第12話 夏芽先輩とのデート当日だけど、色々と焦ることが多いのだが…

 土曜日。何とか、休みになったものの、朝から悠長に過ごしている場合ではない。

 急いで支度をしなければならないのだ。


 浩紀はベッドから飛び起きるなり、休日用の服装に着替え、部屋を出、階段を駆け下りた。


「おはよう、友奈」

「おはようございます、お兄さん。今日はやけに早いですね」

「ああ。結構、スケジュールが詰め込んでいてな」

「そうですか。それは良かったですね」


 友奈が笑顔を見せてくれた。

 妹は下着姿ではなかったが、いつもの自宅用の服装の上に、動物のイラストがプリントされた感じのエプロンを身に付けていたのだ。


「急ぐのでしたら、簡単に食事を済ませる感じですか?」

「まあ、そうかもな」


 浩紀は椅子を引き、そこに座る。


「では、ご準備できていますので」


 と、事前に察していたかのように、トレーにのった、ご飯、味噌汁、鮭。それに、おしんこが少々。

 鮭は昨日の残りものらしい。


 普段ならもう少し豪勢なのだが、軽食ということで、そこのことを踏まえ、友奈が気を利かせてくれたようだ。

 本当に出来た妹だと思う。


 しっかりとしていて、なんでも先のことを読み。常に行動する姿勢に、兄でありながら浩紀は、友奈に感銘を受けてしまうほどだ。


「では、私は今日、お風呂掃除とかしておきますから」

「うん、頼んだ」


 浩紀は簡単に言い、箸を持ち、急いで食事をした。

 ふと思う。

 なんか、何かに似ていると感じ、浩紀は食べる手を止めたのだ。


 ……ああ、夫婦みたいなのか……。

 そう感じてしまったのだ。


 いや、まさかな。

 血の繋がった妹に対して、恋愛感情とか……。

 ましてや、夫婦関係になるとかありえない。


 だがしかし、不思議とドキッとした。

 この前からなのだが、友奈のことを意識してしまうのだ。

 夕食を食べさせてもらった時から、妹の愛らしさに気づけたような気がする。


 モヤモヤとした感情を抱きつつ、再び箸を手に食事を続けた。

 五分程度で簡易的に済ませ、出かける他の準備をし、風呂場近くにいる友奈に聞こえるように、行ってくると挨拶をした後、自宅を出たのである。






 向かう先は、街中。

 ただ、隣街にあるデパートゆえ、地元の電車に乗り、三十分ほど移動しなければいけないのだ。

 だから、朝は早く支度をし、外出したわけである。


 が、それだけではない。

 午前は夏芽先輩と付き合い、午後からは東城夢の料理の手伝いがあるのだ。


 午後までに色々と済ませ、昼過ぎには夢の家まで向かわなければいけない。

 今は夏芽先輩のところに行くのが先である。


 浩紀は駅のホームに走って到着すると、丁度良く電車がやってきた。

 それに乗車し、車内の人らを見つつ、空いてる席に腰かけたのだ。


 土曜日ということもあり、会社に向かうサラリーマンや、学校に通う同世代の人らもいない。

 どちらかというと、隣街とかに遊びに行く人らが多い印象。

 車内にいる浩紀は、電車の窓から見える景色を眺めながら、三十分という時間を過ごすのだった。


 長い時間揺られ、六つ先の駅のホームで降り、駅中を歩き、外に出るのだ。

 そこには、普段は見ないような光景が広がっていた。

 なんせ、地元の街中よりも綺麗であり、多くの人らが行きかっている。新鮮さを感じていたのだ。


「あとは、デパートだよな。確か……」


 浩紀はスマホを片手に地図アプリを開く。

 昨日のうちに、どの道順で進んでいけばいいのか、大まかに決めてはいた。

 その通りに、街中を歩くのだ。


 多くの人とすれ違う中、夏芽先輩の事ばかり考えてしまう。

 今日はデパートで先輩の水着を購入するのだ。

 一体、どんな水着が似合うのかと、浩紀は思考を練っていた。


 街中の中心部に近づいた頃合い、聞き覚えのある声が聞こえる。

 ふと顔を上げ、正面へと視線を向けると、数メートル先で、私服姿の夏芽雫先輩が大きく振っていたのだ。


 先輩、到着するの、早いな。

 と内心思いつつ、近づいていく。


 刹那、嫌な感覚が、浩紀の肌を襲う。

 な、なんだ?

 浩紀は辺りをキョロキョロと見渡す。

 が、知っている人すらいなかったのだ。


 よくわからない感覚。

 何もないとわかると、再び先輩のところへと向かうことにした。


「ん? どうしたの浩紀?」

「え、いいえ、なんでもないです」

「そっか。じゃ、行こッ」


 夏芽先輩の服装はあっさりとしている。

 上は青色のTシャツに、下は黒色のジーンズ。

 ショートヘアの髪はいつも通りに、綺麗に整っている感じだ。

 ただ、制服でもなく、水着姿でもないため、そこまで洒落た身だしなみではなかった。


 学校一の美少女だったら、もう少し容姿にこだわると思っていたのだが、そうではないらしい。

 浩紀はショックで、しょんぼりしてしまったのだ。


 けど、服の胸辺りを押し出すほどの巨乳は、健在。

 薄い服装だからこそ、余計におっぱいが協調された感じである。


 そんなことを思う中、デパートに到着し、店内に入るなり、水着フロアまでエレベーターで移動するのだ。


 エレベーターの扉が開かれると、そこには女性のお客が多いといった印象。

 華やかさがあり、ほぼ女性しかいない環境に、浩紀は心臓の鼓動が高まり始めていた。


「まあ、休みの日だしさ。ちょっと手を繋ごうよ」

「え、え⁉」


 浩紀は驚きの声を出してしまう。


「なに? 嫌なの?」

「そ、そんなわけないです」

「じゃ、いいじゃん。じゃ、行こ。水着売り場は、あっちの方なんだよねー」


 夏芽先輩は強引な感じに、手を引っ張り、男性である浩紀をリードし始めるのだ。

 どっちが女性で、男性かわからなくなってしまう。


 そんなこんなで、夏らしい広告などが張られた水着売り場に到着すると。先輩はビキニ系の水着があるところまで浩紀を誘導するのだ。


「ね、私にどんな水着が似合うと思う?」 


 夏芽先輩は、多種多様なビキニの中から数点ほど探し、浩紀に見せつけてくるのだ。

 女性用の下着をそこまでまじまじと見たことがなかったこともあり、内面から湧き上がる、熱量の高ぶりを抑えられなくなる。


「どうしたの? 顔真っ赤だよ。もしかして、暑い?」

「そ、そうじゃないです」

「へえー、もしかしてさ。意識してんの?」


 先輩は悪戯っぽくはにかむ。

 こんなところで、変に意識させることをしないでほしいと思う。

 どきまぎした感情に、さらに胸が熱くなっていく。


「そうだ、試着室で直接着替えているところをみせてあげよっか」

「い、いいです」

「OKってこと?」

「……ち、違いますけど……」


 浩紀はおどおどした口調になる。

 夏芽先輩は強引に手を引き、試着室まで誘導するのだ。


「もう入りなよ」


 試着室に入るように促す先輩。だが、女性が多いところで、夏芽先輩と一緒に試着室に入るのは勇気がいるのだ。

 浩紀が迷っていると、ふと街中で感じた感覚を、今まさに肌で感じることになった。


 そして、辺りを見渡すと、同じ水着売り場で、水着を選んでいた東城夢の姿が視界に入るのだ。

 な、なんで、夢が⁉


 ここにいたら危ないと思い、しょうがないと思いつつも、隠れるように夏芽先輩がいる試着室に入るのだった。

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