侑花とリシア8

 予想に反して、屋上は生徒が沢山いた。

 とても「告白」されるような雰囲気ではなかった。


「ちょっとイメージと違う」

 そだねぇ。

「こう、なんて言うか、人気のない屋上で『好きです!』とか言われるのかと思ってた」

 あたしもそれ期待してた。けど、ちょっと違うね。

「大体、差出人が不明な時点で、どうにもならん」


 侑花は、とりあえず屋上を一周した。

 だが、特に誰にも声をかけられなかった。


「……これは、いたずらか? いじめか?」

 探してみる?

「誰を?」

 差出人。

「……よぉし、乗りかかった船だ。やってもらおうじゃない」

 なんか言葉の用法が違う気がするけど。

「なんか文句あんの?」

 はいはい。じゃ、侑花、手紙を手に。


 侑花が手紙(さっきまではラブレターだった)をポケットから出し、手に持った。


「リシア、いいよー」

 はいよ。んじゃそのままでね。


 手紙が薄く光り、小さな光球が浮かび出た。その光球は、空高く舞い上がり、その後、ふらふらと校舎の中に消えた。


「探しに行ったのかな?」

 ちょっと待っててね。──あ。

「なになに? どうしたの?」

 うーん。

「見つかったんでしょ?」

 見つかりはしたんだけどね。

「誰?」

 同じクラスの高崎君と山下さん。

「なんで二人いるの。しかも男女」

 侑花。

「何よ」

 気を鎮めて、落ち着いて聞くのだよ?


 侑花は、大きく深呼吸した。


「……おし、鎮まった」

 ええとだね。高崎君は、山下さんに告白しようとラブレターを出した。その時、間違えて侑花の靴入れに入れてしまった。ここまではいい?

「……高崎のヤロー」

 で、呼び出して告白するはずが、山下さんに『先に』告白されたみたいなのだよ。

「……ということは?」

 そもそもが相思相愛で、山下さんの行動力が高崎君を上回って、高崎君はラブレター渡す相手を間違えた。これが真相。

「む、それは……つまり」

 侑花は骨折り損なわけです。


 ちょっとした沈黙があった。


「ちょっとでも期待した私がバカだった! しかも相手間違えるとはいい度胸だ! くそー、ぶちこわしてやる! こんな——」

 ちょいちょい。

「何よ!」

 人の恋路を邪魔すると、馬に蹴られるのだよ。

「でも、私の腹の虫が治まらないっ!」

 おまじないしてあげるから。

「何のまじないよ」

 恋の。

「……」

 

 侑花はしばし考え。


「いや、それはダメ」

 何で?

「こう言うのは、自分で見つけるものだと思う。まじないとか、そんなのに頼ってちゃダメ」

 うん。侑花ならそう言うと思ったよ。

「あーあ。でも、悔しいなぁ」

 大丈夫だよ。そのうち、きっと……。


 昼休みが終わって誰もいなくなった屋上で、一人(二人?)黄昏れる侑花とリシアだった。

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