侑花とリシア14

「たまにはさぁ」

 なんですか、いきなり。

「ぱーっといきたいのよ」

 ぱーっと?

「そ」


 リシアは首をひねった(と思う)。

 たまにぱーっといきたい。

 何度繰り返しても、その言葉が意味するものが何なのか、不明だった。


 どこに行きたいの?

「どこでもいいのよー」

 侑花さん、なんか投げ遣りになってませんか?

「聞いてよ、リシアー」


 侑花は、昨日返してもらったばかりのテストの結果を机に広げた。


 ……あんまり見たことない点数だね。

「……取った私も吃驚よ」

 これ、お母さんに見せたら大変なことになるね?

「それで今、悪巧みを思案中」


 侑花は、半泣きで机に乗った『テストの結果』を眺めつつ、必死で言い訳を考えていた。

 正攻法ではヤられる。

 どうにかして、裏をかく必要がある。

 しかし、だ。

「ウ……」

 う?

「ウチのお母さんを出し抜くなんて無理だぁーーーっ!」


 侑花は泣き叫んだ。そして、その後の我が身を憂いた。


 侑花、選択肢は二つあるよ。

「えー? 二つしかないの?」

 贅沢は敵だよ。

「うぅ……」


 侑花はぐすぐす言いながら、リシアの二択を受け入れた。


 一つ。なかったことにする。この机の上の『テスト』は、あたしが消し去る。

「リシアは、ウチのお母さんの交友範囲を見誤ってる。お母さんが『テスト』のことを知らないわけない」

 うむむ……。じゃ二つ目。正直に申し出る。今後二度とこんな点は取りませんと誓約書を書く。

「その後私は殺される……」


 幾度となくその光景を見てきたリシアは、二択と言いつつも、お母さんに素直に首を差し出した方が、その後が楽なことを知っている。

 だが知っているからこそ、何とか侑花を助けたい。


 よ、よし、じゃ禁断の三つ目!


 侑花の顔に笑みが戻った。


「リシアっ! ありがとうっ!」

 いえいえ、どう致しましてなのだよ。

「で、どんな案なの、それ?」

 『テスト』の結果は、この世界の理を、どう捻じ曲げても変わらない。それと、お母さんが既に知っていることも変わらない。

「そ、それで?」

 あたしが替わりに叱られる。

「ほえ?」

 侑花の身代わりになると言うておるのだよ。


 一瞬の間が開いた。


「それでいいの?」

 うん。今回だけだよ。

「いや、それなら私が叱られる。リシアが叱られる道理がない。この点を取ったのは私だし」

 

 再び、侑花の目から涙が溢れる。


「その替わり、終わったらぱーっとどっか行こう!」

 おお! 侑花がそれでいいなら、あたしもOKなのだよー!

「さぁいくぞー!」

 おおー!


 数時間後。

 げっそり、ぐったりとした侑花が、足取りも重く部屋に戻ってきた。

 

 ……侑花。

「……もうね、私、疲れたよ……」

 あたしも……。


 恐るべし侑花の母の説教は、内蔵されてるリシアにまでダメージを与えたのだ。


 今回のは、今までの中で一番キたよ……。

「私も……」

 とりあえず、体力の回復をしよう。ね?

「そうね……」


 とにかくこれ以上(以下?)の点は取るまいと心に誓う、侑花とリシアだった。

 

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