リシアのお仕事その2 〜旅立ち〜
「気が乗らない」
侑花が機嫌悪そうに眉をひそめ、小さくボヤいた。
「なんで私が、アイツと、キ、キキキ……」
キス?
「そうそれ! しなきゃなんないのよ」
この世に復活しつつある、最凶最悪の幻獣、ドラゴン。
それは九百年もの永きに渡り、二人の魔女の力で封じられてきた。
だがその封印も効力を失いつつあり、復活は目前に迫っている。
世のため人のため、もう一度封印を施す必要がある。
今度は、そう簡単に破られないような、それはそれは強大な封印。
そのためには、多少の犠牲はやむを得ない。
そう。
やむを得ないのだ。
……と、いうわけなのだよ。
「恣意的に強調したって、ヤなのはヤなの!」
侑花はやり場のない怒りをリシアにぶつけた。遠慮なく。
「だいたい再封印なんて、始めから分かってたんじゃないの? それを九百年経ったことを理由にして。その場しのぎなんて、阿呆のすることだ!」
……うぅ。
「ってリシアを責めてもどうにもならないけどさ」
ああ、侑花様っ!
「でも納得できん!」
ああ……。
そんなこんなで、ドラゴンが封印されている場所、まだ人類が未踏の地へ赴く侑花とリシアだった。
「ちょっと待て! 祐一とジャニスはどしたっ!」
あ、ええと、先に行ってるって。
「あのヤロー……。こういう時は手と手を取り合って仲間意識を高め合って困難にぶちあたってより結束を深めるという、ファンタジーのルールを無視したなー!」
いや、それは大分歪んでると思うのですが。
「それより、移動はどうすんの? まさか徒歩じゃないでしょうね? 徒歩なら箒使った方がよくない?」
箒は休暇中なのだよ。
「……」
魔女の箒が休暇中。
侑花がそんなことを許すはずがなかった。
「箒! 出てこい! 相手になってやる!」
侑花、侑花! それはやめたほうがいいよ。
「何でよっ!」
相手はあの『箒』なのだよ? ヘソを曲げたらもう当面戻ることのない頑固さ。それに、箒の先っぽでチクチクされると地味に痛いのだよ。
「そん時はリシアがその責めを受ければいいじゃん!」
そんなご無体なー。
実体を持たないが、何となく涙ぐむリシアだった。
「で! 箒が使えない以上、目的地までどんだけかかんのよ? 私だって、学校とか、お昼寝とか、夕ご飯とか、とにかく色々忙しいのよ?」
徒歩だと半年くらい。
「ほら半年も……って半年ぃ? その間学校はどうすんのよ?」
そこは大丈夫。仮にもこのリシアは魔女なのだよ?
「魔女なのは知ってる。でもその自信はどっから湧いてくるの?」
自信って……。魔女といえば魔法。転移魔法を使って、目的地まで一瞬なのだよ。
「それを早く言いなさい!」
えー……?
もう端から見たら、一人で大騒ぎしているようにしか見えない侑花だった。
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