リシアの休日 前編

 その日、侑花は日曜日だと言うのに、六時に目が覚めた。

 いつもなら、午前中は微睡の中のはずだ。なのに、もう一度寝直そうとしたが、どうしても眠れない。


「うー……こんなに早起きして……もったいない」

 早起きは三文の得、だっけ? とにかく儲けものなのだよ?


 ボヤく侑花に、慰めのつもりか、リシアが妙なことわざを引用した。


「……なんでリシアが日本のことわざ知ってんのよ?」

 魔女の知識の奥深さなのだよ。いいでしょ?

「とにかく、朝から面倒なこと言われても対応出来ない」

 まぁ、諦めて起きたら?

「起きる? 私が? こんな朝早く?」

 珍しいこともあるものだ、とか言われそうだね?

「……それ、褒めてる? 貶してる?」

 うーん。両方、かな。

「……」


 侑花は、諦めてベッドから這い出た。

 

「あ〜あ。こんなに寝やすい天気なのに」


 カーテンを薄く開け、差し込む陽光に目を細める侑花。

 しかしその表情は、どこか恨めしそうだ。

 どうしても、布団が恋しい。

 だが、目がバッチリと冴えてしまった。


 休日の午前中。朝ごはんを食べたら、散歩して、それで用事はお終い。

 時間があってもする事がない。

 と、ここで侑花が変なアイディアを思いついた。

 早起きしたせいで、思考回路が正常稼働していないのかも知れない。

 

「ねね。リシア。いいこと思いついた」

 なーにー?

「今日一日、私の体をリシアに貸す。で、私は、えーと、自分の体の中で? まったり過ごす。もしかしたら、眠れるかも」

 それが思いついたいいこと?

「リシアもたまには自由に動きたいでしょ?」

 そりゃ、そうですけどね。

「おし。じゃ決まり。私はのんびり過ごす。後は宜しく!」

 はいはい。じゃ借りるねー。

 

 侑花の瞳の色が変色し、リシアと侑花が切り替わった。

 

「んじゃ、早速出かける」

 んじゃ、私は寝る。

 

 そういうことになった。

 

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