侑花とリシア4

 さ~てと。侑花さん?

「……何? 何か用? 私、忙しいんだけど」

 りゃりゃ? ご機嫌が斜めだね?

「……別にそんなんじゃないけど」


 侑花は今、自分の机に向かい、必死になって数式を解いていた。

 明日まで提出しなければならない課題を、つい五分前に思い出したのだ。

 つまり、機嫌が悪い、というか切羽詰まっていた。

 

 ああ、宿題ね。じゃ頑張って。あたしは寝る。

「冷たい……。明日の録画予約消してやる……」

 ああ、ええ、そそそそうだ、応援するよ、応援。ガンバれ! 侑花!

「心がこもってない……」

 そんなこと言ったって、じゃ、どうすりゃいいのよ、あたしゃ。

「家に帰ってみれば、珍しくお母さんがお友達からケーキ貰ってきたとかで、それが美味しいし、食べたら食べたで眠くなるし」

 侑花はホント素直だね。

「で、起きたらこんな時間だし」

 九時回ってるね。夜更かしは体に良くないよ。

「でも、宿題があったのを思い出すし!」

 おお。思い出しただけマシなんじゃない?

「リシア、あんたまでそんなことを言う?」

 他に誰が言いましたでしょう?

「ええ、ええ、そうでしょうとも。誰も何も言いませんでしたよ!」

 侑花、誰に怒ってるの?

「誰にも怒ってない! リシアもリシアよ。どうして覚えておいてくれなかったの!」

 そんな無茶なー。

 

 リシアの言う通り、無茶ぶりにも程がある。

 

「よりによって積分なんて……何よこの『インテグラル』って。イスカン○ルなら知ってるのに……」

 ……侑花はたまに、よく分からないことを知っているね。

「この変な曲線の意味が分からない。大体こんな数式が解けたからって、それが何の役に立つっての? 一体何に使うの? 美味しい物が食べられるわけでもなし、いい夢が見られるわけでもなし」

 まぁ、解けなきゃ夢見は悪いと思うけど。

「リシア」

 は?

「あんた、魔女でしょ?」

 は? いや、そうだね。うん。

「魔女なら、色々知っているでしょう? 魔法陣とかさ」

 それは魔法使いだよ。魔女が知ってることじゃないよ。

「それはともかく」

 何で話題を横に置くの?

「魔女なら、こんな数式のひとつやふたつ、ぱぱっと解ける魔法を知ってるはず」

 何で断定なの?

「……お願いリシアぁ。今度のお小遣いで新作DVD買っていいからぁ」

 どれどれ。是非とも、見せて頂きましょう。


 とにかくアニメに弱いリシアだった。

 

「どう?」

 うん、これは簡単。

「ほぉー」

 値の代入にコツがあるのだよ。やり方さえ分かれば、後は応用。でもね。

「うん?」

 コツは教える。でも、解くのは侑花。

「……ええー?」

 これは、宿題──まぁこれは試練かな、侑花の場合。

「試練?」

 そ。自分で解決しないと、前に進めない。人間はそうやって知識を得て、色んな問題を解決してきた、この世界で希有な存在なのだよ。

「何かいいこと言ったつもり?」

 いやー。そうでもないかな。

「……でもまぁ、リシアの言いたいことは分かった」

 侑花は素直だなぁ。前の時もそうだったよ。みんな素直だと、世界は平和なのにね〜。

「前? 私の前の人?」

 まぁ、それは機会があったら話すよ。今は目の前の問題を解くのが先。

「そうね。で、コツは?」

 よしよし。コツはね……。

「おお! なるほど!」

 ここをこうしてさ、この値がここに。

「あ、そっか」


 こうして、ちょっとだけ頭が良くなった侑花だった。

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