侑花とリシア10

 ある晴れた日の事。

 侑花は寂れたデパートの屋上で、クマの着ぐるみを装着し、寄ってくる子供達に風船を配っていた。

 当然、疑問がある。

 なぜ侑花がアルバイトをしているのか。

 なぜクマの着ぐるみなのか。

 

「うう……臭いが、熱が……」

 侑花、頑張るのだよ。

 

 着ぐるみは消毒されているとはいえ、染み付いた臭いは中々消えないのだ。


「重い……あっ、こらっ! 下から覗くなっ!」

 

 子供たちは無邪気だ。無邪気な分、無下には出来ない。

 侑花は小声で悪態をつきつつ、丁寧に風船を配っていた。


 ねーねー、侑花。

「なにさ」

 なんで着ぐるみ? もうちょい楽なバイトあるでしょうに。

「これが一番時給が高かった。それに、ケーキ分のカロリーを消費しておかないと、後々色々維持出来ない」

 は?

「数量限定。ワンホール一括。予約したからにはお金が必要。ついでに摂取予定のカロリーの消費も必要。一石二鳥なのよ」

 侑花……計画って言葉、知ってる?

「結果は後から付いてくる、が信条なの!」

 ……左様で……。

 

 侑花の、食に対する執念に敬意を払いつつ、呆れるしかないリシアだった。

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