リシアのお仕事その2 〜封印 中編〜
四人(?)は、不気味な威圧感を漂わせる巨大な構造物を前に、ひそひそと作戦会議を繰り広げていた。
<そいでさ。ジャニス、あんたなんかアイディアないの?>
<ボクに言われても困るよ。元々ここには『ドラゴン』の再封印のために来たわけだし>
「おいこら、ジャニス。そこまでして私と祐一をキスさせたいのか?」
<いや、別にさせたいわけじゃないけどさ>
「僕だって、急にそんなこと言われても困る」
「私だって困る」
<
<リシア、あんたね……>
祐一に宿る魔女ジャニスは、イントネーションだけでため息を表現した。
<ボクだってアレを壊せるものならそうしてるよ。それが出来ない理由は、リシア、あんたが一番知ってるでしょ?>
<はえ? そ、そでしたっけ?>
「リシア、あんたね……」
侑花は、図らずもジャニスと同じ台詞を吐き、思いっきりため息をついた。
「忘れた? 一番重要なことを? 私のファースト・キスがかかってんだぞ!」
<いやいやいいや、そんなこと言われてもなのだよ>
「何だ侑花、初めてだったのか」
祐一がおかしな感想を漏らした。
「そ れ が 何 か ?」
侑花は一語一語区切りながら、祐一を睨みつけた。
「何でもないです、はい……」
侑花に気圧され、縮こまる祐一だった。
<とにかくあの石棺、ああ、あの物体のことね。あれは破壊出来ない。ドラゴンが復活するよりそっちの方が面倒なんだよ>
「どゆこと?」
<あれは『魔力の源』を集結させたモノなんだ。それを『破壊』したら、ここら辺一帯が塵になる>
「ず、随分物騒だわね……」
<だからさ、今の石棺に被せる形でまた『封印』しないといけないんだ>
「でもそれだと、八百年か九百年先にまた被せないといけないんでしょう?」
<うーん。そうなんだよねー>
後ろ頭を掻いているジャニスが見えるようだった。
「そういえばさ」
侑花が何かを思いついたようだ。
「ドラゴンの寿命ってどんだけあるの?」
<お、侑花、持久戦に持ち込むつもりだね?>
「そ。再封印するにしても、その前にドラゴンが死んじゃえばもう封印は必要なくなる。九百年経ってるから、そろそろじゃないの? 何となくだけど」
ジャニスを除く一同は、侑花の発言に期待を寄せた。
<ところが、それダメなんだ>
「え、どして?」
<封印は『魔力の源』だってさっき言ったよね?>
「うん」
<あの石棺はドラゴンに常に『魔力』を与えている。だから石棺自体に寿命はあっても、ドラゴンの寿命はないのと同じなんだ>
八方塞がりだった。
<ね? 分かったでしょ? 再封印以外手段はない。これは、九百年前に石棺タイプの封印を施した時に決まっていたことなんだ>
侑花はジャニスのその発言を聞いて、何か引っかかった。
石棺。目の前には巨大な石棺があり、そこにはドラゴンが封印されている。
そしてジャニスは『石棺タイプの封印』と言った。
それはつまり『石棺タイプ』以外の封印があるということだ。
「ね、ジャニス」
<ん? 何?>
「封印って『石棺タイプ』以外に何があるの?」
<んんー?>
「以前リシアが戦った魔女、空間に穴が開いて、そこに飲み込まれかけてた。もしそんな封印があるなら、そっちの方が良くない?」
一同は、侑花の言葉に固まった。
<おお! 侑花、それナイスアイディアなのだよ!>
<そっか、亜空間に放り出しちゃえば魔力の供給もないし、いずれ力尽きる。侑花、すごいよ!>
「……僕には君たちの頭の中がすごいとしか言えない……」
祐一がボソッと呟いたが黙殺された。
「それならキスする必要ないよね? ね?」
<そうだそうだ。乙女のキスなのだよ? そう簡単にはあげられないのだよ!>
「僕だって、好きでもない女の子のキスなんて嫌だ」
「なんだとう!」
なぜかキレる侑花だった。
<あーでも『石棺の封印』は、しといた方がいいかも>
祐一と侑花がギャーギャーわめいている最中、ジャニスは冷静だった。
<どして?>
<あれ見て>
石棺を見ると、亀裂が何箇所か入り、その亀裂は見る間に大きくなっていった。
<……あたしら、何かしたかな?>
<二人も魔女がいるんだよ? 魔力の干渉を受けて『封印』に影響を与えたってとこじゃないかな?>
<まずい、よね?>
<そうだね>
二人の魔女の方針が固まる中、侑花と祐一はまだ口論が続いていた。
「だから、会ったばっかりの女の子で、しかもガサツで!」
「あーっ! 今、ガサツって言ったな! そっちこそ背低いじゃんよ! 私と同じくらいしかないし!」
「ぐ……背はこれから伸びるんだよ!」
<侑花、祐一、ちょっとタンマ!>
犬も食わないような口論に、リシアが割って入った。
「何よリシア! あんた祐一の味方すんの?」
<違うってば。アレ見てアレ>
リシアが侑花の右手の制御を奪い、指し示した先には亀裂が入りまくり、ミシミシと音を立てる『石棺』があった。
「りゃ?」
封印が崩れかかってる。どうもあたしらがここに来たせいで、魔力が干渉したみたいなのだよ。
リシアとジャニスは『混線モード』を解除し、それぞれの宿主に状況を説明した。
「え、それって『亜空間封印』の前にとりあえず『石棺封印』を直さないとダメってこと?」
そうなのだよ。それにあんまり時間がないよ。
「ジャニス、時間がないのは分かったけど……ホントにやらなきゃダメなのか?」
祐一が言っているのは『キス』のことだ。
ジャニスは、祐一に『キス』の必要性を淡々と説明した。
曰く。
魔法陣の中に、二人の魔女を宿した人間が立つこと。
そして、封印を発動させるきっかけとして、彼らの接吻が必要なこと。
なぜ接吻かと言うと、二つの力の融合と放出がなされ、初めて『石棺』という『封印』の形になる。そのためにはお互いの意思が一つでなければならない。そのもっともイメージしやすい方法が『接吻』だと言うのだ。
「うぅ……それは分かったけどさ……」
祐一は侑花をちらりと見た。
「な、何よ」
侑花は特に理由もなく狼狽えた。
「時間がないのも分かってるんだ」
「え?」
「で、相手を選ぶような余裕もない。魔女を宿した人間なんかそう簡単に見つからない。そういうことなんだろ?」
侑花。
「何よ」
祐一はもう覚悟を完了しているのだよ。後は侑花次第。
「……分かってるわよ」
とはいえ、花も恥じらう(?)乙女の侑花だ。
そう簡単には割り切れない。
だが。
時間は待ってはくれなかった。
『石棺』に一際大きな亀裂が走り、一部が崩壊を始めた。
そして、いくつかの破片が、侑花たちに向かって吹っ飛んできた。
「侑花っ! 危ないっ!」
それが、そこで侑花が聞いた、祐一の最後の言葉になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます