第22話 俺と接点を持つ女の子が、この頃…おかしい⁉

 プールでの練習を終え、私服へと着替える浩紀。


 午後の三時を少し過ぎた頃合い。

 今日は振替休日的な感じで学校が休みだったこともあり、午前の十一時頃からプールにいたということになる。


 四時間ほどの練習。

 ずっと泳ぎの練習をしていたというわけでもなく、お昼頃には夏芽先輩と一緒に簡単に食事をしたりと、結構緩い感じのひと時を過ごしていた。


 最初から本気でやって怪我をしてもなんの意味もない。

 大会までにそれなりに泳げるようになること。

 それが今回の目的であり、水泳部のような本格さは、先輩からは求められていないのだ。


「今日はありがとね。明日はどうする?」


 二人はプール施設の外に出る。


「明日ですか……」


 今日は水曜日。明日は木曜日であり、通常通りに授業がある感じだ。

 やるとしたら、夕暮れ時になるのだろうか?


「でも、またプールに行くんですか?」

「ええ、そうよ」

「そろそろ、学校のプールも解放した方が?」

「それはちょっとね。整備もそうだけど、掃除もしないといけないよ?」

「掃除?」

「そうよ。いくら整備しても掃除しなかったら泳げないでしょ?」

「そうですね……あの先輩?」


 プールを後に、地元の道を二人で歩いている最中。浩紀が先輩に問う。


「何かな?」

「他に部員はいないんですか?」

「いないよ」


 即答だった。


「え? どうしてですか? 去年までは普通にいたような」

「そうなんだけどね。なんかね。勧誘しても、部員になってくれた男の子同士がいがみ合っちゃって、面倒になっちゃうのよ」

「それは……」


 多分、先輩が美少女だから、誰が最初に告白するかで揉めているだけなのかもしれない。

 先輩はそろそろ、自分自身が美少女だということを客観的に理解した方がいいと、浩紀は思うのだった。


「それは、なに?」

「え⁉」


 隣を歩いている夏芽先輩が、私服越しに豊満なおっぱいを押し付けてくる。

 先輩の普段着は薄着であり、余計に柔らかく弾力のある胸が感じられるのだ。


「なんというか……その、先輩は美少女だって、分かってるんですか?」

「え? 私が? どうして?」

「いや、人気があるので……」

「そんな気はしないけど? どうせ、おっぱいの影響でしょ?」


 と、先輩は外にいるのに両手でおっぱいを揉んでいるのだ。


「え⁉ 人がいる前では」


 浩紀は忠告する。


「でも、今は誰もいないし。大丈夫じゃん」


 多分、先輩は学校でも自然な感じにおっぱいを揉んでいることもあり、男子生徒からの視線が多いのかもしれない。


 浩紀は頭を抱え込んでしまう。

 今後はもっと大変になるような気がして、ちょっとだけ腹が痛くなってきた。

 この痛みは多分、先ほど食べたアイスの影響ではないだろう。






「ただいま」


 五分ほど前、夏芽先輩とは十字路のところで別れた。

 今、玄関に足を踏み込んでいたのだ。


「お帰り、お兄さん♡」


 出迎えてくれたのは、エプロン姿の妹――友奈。

 今日は花柄のエプロンを身に着けている。


「うん、ただいま」


 浩紀はもう一度、言った。


「お兄さんは、昼食は食べたんですか?」

「食べたよ」

「では、大丈夫そうですね。ずっと運動ばかりだと疲れるでしょうし。ちゃんと食べていたのなら問題はなさそうですね」


 安堵した表情を見せてくれる妹。


「それより、少し疲れたから、少しリビングで休んでもいい?」

「別にいいですけど? 休憩するのでしたらお菓子とかどうですか? 今、おやつの時間ですよね?」

「そうだな」

「私、先ほどからクッキーを作っていたので、どうですか?」

「だったら一応貰うよ」


 浩紀は気軽な感じに返答し、玄関で靴を脱ぎ、家に上がろうとする。

 はああ……結構疲れたな。


 そんな中、友奈は背を向け、クッキーがあるキッチンへと向かう。

 浩紀がふと顔を上げ、妹の背を見た直後、絶句した。


 友奈はただエプロンをしているわけではなかったからだ。

 彼女は全裸だった。

 裸体の上にエプロンをしている。

 しっかりと尻のラインも見え、視界には入れてはいけないものを目の前にドキッとし、絶句した。


「……」


 こ、これは言った方がいいのか?

 浩紀は悩み、戸惑う。


「どうしたんですか?」


 彼女は振り返り、浩紀と視線を合わせてくる。


「え、いや、な、なんでもないというか……」


 ど、どうなってんだ⁉

 確かに以前、下着エプロン姿の友奈を見たことはある。

 今回は、それ以上だった。


「えっと……俺の目が悪いのかな? あはは……」


 まさか、と思う。


 下着姿でも恥じらっていた妹が、まさか、全裸にエプロンを身に着けるわけなんてない。 

 そう何度も、浩紀は心の中で自分に言い聞かせていた。


 自分の目がおかしくなったと思い込み、何も聞かないことにしたのだ。


「目には気を付けてくださいね。目薬とか持ってきましょうか」


 近づいてくる妹。

 友奈の姿をよくよく見てみると、肩のところが露出しており、上の服を着ているような感じである。

 本当に、全裸にエプロンを、と思ってしまう。

 浩紀は頭を抱えそうになってしまい、頭が混乱しそうになった。


「だ、大丈夫だから。俺、リビングの方に行くから、友奈はクッキーを持ってきてくれ」

「はい、わかりました。でも、体には気を付けてくださいね」

「う、うん……」


 浩紀は彼女と視線を合わせることなく、俯きがちにリビングの扉を開け、室内に入り、テレビ近くのソファに腰かけるのだった。






 ソファに座る浩紀は、呆然としていた。


「あれは、何かの見間違いなんだ」


 まさか、友奈があそこまでの変態行為なんてしないはず。

 何度も自己暗示をかけていた。


「お兄さん、私が作ったクッキーはこれです」


 エプロン姿の友奈は手に持っていた皿を、ソファ前のテーブルに置いた。

 出来は良さそうだ。

 友奈が作ってくれたクッキーは動物の顔を模したデザイン。型を取る道具を使って、丁寧に作ったのが、ひしひしと伝わってくる。


「お兄さん、私が食べさせてあげましょうか?」


 友奈は右隣に座り、皿に置かれたライオン型のクッキーを手にする。

 それを浩紀の口元へと運んでくれるのだ。


「俺一人で食べられるし……それとさ。やっぱり、聞きたいことがあって」

「なんでしょうか?」

「友奈って、服を着てるのか?」

「着てないですけど?」

「ん⁉」


 浩紀は硬直し、声を出せなくなる。

 やっぱりか、と心苦しくなった。


 何かの見間違いとか、そうだと思っていたのが、それは違ったらしい。本当に全裸の上に、エプロンを身に着けているようだ。


「でも、なぜに裸エプロン?」

「それは暑かったので、エアコンをつけるより、全裸になった方がいいかと思いまして」

「だからって……」

「でも、まだ六月に入ったばかりですよ? エアコンをつけるのは早いです」

「そうだけど。そんなところにケチらなくても……親に見られたらどうするんだよ」

「それは大丈夫。今日は夜遅くなるって連絡がきましたので」

「だとしても……はああ……」


 浩紀は頭を抱えるように軽くため息をつくのだった。


 学校で、外でも、自宅でも。

 どこもかしこもおかしい。


 浩紀の課題は日に日に増えているような気がしてならなかった。

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