会を知ったんだ?」
「クラスメイトからですね」
「そう、か……」
へええ、と浩紀は思う。
そもそも、例外な委員会活動があったとは……。
「それでさ、児童委員会って、何をするの?」
「それは、小学校に行って、本の読み聞かせをしたり。児童の世話をするっていう内容ですね」
「そうなんだ。委員会活動なのに、野外活動の方が多いんだな」
「はい。変わってますよね。委員会と部活が混じった感じの活動になるので、通常の委員会にも部活にも所属できないですけど」
友奈は言う。
野外活動が多い印象であり、忙しいようだ。
「じゃあ、俺もやろっかな」
「え?」
「だから、その委員会」
「どうしてですか?」
「なんとなく、友奈が忙しいならさ、一緒にやろうと思って」
「……」
友奈はきょとんとした顔を見せる。
「別にいいですから。そういうのは……私の手伝いをするなら、もう少し、家の方をやってください」
「家の方?」
「はい。お兄さんは、家の方もまともにできていないのに。児童委員会は無理ですから。一応、教頭先生に相談しても、適性があるかどうかを調べられるんです」
「そんなに厳しいのか?」
「はい。別の学校で行いますから、それなりのスキルがないとできないので。私が見る限り……お兄さんには、そんなスキルがないと思います」
「うッ、ちょっと、厳しめな言い方だな」
「それはお兄さんのことを思っての発言です。下手に所属されても困りますので」
「わかった。じゃあ、やめにするよ」
浩紀は肩の荷を下ろした。
「でも、お兄さんには私のことを見てほしいので……」
「ん? 見てほしい?」
「⁉」
友奈は驚き、そしてゆっくりと大人しくなる。
「そうです……今は、私だけを見てください……夢姉さんとか、あの水泳の先輩よりも……」
妹は頬を赤く染め、顔を合わせてくれなくなった。
自分で言っておきながら、相当羞恥心を感じているようだ。
「な、なんで、そんなこと……」
「んッ――、な、なんでもないですからッ」
友奈は顔を向けることなく、背を向け、そのまま自宅まで走り去っていったのだった。
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