第21話 先輩の水着姿は魅力的すぎる…
水着が一番似合う場所。それは海だと思う。
だが、まだ海開きシーズンではない。
他に泳げるところと言えば、プールなのだ。
本日は夏芽先輩とプールに入る予定である。
今まさに、浩紀は水着に着替え終わったところ。
施設内の通路を通り、プールサイドへと向かう。
「遅いよ、浩紀ー」
プールサイドから先輩の声が響いている。
視線を向けると、この前購入した水着を身に纏った先輩の姿があったのだ。
遠目でもわかるほどに、夏芽先輩のおっぱいは大きかった。
プールには他のお客もいて、特に男性らが、先輩の水着姿に興味深々といった感じの視線を向けている。
このままでは夏芽先輩が危ないと思い、浩紀はすぐさま先輩の元へ駆け寄っていく。
「せ、先輩は、もう少し――」
「なに? 別にいいじゃん」
先輩はあまり聞く耳を持っていないらしい。
それどころか、ビキニという布一枚越しに、豊満な胸を押し付けてきたのである。
んッ⁉
で、デカい。
それがわかるほどだ。
平常心を保つことができなくなり、浩紀はどぎまぎしてしまうのだった。
夏芽先輩とプールで関わるのは、今日が初めてである。
だが、水着姿の先輩を見るのは初めてではない。
学校内では何度もスク水姿などを見たことはあった。けど、ビキニは、前回と今回で、二回。デパートの試着室のことを考えれば、合計三回になるのかもしれない。
先輩は浩紀から距離をとるなり、周りに多くのお客がいる中で、ビキニから見える谷間を強調してきたのだ。
高校生とは思えないほど、白く通った巨乳に視線を奪われてしまう。
辺りにいる男性らも、先輩の立ち姿に見惚れているところがあった。
このままだと、後で色々と面倒になりそうな予感しかしない。
「せ、先輩? ちょっと別のところに行きませんか?」
「別のところ? どこ?」
「まあ一先ず、どこでもいいですけど……」
浩紀は現状を気にかけながら、先輩の左手を強引な形で掴み、引っ張って進むのだった。
……というか、は、恥ずかしいな……。
自発的に、女の子をリードしたことなんてない。
自分でも何をしてるんだろうと思うほどに、胸が熱くなっていくのだった。
「ねえ浩紀って。もっと私の手を握ってたいの?」
「ん⁉ ち、違いますよ」
浩紀は少し歩いたところで、咄嗟に夏芽先輩から手を離す。
「でも、浩紀の方から引っ張ってくれて嬉しかったけどね」
水着姿の先輩は明るい表情ではにかんでくれる。
彼女の笑顔は見ていて嫌な感じはしない。
年上の存在なのに、守ってあげたくなる。
そんな複雑な心境。
プールの端っこらへんに佇む二人。
近くからはまだ、男性らの視線を感じた。
先輩は本当に気づいていないのだろうか?
それとも、慣れすぎていて気にしないだけなのか?
そこらへんはわからないものの、他の男性に奪われたくないという思いが、浩紀の中で湧き上がってきていた。
「ねえ、ここに突っ立っていてもしょうがないし、泳がない?」
「え?」
「だって、今日は泳ぐ練習って目的もあるからね。浩紀には、大会に参加してもらわないといけなくなったし。すぐに泳いでって言っても泳げないでしょ?」
「まあ、そうですね。ですが、学校でもよかったのでは?」
「それはそうなんだけどさ。まあ、いいじゃん。私、浩紀と一緒に市民プールに来てみたかったし。それに、プールの整備がまだ整っていないというか。そんな感じなの」
「整備が整っていないんですか? それは学校に確認した方が」
「まあ、いいから。それより、早くプールに入ろ、ねッ」
先輩は浩紀の背後に回るなり、背中を押して、プールに入るように指示を出してくるのだ。
「いや、俺は。まだ」
「いいから。どうしても嫌なの?」
「……」
過去のトラウマがある。
心が揺らいでいるのだ。
中学時代の暗い記憶。
思い出したくもないものの、それから逃げてばかりでは前には進めないとも思う。
「ね、お願い。入ってくれるなら、おっぱいをもっと見せるけど?」
「え⁉」
浩紀が嬉しさを感じ、気を抜いた瞬間、急に背を押され、飛び込む形になった。
「うわッ‼」
辺りに水しぶきが巻き起こる。
急にプールの水に体全体が包み込まれ、冷たく感じてしまう。
「んッ⁉」
浩紀は飛び上がるように、水の中から顔を出す。
「な、何するんですか」
浩紀はプールサイドに佇む先輩を見、大声を出す。
「いいじゃん、やっとプールに入れたじゃない」
「そ、そうですけど……」
プールに入るのなんて何年も前だ。
けど、中学の頃の奴に負けるのも嫌だった。
浩紀が背後から視線を感じ、振り返る。
すると、多くの男性から睨まれていたのだ。
先ほど先輩に対し、強い口調で言ってしまったことで睨まれているのだろう。
怖い……。
巨乳の誘惑により、周りにいる男性らがマインドコントロールされ、浩紀は現状に抗うことはしなかった。余計な発言をすることなく、先輩の意見に従うのである。
「ねえ、泳ご?」
夏芽先輩は積極的にプールの中に入ってくる。
「私は泳ぐから、浩紀も泳いでみてよ」
「俺は……」
「そんなんだと、いつまで経っても泳げないよ? さ、早くね」
先輩は泳ぎ始めたのである。
何度も泳いでいるだけあって、体の動かし方にも違和を感じさせないほど。
周りにいる男性らは先輩の泳ぎに見惚れているのだ。
先輩にだけ泳がせていたら、自分がここに来た意味がなくなってしまうと思い、決心を固めた。
浩紀は泳ぎ始める。
ぎこちない感じになった。
何年もの間、プールにも海にも訪れたことなんてなかったからだ。
プールというものから距離を置き、高校二年の今に至るまで人生を歩んできた。
勇気を持つことだって必要だ。
浩紀はひたすら泳ぐ。
たとえ下手だったとしても、練習だと思い、泳ぎ続けるのだった。
十メートルほどのところで立ち止まる。
少しだけ、休憩する形になった。
急に泳ぐと体がうまく馴染んでいないことに痛いほど気づかされてしまう。
でも、意外と、泳げないことはない。
久しぶりだったものの、水の心地よさを感じることができた。
「あれ? もう終わり?」
泳ぐことを中断した先輩が歩いて近づいてくる。
「はい。今日はただの練習でいいんですよね?」
「ええ、そうだけど。少しの練習だとよくないじゃん。浩紀は大会までの間、毎日プールに通う?」
「そうですね」
「じゃあ、やる気になったってこと?」
「はい。少しずつやってみます。まだ、体の感覚が戻るまでは少し変な泳ぎになると思いますけど。それでもいいですか?」
浩紀は伺うように問う。
「いいに決まってんじゃん。浩紀が泳ぐ気になっただけでも、私嬉しいしさ」
浩紀も嬉しかった。
おっぱいの大きい先輩から褒められて悪い気はしない。
むしろ、胸が高ぶってくる。
もう少しだけ、泳ぎたくなってきた。
水を体で感じていたいと思い始めるのだ。
「浩紀? もう少し泳ぐ? それとも、少し休憩する?」
「いいえ。もう少し泳ぎます」
「そう来なくちゃね。じゃあ、競争できる?」
「それは難しいですけど。ゆっくりなら」
「OK、分かったわ。じゃ、あっちの方まで泳ぐところまでやってみましょ」
夏芽先輩が指さすのは、二十五メートル先の方。
二十五メートルであれば、学校のプールと同じ距離である。
それくらいならば、できると思う。
浩紀は気合を入れ、精神を集中させた。
大丈夫だと、自分自身に言い聞かせ、隣にいた先輩とほぼ同時に泳ぎ始めたのである。
最初の内はスピードが同じであったとしても、次第に距離が広がっていく。
最終的には、先輩に先を行かれてしまい、追いつけない距離まで広がってしまう。
浩紀は諦めたくなるものの、苦しい感情をグッと堪え、ひたすら最後まで泳ぎ続けた。
「私の方が最初ねッ」
先輩が到着した声を出すと、その五秒後に浩紀が目的地へと到達したのだった。
「はあ、はああ……」
浩紀は呼吸を整える。
「けど、何とか出来たじゃん。浩紀」
「……そうですね」
「これからも頑張りなよ」
「はい」
浩紀は嬉しさを隠しながら、真面目な表情で頷くのだった。
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