リシアのお仕事その2 〜序〜
侑花達が、魔女ジャニス(高梨祐一)およびその使い魔であるシロと、公園で戯れてから、はや二週間が過ぎた。
ジャニスに頼まれはしたけど、正直気が乗らないのだよ。
「なら受けなきゃいいのに」
そうも言ってられないのですよ、これが。
「何で?」
ある意味、あたしにも責任があるのよですよ、実は。
「へ? じゃぁジャニスがリシアに依頼した件、リシアが諸悪の根源だったってこと?」
諸悪……。
リシアは絶句した。よりによって、とんでもなく悪い方向性に持って行かれようとしている。これは、誤解を解かねばならない。
い、いや侑花。違うのだよ。
「何が? 諸悪が? 根源が?」
侑花がおかしな選択肢を提示した。
どっちも違う……。
「そなの?」
……逆に訊く。何であたしが『諸悪の根源』だと思い込んだの?
「だぁってさぁ。『魔女』が出てくると、ろくな事がない。私にとっては悪い印象しかないのよ?」
……ぅ。
「言葉に詰まったわね? 今」
い、いやそのう。
「言い訳はいい。とっとと白状なさい!」
侑花は語気を強め、頭の中のボンクラ魔女を詰問した。
実は……。
リシアは観念し、事と次第を吐き出した。
要はこういうことらしい。
九百年前。
ジャニスとリシアが、その宿主共々共同生活を送っていた時のこと。
「おいこら共同生活って何だ?」
結婚していたのだよ。
「何ですとーっ!」
驚愕の事実だった。
別に不思議でもなんでもないよ。『たまたま』、魔女を宿す者同士が結婚しただけ。
「ま、まぁ……おっさんに入ってた魔女もいたくらいだし、今ジャニスが入ってる祐一みたいなこともあるわね、確かに」
そそ。
「しかし結婚とは……」
侑花は花の一六歳。結婚などと言うキーワードは、全然実感が湧かない。
とにかく、その時のことが今回の依頼につながるわけなのだよ。
「おお、そだそだ。すっかり忘れるところだった。で、何があったのよ、そん時」
当時は今と違って、時間の進み方が大らかだったよ。
語り始めたリシアは、九百年前に思いを馳せた。
辺り一面の牧草。
そこに群れをなす羊。
その脇で畑を耕す人びと。
当時のリシアとジャニスの宿主は、農民だった。
そこに押し寄せてきたのは、野蛮な連中だったよ。
「野蛮?」
そ。剣とか弓持って、あたしらに襲いかかってきた。
リシア達は、労働の対価として、大地の恵みを得て暮らしていた。
でも連中は違った。
奪う。
襲う。
あの連中の目には、羊もあたしらも同じに見えたんだと思う。
「……」
侑花は、声が出ない。
平和の国日本で、そんな凶行は起こらない。
想像を絶する世界にリシアはいたのだ。
「そ、それでどうしたの?」
そう尋ねるがやっとだ。
魔法を使ったよ。
村長が切り裂かれるのを見て、ジャニスがキレた。村長はあたしらの宿主の結婚の際の仲人を勤めてくれた人だったよ。
あたしは止めようとしたんだけど、あの時はジャニスの方が力が上だった。
結果、異界の主、ドラゴンがこの世界に転移した。
「ド、ドラゴン!」
そう。
口から火を噴き、鉤爪でなぎ払い、あっという間だったよ。
壮絶だ。
そしてドラゴンは野蛮な連中を無に帰し、今度は村人を襲い始めた。
「ええっ! それジャニスが召喚したんでしょ?」
そうなのだよ。ただ、召喚しただけで制御はできない。だからあたしは必死で止めた。でも間に合わなかった……。
侑花の中でリシアが沈黙した。
侑花は目を閉じた。
途端、そこにはリシアが見た光景が映った。
「え、何これ!」
目を覆いたくなる。
目を背けたくなる。
目を逸らしたくなる。
そんな血なまぐさい光景が、侑花の目に飛び込んできた。
結局村人は全滅したのだよ。そしてジャニスとあたしは、ドラゴンを封印した。
「ふ、封印?」
そう。元の世界に戻せなかったのだよ。あのドラゴンは人の血を吸いすぎた。もう手に負えなかった……。
「それが今回蘇った?」
え? 侑花なんでそれを。
「そこまで聞いたら予想できる。封印が解けかかっているのね?」
え……う、うん。
リシアは歯切れが悪い。
「まだ何か隠してるな? 言えっ!」
う……実は……。
再封印には、実体を持った魔女が、その力を行使しなければならない。
つまり今回は、侑花の体をリシアが借り、それで再封印をしなければいけないのだ。
「私の体……ぐむー。でもそれしないと被害者が出るんでしょ?」
うん。
「じゃー、仕方ない。協力するよ」
こういう時、すぱっと割り切るのが侑花の美点だ。
それと、も一個あるのだよ。
「何よー、人がせっかく覚悟完了したのにー」
ジャニスの宿主にも手伝ってもらわないといけない。
「祐一に?」
そう。
侑花は嫌な予感がした。
「ねぇリシア」
なに、かな?
「再封印の方法って、具体的にどうするの?」
ええとですね。
「なぜ敬語になった!」
侑花は確信した。
「私と祐一になにさせる気だっ!」
リシアは押し黙り、意を決してその方法を侑花に開示した。
キス、するのだよ。
「は──?」
ドラゴンの再封印。
それには、魔女を宿した者同士の接吻が必要だった。
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