侑花とリシア9

 侑花っ、侑花!

「……何よこんな時間に」


 只今の時刻は午前二時。当然、侑花は爆睡の真っ最中だった。


「何なのよぉ……。寝不足は美容に悪いし充実した学校生活は送れないしで、色々大変なのにぃ……」

 今日だったのよ、今日!

「だから、何が?」

 星喰い蟲。

「虫? そんなの無視、無視」


 侑花は、再び布団に潜り込んだ。


「って、虫ーっ!」


 飛び起きた。


「虫、虫虫〜〜っ! 殺虫剤どこだっ!」

 違うよ、侑花。落ち着くのだよ。星喰い蟲だよ。

「だから虫でしょっ! この部屋にいるのねっ! 抹殺してやるっ!」

 侑花、落ち着いて。

「何を落ち着けって、え?」


 侑花は我が目を疑った。

 部屋の中に、無数の光が瞬いていた。

 まるで星空のようだった。


「な……何、コレ?」

 今日は、星喰い蟲の繁殖活動の日だったのだよ。あたしも忘れてた。何せ五〇年に一度のことなのだよ。

「五〇年……」


 侑花は、幻想的なその情景に目を奪われた。


「……きれいだね」

 でしょ?

「光の色が違うんだねー」

 そう。それぞれ微妙に光る色が違う。この蟲達はこの瞬間だけ、こっちの世界に存在を示すことが出来るのだよ。

「ふーん」

 で、この光が消えたら、蟲は世界から消える。

「え? 何で? 繁殖活動じゃないの?」

 この光は、それが終わった後の喜びを示すための輝き。世界の理を力一杯ねじ曲げて光ってる。

「……儚いんだね」

 うん。


 蟲達の輝きは徐々にその数を減らし、数分経たずに、部屋は闇を取り戻した。


「終わり?」

 うん。終わった。次はまた五〇年後だね。

「五〇年かぁ。スケールが大きいね。また見られるかな?」

 侑花が生きてれば。

「七〇前の婆さんになってるね。その時は」

 そだね。

「でも……もう一度だけ、見たいな」

 うん。

「リシア」

 うん?

「ありがとう」

 うにゃ……どう致しまして。


 一瞬の儚い輝きを目に焼き付け、侑花は布団に潜り込んだ。

 もう一度、この輝きを見よう。

 そう思いながら、微睡みに落ちたのだった。

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