侑花とリシア3

 足取りも軽く、家路に就く侑花がいた。今にも鼻歌まじりにスキップしそうな様相だ。

 さては美味しい物を食べたか、もしくはこれから食べるか。

 そのどちらかに違いない。


 あっ! 侑花っ! ちょっと止まるのだよっ!


 リシアが突然叫び(と言っても頭の中で)、驚いた侑花は、本当にスキップしかけた足を止めた、が、そう簡単に勢いは止まらない。

 転びかけ、辛うじて踏みとどまった。


 おお、侑花。結構運動神経すごいね〜。

「何をおお? ケンカ売ってんの?」

 いえいえ、滅相もない。


 一触即発の雰囲気だったが、身一つではケンカにもならない。端から見れば、侑花が一人で・・・怒鳴り散らしているようにしか見えない。

 

「で、何なのよ」


 ため息を吐き出しつつ、侑花はリシアを問いただす。そこには、諦めというか、悟りの境地に至ったような、そんな感情が見え隠れした。


 いやほら、そこに伝説の薬草が生えているのだよ。

「へ?」

 まぁ、人間には見えないんだけどね〜。

「えー……」


 ちょっとがっかりする侑花。

 もちろんリシアは気にも留めない。


 だからさ、ちょっと体貸して? 摘むから。

「それ、ホントに薬草摘むだけ? 他に何もしない? 私を騙してない?」

 そんな人聞きの悪い。私が侑花を騙したことがあった?

「たくさんある」

 

 侑花は即答した。コンマ五秒も迷わない。今までの経験則がそうさせていた。


 んんー……。


 こうもすっぱり言われては、返す言葉がない。


「ついでに言わせて貰えば、私の部屋で薬草を栽培するの止めて欲しい」

 なんで〜? 結構便利なのだよ? それよか、侑花、見えてるの?

「見えないけど、何かガサガサするのよね。部屋が」

 あー。それは多分、薬草じゃないと思う。

「え?」

 多分、星喰い蟲だね。

「む、虫ぃ?」


 侑花は露骨に渋面を浮かべた。


「見えない虫なんて気色わる〜……」

 んー。そこは大丈夫。人間には見えないし、触れないし。刺さないし。


 それでも、いるのは確かなようだ。


「……帰ったらすぐ殺虫剤撒く」

 えー、大丈夫だって。別に悪さはしない蟲だよ? 悪い星を食べてくれる。運気が上昇するよ?

「そなの?」

 だから、私が侑花を騙したことがあった?

「リシア」

 ん?

「あんたね、自分の胸に手を当てて、よぉーく思い出して見なさいよ。私がお店に並んでまでして手に入れた、今評判のショートケーキ。冷蔵庫の奥の奥に隠してたのに。それを知ってるのは、私とあんただけ。で、私が食べてないのに、ケーキはいつの間にか消えてなくなった。これがどういうことか分かる?」

 んんー……? 何のことか、どうも分からない〜?


 リシアはすっとぼけた。


「ほほー。リシアさん。そう来ますか」

 いや、あたしには何のことかさっぱりなのだよ。

「いいのよ? あんたがこっそり予約録画してるレコーダを粉みじんに粉砕しても」


 気配だけで分かる。リシアが凍り付いた。


 それだけは! すみません! あたしがやりました! ごめんなさい!


 どうやっても、侑花には頭が上がらないリシアだった。

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