第2話 誰もいない教室で、水着姿の先輩と二人っきり⁉

 おっぱいは大きい方がいい。

 それを今、間近に、学校の昼休み時間中に感じることができていた。


「ねえ、私の事、知ってる?」

「……は、はい」


 浩紀は頷いた。

 知ってるも何も、ショートヘアスタイルで、おっぱいの大きい先輩は学校一の美少女なのだ。

 どう考えても知らないということは、まずない。


 浩紀は別校舎の二階にある教室の床に押し倒され、先輩が覆いかぶさるような態勢。

 距離感が狭く、今、心臓の鼓動が高鳴り始めていた。


 先輩が着用している水着は、一般的なスク水である。

 高校生とは思えないほどのおっぱいの大きさは、スク水でさらに強調されている感じだ。


 ヤバいって……。

 おっぱいが大きすぎて、スク水からでも先輩の谷間をハッキリと見ることができてしまう。


 今、多くの人が通う学校。

 そんな昼休みの時間帯に、殆どの人がいない教室で二人っきり。


 先輩は学校で一番の美少女と言われるほどの存在。

 そんな彼女と同じ時間を過ごせるのは、最高のひと時である。


 こんなシチュエーションが誰かにバレてしまっては、学校に通う同性から酷いバッシングを受けてしまうだろう。


 そうなってしまったら、真面目でまかり通っている浩紀の学校生活は一気に崩れ落ちる。それだけは何としても阻止なければならない。


「せ、先輩……?」

「ちょっと静かにして」


 先輩は人差し指で、浩紀の口元を抑える。


「な、なんでですか?」


 浩紀は彼女の指の柔らかさを痛感していた。


「誰かの足音が聞こえるの」

「え?」


 浩紀には聞こえなかったが、声を出さずにいると、僅かにだが、遠くの方から誰かの足音が聞こえる。

 先輩は耳がいいのだろう。


「……行ったみたいね。これで一安心と」


 先輩は意味深気な表情を浮かべ、なぜか顔を近づけてくるのだ。


 な、なに⁉

 浩紀が無言で驚いていると、先輩はニヤッと愛想良く笑い、咄嗟に立ち上がった。


「あははは、もしかして、意識しちゃった?」

「え? ……俺、弄ばれていただけ?」

「そうじゃないけど。なんか、君の驚く顔、面白いね」

「……」


 先輩からただ遊ばれただけかもしれない。


 けど、彼女の悪戯っぽい笑みを見ると、怒る気にはなれなかった。

 それほど、先輩は美少女なのだ。


 仰向けになっていた浩紀は、頬を赤らめながら上体を起こした。






「それで、その……なんで先輩はこの教室で着替えてたんですか?」

「知りたい?」

「まあ、知れるのでしたら……」


 浩紀は彼女の顔をまじまじと見ることはできなかった。

 恥ずかしいという想いが募る。


 まさか、学校で一番の美少女――夏芽雫先輩と関わることになるなんて思いもしなかったからだ。


 どういう風に対応をすればいいのかわからず、戸惑い、口調が変になる。浩紀は裏声になってしまった感じだ。


「それはね、君が来るのを待ってたから」

「待ってたって? どういうこと、ですか?」


 戸惑いがちに伺う。


「浩紀って、担任の先生から段ボールを渡されたでしょ?」

「はい」

「それ、私が頼んだの。それをここに持ってくるようにね。先生には、浩紀に渡してってお願いしたし」

「なんで、そんな遠回しなことを?」

「なんでだと思う?」

「……焦らさないでくださいよ」

「私は君の困っているところを見たいの」

「趣味悪いですね……」


 見た目の雰囲気から想像できないほどに蠱惑的な人らしい。


「でも、浩紀にだけだし」

「え?」

「なんでもない。というか、浩紀って、どこの部活にも入ってないよね?」

「そうですけど……なんで、そんなことを聞くんですか?」

「それはね。君が暇だったら、私のマネージャーになってほしいなって思って」

「マネージャー……? 水泳部のですか?」

「そうだけど。でも、ちょっと違うかな。まあ、簡単に言うとね、個人的なマネージャーってこと」

「個人的……⁉ それって⁉」

「私と一緒に、色々な練習ってこと」


 先輩は水着姿のまま、床に座っている浩紀に近づいてくる。そして、前かがみになる先輩の谷間がハッキリと見てしまう。

 というか、デカいって……。


 今日の朝、友人の真司からグラビア誌を見せてもらったが、あの雑誌に載っていたモデルの女の子よりも、おっぱいが大きい。

 今まで直接見たことのなかったおっぱいが、視線のすぐ先に存在するのだ。


 興奮で下半身が咄嗟に反応してしまう。

 浩紀が戸惑っていると――


「これで、契約完了ね♡」

「え、ど、どういうことですか?」

「だって、さっき、私のおっぱいを見たでしょ?」

「それは、先輩が」

「もうこれは契約済み。おっぱいを見せたんだから、付き合ってもらうからね。私のマネージャーとして」

「マネージャー? 俺、水泳は……」


 浩紀は水泳には消極的だ。

 できることらやりたくない。


「ねえ、その表情。断る気?」

「本当にマネージャーにならないとダメなんでしょうか?」

「そうね。拒否するなら浩紀は変態って、私から広めるけど? それ、嫌でしょ?」

「あ、当たり前ですよ……そんなの嫌に決まってますから……」

「じゃあ、私の意見に従ってよね? マネージャーになるくらい容易いでしょ? 部活もやってないんだしさ」

「そ、そうですね……」

「じゃ、ほら、立って」


 先輩から手を指し伸ばされ、浩紀は先輩の手を掴み、その場に立ち上がるのだった。






「はああ……なんか、大変なことになったなぁ……」


 浩紀は先輩とのやり取りを終えた後、学校の裏庭で一人、昼食をとっていた。

 食事を済ませ、教室に戻った浩紀は、クラスメイトからの視線を感じてしまう。

 特に、同性からの視線が痛く突き刺さるのだ。


「なあ、浩紀?」

「え……?」


 殆ど会話したことのない、クラスメイトの男子から右肩を軽く叩かれ、話しかけられる。


「お前さ、夏芽先輩と付き合うことになったとか本当なのか?」

「え……いや、その……え? ちょっとどういうこと?」


 浩紀は動揺を隠せない。

 なぜ、先ほどの先輩との会話が漏洩しているのだろうか?


「俺もさ、それ聞きたいんだが?」


 別の男子からも、黒い瞳を向けられ、話しかけられるのだ。


「いやあぁ……どうだろうね、あはは……それ、何かの勘違いじゃないかなぁ?」


 浩紀は笑って、その場を乗り切ろうとする。


「おい、浩紀。朝、話した時は、グラビア誌にも興味示さなかったくせに。裏の方では、隠れてやってることはやってんだな。見損なったぜ、浩紀」


 友人の真司からも、批判的な意見が飛び交う。


 朝までは普通に会話していたのに。

 今ではクラスの皆が、敵に感じてしまうほどだ。


「ちょっと待ってくれ。それは誤解だ。本当に何もない。あの先輩とは何もないんだ。信じてくれッ」


 浩紀は堂々と告げた。


「……本当か?」

「本当だッ」


 何度も浩紀は訴え続けたのだ。

 次第に、クラスメイトらも大人しくなっていく。


 実際のところ、恋愛関係で浮いた話がなに一つない浩紀が、なんの前触れもなく、学校一の美少女――夏芽雫先輩と付き合うわけがない。

 皆、そう思うようになったのだろう。


 浩紀と先輩が付き合うことになった話は、単なる噂だったらしく。皆、浩紀みたいな奴が、先輩と接点を持つわけないよなと言い、散らばるように離れていくのだった。


 そう思われるのも、逆につらい。


「そういうことか、浩紀。疑って悪かったな。お詫びに放課後どこかに行くか」


 浩紀は頷く。


 が、友人と会話している際、席に座っているクラスメイトの東城夢から、その光景をジーっと見られていたのだった。

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