侑花とリシア2

 んー。

 とっとと起きないかなー。

 

 リシアは、侑花の頭の中でぶつくさ文句を垂れていた。

 宿主たる神坂侑花こうさか ゆかは大変なお寝坊さんで、祝日や日曜日ともなると、午前中いっぱいは寝ている。

 育ち盛りなのかも知れないが、その間、リシアは指一本動かせない(そもそも自分の体ではないのだ)。

 つまり。

 リシアは侑花が起きない限り、限りなく退屈なのだ。

 

 しゃーない。

 起こすか。

 

 リシアは侑花の手を『借りて』、侑花の頬を思いっきりつねった。


「おひゃっ! ひてててっ!」


 侑花は、自分の・・・右手で自分の頬をつねられ、その痛みで飛び起きた。

 どうにもおかしな光景だった。


 やっと起きたよ、この寝坊娘は。

「リシア! あんた、勝手に人の手使わないでよ!」


 侑花は、リシアに奪われた手の主導権を奪い返し、自分の頬をさすった。


「もう……せっかくの日曜なのにぃ……」

 そんなこと言ってもさ。いい年した若者が、そのせっかくの日曜とやらの半分を、無駄に過ごすのはどうかと思うのだよ?

「いいじゃない! いつまでどこまで寝ていようが、私の勝手でしょう?」

 そうはいかない。侑花の体は、あたしの体でもあるのだよ。

「それこそあんたの勝手でしょう? 私はまだ眠いの!」


 実はこれには理由がある。


「大体さ。あんたが借りてきたDVD! 何なの? 全部ロボットアニメじゃない!」


 リシアが、侑花の体を使って借りてきた大量のDVD。それらを『一晩で』『一気に』観ようとしなければ、侑花の機嫌も寝不足も、多少はマシだったかも知れない。


 やー……、それは。ちゃんと理由があるのだよ〜。


 侑花は布団を跳ね上げ、ベッドの上にどっかと座り、腕を組んだ。ついでに足も組んだ。


「では伺いましょう? その理由とやらを?」


 侑花の言葉には、一切の容赦が感じられない。

 リシアは、一瞬怯んだが(見えないが)、気を取り直し、たどたどしく言い訳を口にした。 


 ええとだね。

「うん」


 間髪入れずに侑花が返答。リシアは、すっかり侑花の雰囲気に飲まれているようだ。


 主人公がだね? 幼い頃に生き別れた幼なじみと、再会するシーンがあるのだよ?

「で?」

 え、ええと……ところがそのシーンは、敵と味方に別れてて……。

「で?」


 侑花の声が大きくなるにつれ、リシアの声は小さくなり、さらには語尾が続かない。


 こう、何というか、劇的な……。

「で?」

 ……はいすみません、もうしません……。

 

 *


 結局、侑花には頭が上がらないリシアなのだった。

 

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