第11話 自己紹介

「改めて」

「どしたの」

「つゆきさん、やっと自己紹介してくれたじゃないですか」

「まあ、たしかに?」

「なので、私もと」

「……なるほど?」


こほん、と。


「熊西いるかです。漢字は海の豚ではなくて、夏に入るを逆順に書いて入夏です。是非とも入夏、と呼び捨てして下さい。歳はつゆきさんと同じで、11月30日生まれ、つまり若干の年下ですね。恋人が居たことはおろか、知っての通り、友達も居ません。好きなものはつゆきさんです。身長は158cmくらいで、髪は染めたことがありません。視力は……事故以前は眼鏡が手放せなかったんですけど、今は不思議と裸眼で平気です。体重とか、その、スリーサイズとか、その他は……聞きたいですか?」


実際の所、どうしようもないくらいに好きな人、もといキャラは居る。

けど、あの子の身体的特徴で好きかと言われたらそうではなくて、あの子みたいな人と暮らせたら、なタイプだし……。

強いて言えば私と同等か、若干年下くらいが良い、くらいかなぁ。


「んや、いい。私そのへんの好みって無いから」

「そうですか……」


何その聞いてほしかったみたいな反応。


「あとは……そうですね。口調についてお話しておきます。私の理想像、お淑やかで上品な……オールドローズが似合う女性をイメージして、なり切れずに残ったものが焼き付いています。つゆきさんにも、誰にでも、独り言でも、普段からこうですね。決して距離を置いているわけではないので……つゆきさんが嫌がるのであれば矯正してみせます」


丁寧だけど、敬語ではない。コンビニとか、そんなに厳格ではない所の接客モードが近いかな?


「ちなみに元は?」

「元は、ですか……えっと、突然言われても、数年くらいあのままだったから、ちょっと困りま……。ごめんなさい。結構無理したんですが、やろうと思っても全然再現できないです……」


意識的に再現をしている途中で、無意識に丁寧口調が出てきたようで。

そして恥ずかしそうに少し目線を逸らす。

ああ、じゃああれが元なんだなやっぱり。


「素はそっちのはずなので……長く一緒に居ればそのうち見ると思います」

「うん。知ってる」

「なので突然変わっても……えっ?私してました!?いつ!?」

「最初に話した時とかちょいちょい」

「……全ッ然覚えてないです……!」


最初の問答で入夏さん……入夏を泣かせた時。

それと、私の性別バラした時も独り言で混じってた気がする。


「まあ、それくらい切羽詰まらないと出てこないというのはわかった」

「理解していただけたようで、嬉しいです」

「ちなみに……いやなんでもないや。うん。聞かなかったことにして」


あのキャラもそういえば喋り方似てたな、と一瞬思って。


「わかりました。このままが好きなんですね」

「心読まないでいただいて……!」

「つゆきさんも、自分のペースを崩されると出てくるんですね」

「そうですかねー?」

「ふふ、わかりやすいです」


私も、今まで結構伏せてたこと多かったし、言っておくか。


「じゃあ私もか。悠木、みつゆき。光に行くと書いて光行。9月24日生まれ。O型。身長は160くらいで視力はまあまあ良い。入夏にとっての口調に近いとも遠からず、一人称が私な理由について。……高校くらいから背も伸びなくて、精神的に背伸びして、社会人っぽい丁寧な喋り方と一人称私を選んだんだけど、成りきれず抜けて一人称だけ残った。まあさ、その結果そっち系の人に間違われるもんで、意識してちょっと乱暴な喋り方にはしてる」


コンビニでバイトしたときはそりゃもう大変だった。格好男なのに声は女、喋り方も今みたいな粗雑でなくちゃんとしたものだったから。


「……正直言われないと気付かないです。声も背も顔つきも、その髪の長さも」

「声と背と顔つきは知らん。ちなみに身内に私似の、こんな奴居ない。髪の長さは長年の引きこもり生活で。髭は一応うっすら生えるけど、剃るの面倒だし隠すために包帯巻いてた」

「なるほど……」


そう呟きつつ、私の横髪を耳にかけ、顔を確認する入夏。

顔近い近い近い近い近い!!!それ普通逆じゃない!?

とか思いつつも平静な表情を維持できたはず。はず!


「あとはー……何かあるか?」


言い終えるか言い終えないか、微妙なラインで入夏が即答する。


「どんな子が好みですか」

「朝食ちゃんと作ってくれる子です。九州男児ですので」


わかりました。と素早い返答を頂きました。


「……まぁいいや」

「そのうち作りに行きますので」

「そうですか」


スルーしておこう。


「他だと……あ、そうだ。名前の件だ」

「みつゆきさんとお呼びしましょうか?」

「んや、つゆきでいい」

「どうしてですか?」

「私は憎き親から押し付けられた自分の名前が嫌いだからです」

「……そうですか」

「まあニックネームみたいなもんだと思って」


何か思いついたのか、顎を指で支え、少し考えたようで。


「ニックネーム……なんか良い響きだと思いませんか。特に漢字の1文字目あたりに」


ボケているのか本気なのか、どちらにせよスルーすべしと判断いたしました。


「知りません」

「というか入夏はいいの?」

「ぜひって言ったじゃないですか。つゆきさんには入夏と呼び捨ててほしいのです。恋人っぽいので!!」


ああ、そういうこと。やめようかな。


「そういう入夏はつゆき”さん”でいいの?」

「私は……いいんです。私が呼び捨てにするのはなんか違うのもあるんですけど、……」


以前はなんか違うと思うんです、という回答だったけど、継続するらしいです。

つゆき、さん。"さん"まで含めて愛称という感じだろうか。


「なるほど?まぁ任せるけど……」


私もたまには入夏さんとか言いそうだし、おあいこにしておこうか。

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