第18話 ファミレスに訪れる意外性⁉
それは楽園かもしれない。
だが、それは一瞬の喜び。
すぐに崩れるだろう。
そんな思いを抱きつつも、浩紀は日曜日に、友奈と共にとあるファミレスを訪れていた。
浩紀は今から起きるであろう不穏な空気を感じ、心苦しくなる。
それに反するように、店内は明るかった。
綺麗な内装であり、聞くところによると一年前から営業が始まったらしい。
凄いな。
不安を抱くと同時に、楽園らしさを感じるのだ。
多種多様な膨らみを吟味する。
浩紀の視界には、AからE。それ以上の膨らみを選ぶように見やっていた。
その膨らみは浩紀の心を癒す。
ファミレスに訪れる前に抱いていた不安な感情は、おっぱいにより解消されつつあった。
いくら真面目と言いつつも、内心、おっぱいが好きなのである。
他人から批判されたり、変態扱いされたくないがために、真面目を装っていた。
浩紀は他人から恨まれ、復讐されることを恐れているのだ。
だから、余計にひと際だった言動をしたくないのである。
平凡でいい。
過激なのは、内側だけに閉じ込めておきたかった。
「お兄さん? 鼻の下、伸びてますよ?」
「――⁉」
急な発言。
浩紀は心臓が飛び出しそうになりつつ、体をビクつかせた。
同じテーブル。
浩紀と対面するように席に座っている友奈。
「いや、伸びてないよ」
「伸びてます」
「ど、どこが、伸びてないよ」
浩紀は焦った口調になる。
「その慌てた言動が何よりの証拠ですから。そもそも、お兄さんは嘘をつくのが下手なんです。私、お兄さんが考えていることくらいわかってますし」
「うッ」
浩紀は言葉を詰まらせた。
どうしようもない。
友奈とは昔からの付き合いであり、嘘はつけないと改めて思う。
「それで、お兄さんはどんなエッチなこと。考えてたんですか?」
「なんで、エッチなこと前提なんだよ」
「だって、お兄さんの視線が、店内にいるウェイトレスさんの胸元ばかりにいってましたし」
「うッ」
「やっぱり、お兄さんはわかりやすい人ですね」
「……」
「その表情もそうですけど。本当に嘘つきが下手です。私がわからないとでも?」
「そんなこともバレてんのか……」
「はい。そんなに、胸が?」
「そんなこと、今は言えないというか」
おっぱいの小さい妹の前で、そんなことは言えない。
「もう、そうやってー」
友奈は頬を膨らませ、ちょっとばかし怒って見せるが、その仕草自体が可愛らしく思えてしまう。
おかしくなったのか?
血の繋がった女の子に対し、恋愛感情を抱くなんてと、自身の感情を疑ってしまう。
浩紀は一度瞼を閉じ、深呼吸をする。
冷静にならなければと思い、心を落ち着かせたのだ。
そして、再び、対面上に座る友奈を見やった。
「な、なんです」
急に視線を合わせたことで驚かれてしまった。
「いや、なんでも……」
浩紀も不思議とドキッとした。
友奈の瞳や仕草を見ただけなのに、なぜか心が熱くなったのだ。
やっぱり、おかしい。
妹のことが気になるとか……いや、まさかな。
浩紀はおっぱいが好きなのだ。
できれば、大きい方がいい。
友奈のように貧乳サイズではなく、夏芽先輩のように巨乳サイズの方が好きなのだ。
浩紀は今抱いている思いを押し殺すように、妹が見えないところで拳を強く握る。
その拳で、変な感情を抱いている自分を殴りたくなったが、公共の場で変なことはしたくはない。
拳をゆっくりと落ち着かせた。
「お兄さん? どうしたの? なんか、変だよ」
「変って……」
「いつもだけど」
「それは言うなよ」
浩紀はツッコミを入れるように言う。
変に意識してしまったと思いつつも、テーブルに置かれたメニュー表を見やる。
まだ、二〇分前に頼んだはずの注文の品が届いていなかった。
日曜日。ファミレス店内は混んでいるゆえ、持ってくるのが遅くなっているのかもしれない。
「お兄さん? それにしても変ですよね?」
「え、ああ。そうだな」
ここのファミレスでは、クラスメイトであり、女友達の東城夢がバイトしている。彼女が作る料理は切望的。
料理の形はおかしく、味も不味いということだ。
そんな中、ファミレス店内が、変に騒がしくならないのは不思議だと思う。
「もしかして、クビとか?」
「それもあり得そうですね。でも、夢姉さんは一応バイトに受かっているので、急にクビにはならないかとは思いますけど」
そうこう話していると。
「何がクビ? 私はそんなことないから」
「「え?」」
突然の問いかけに、席に座っている二人は声する方へと視線を向けた。
「というか、私が最初っからクビになるとでも?」
そこに佇む彼女は、ウェイトレス姿の東城夢。
見た目が派手なメイドを連想させるほどの、ピンクと白色の衣装に身を包み込む彼女は、苦笑いを浮かべている。
先ほどのクビ発言に、少々苛立っている様子。
いくら温厚な彼女であったとしても、聞きたくなかったセリフなようだ。
「それで、なんで私がクビにならないといけないのよ」
「あれはなんでもないんだ。気にしないでくれ」
浩紀は否定的に返答した。
「はい。あれは、お兄さんの心の声なので」
「ちょっと待てよ。なんで、急に俺のせい? 全部俺のせいにしないでくれよ」
「お兄さんへの罰ですから」
「いッ」
テーブル下で友奈から足を踏まれてしまう。
しかも強くかかとをねじ込まれる。
「な、なにすんだよ」
「……お兄さんが――」
友奈は不満げに何かを口にしていたが、最後の方は全く聞こえなかった。
もしかすると、先ほどのおっぱいのことを気にしているのかもしれない。
それだったら申し訳ないと思いつつ、謝ろうとする。が、夢がいる前では気まずい。
今謝罪したら、余計に話が拗れそうな気がした。
「今ね、少し時間がかかってるの。だから、これでも食べて待っててね♡」
夢はパフェのようなものを、浩紀と友奈の前のテーブルに置く。
「「こ、これは⁉」」
浩紀と友奈は驚き、パフェを二度見してしまう。
「なに? 私が下手だと思ったの?」
「え、いや……」
「私、食べてみます」
浩紀は怯えた声を出し。その間に、友奈はスプーンを右手に、グラスに入ったパフェを掬っていた。妹はクリームとチョコがついたところを一先ず、口にする。
そして、咀嚼していたのだ。
ど、どうなんだ?
浩紀は友奈を心配そうに見つめつつ、反応を伺う。
「……お、美味しいです」
「え? 嘘だろ……あッ……」
友奈の眩い笑みに、浩紀は失礼な言葉を口にしてしまい、近くに佇む夢から睨まれる。
「でしょ? 友奈ちゃんが美味しいって言ってるでしょ。浩紀も食べてみてくれない?」
「あ、ああ」
不安になりつつも、スプーンを右手にクリームのところを掬い、口に含んだ。
「⁉」
美味しい……。
忖度なしに、心の底から美味しいと口内で感じることができたのだ。
「どう?」
「普通に美味しい」
「でしょ?」
夢は自慢げに言う。
「私、デザート関係は美味しいって言われるのよね。だからね、今日の朝、店長の方からデザート中心に作ってくれって頼みこまれて」
「そうなんだ」
初めて知ったことだ。
一般的な調理はできなくとも、デザートの方が上手だということを。
改めて思う、夢の意外性。
ファミレスが終焉を迎えずに済んだことは、唯一の救いだった。
浩紀は胸を撫でおろしつつ、友奈と共に一先ずパフェを堪能することにしたのだ。
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