侑花とリシアと祐一2
「さぁ、何をおごってくれるのかなー?」
ほくほく顔で、侑花が言う。
「……食べるの前提かよ」
主であるはずの自分が部屋の床に座り、なぜか祐一のベッドの上でくつろぐ侑花を眺めつつ、げんなりした顔でどこか不機嫌そうな声色でボヤく。
原因は、明白だった。
部屋に入るやいなや、祐一の唯一のリラックスの場であるベッドを占領し、開口一番、飯をおごれと要求する侑花。
それともう一つ。
「体張ってまで助けたのにさ」
わざと聞こえないように(あるいは聞こえるように)呟いてみる。せめてもの抵抗だ。
「それはちゃんとご褒美あげたでしょ?」
意外にも侑花が反応を示した。
「ん? あの花束のこと?」
「ええと、や、いやその。そじゃなくて」
侑花は
だが悲しいかな、祐一は気を失っていたので
侑花はじっと祐一を見つめた。睨み付けるように。
祐一は覿面にたじろいだ。
──はて? 僕は何かしたっけ?
祐一の頭の上に乗っているシロは、訳知り顔で小さくあくびをした。
人間同士の、特に異性間の話なんざ興味なし。
ヒゲの角度がそんな雰囲気だった。
*
<ね、ジャニス>
<何? リシア?>
<祐一に『キス』のこと、話してないの?>
<んんーとね? 祐一が覚えてるのは、崩壊しかかった石棺と破片だけ。後は気失ってたからなー>
<あー……なるほど……>
<ボクから言ってもいいんだけど……それもどうかなと思ってさ……?>
<んー。そだね>
つまり祐一は、侑花に『キス』されたことを知らない。
結果として、ドラゴンが亜空間に放り投げられたことしか知らない。
少々かわいそうかも知れない。と思うだけのリシアとジャニスだった。
*
「とにかく」
侑花は、ない胸を張った。
「……今、余計な事考えなかった?」
じっと睨む侑花。
即座に明後日を向く祐一。
侑花は、大きくため息をついた。
「まぁいいわ……とにかく、出かける用意をなさい」
命令形だった。
「何で僕が侑花に指図されなきゃいけないのさ」
「男は黙って動く。言い訳しない」
「……何かとてつもない理不尽さを感じるんですが?」
「約束は守ってもらわないと」
「ね、ねージャニス? 約束って?」
祐一は、ジャニスに助けを求めた。
が、答えが返ってこない。
「み、見捨てられた……。ジャニス……信じてたのに……」
呆然とする祐一。
その様子を見て、侑花が再びため息をついた。
「リシア?」
ほいほい。
「あの時、あの場所で起きたこと、多分祐一は聞かされてない。そうなんでしょ?」
リシアはたじろいだ。
……ぅ。何て鋭い読みですか……。
「祐一の態度見りゃ一発よ。こりゃ聞かされてないなーと」
祐一が慌てて会話に割って入った。
「待て待て待て待て、あの時僕は何かした?」
「んー正確には
侑花は天井を見つめ、分かるようで分からないような回答で応じた。
禅問答堂かよ、と祐一は思ったに違いない。
「とにかく、女の子にあそこまでさせたら、いくら体張って怪我したとはいえ、約束を守らない理由にはならない。さぁ、どこに連れてってくれるのかなぁ? 焼肉? フレンチ? それとも……」
侑花は、祐一に向き直り、にたぁーっと笑みを浮かべた。
祐一にはその笑みが悪魔の笑みに見えた。
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