第20話 本心と読心
あぁ、まただ。
何もかもが面倒で、何もしたくない。
それなのに、瞼を閉じているというのに視界は赤く、布団に潜り込んでも再度意識を手放せる気がしない。
ううん、違う。
『考えなきゃいけないことを考えたくない』ってことに頭が回って寝られない。
それに、乾いた口と空いた胃袋も元気ないはずなのに私を急かしてくる。
まただ。あぁ。
起きるしかないんだな。
「おはよう」
「おはようございます」
寝たはずなのに身体が重い。
「朝ごはん、どうする?」
私が作るべきだから、当然。
「作ります」
「じゃあはい、着替えたらこれ炒めて」
身支度を済ませ、手を洗うと、まな板の上には切ったソーセージ。
当の彼は電子レンジで白米を温めてる様子。
……作るって言ったのに。
「わかりました」
包丁を握るのは私の役目なのに。
私がやらないといけないのに。
「これだけ……?」
「それだけ」
とりあえず、包丁は既に洗われているので、箸でフライパンに移す。
「うむ、戻そうか、火をつけるのが先だね」
……。
無言で言われた通りにする。
「焦げるね、これ。弱火で炒めようか」
火を小さくする。
「小さすぎかな、こうやって手で温度感じて」
細かいなぁ。
もう少し火を大きくして、見様見真似で手をかざす。
「あち!?」
「うむ、そんなもんかな」
え、いいの?弱火って言ったよね?
というか私の心配はしてくれないの?
「ほらほら、さっき載せた分の油焦げちゃうよ」
……。
私に対して無関心すぎない?
「そうそう」
箸先でソーセージを転がす。
「はいこれ」
生卵を二つ渡された。
「私は半熟派だから」
正直私はどっちでもいい。
「私だってこれくらい……」
卵を二つとも割り、ソーセージの上からフライパンに落とす。
……片方は黄身が割れちゃった。
「何も言わなくていい?」
「必要ありません」
完成。
「はい、第一回入夏さんの料理スキル検査の結果発表です」
「これ、検査だったんですか……?」
「抜き打ちテストです」
謀られました。
「まず今回のポイントですが、黄身の状態とソーセージに火が通っているかが焦点です」
そう言いつつ、皿によそった目玉焼きの白身に箸を入れる。
「まずソーセージですが、焦げてますね」
箸先で裏返したソーセージは真っ黒だった。
「黄身は……まぁ見ての通り」
黄身をつつき、割って中身を確認する。
「この通り半熟には程遠いですね」
目玉焼きなのに白身は軽石のような窪みがたくさんあって、黄身は膨れているのに中は固く、ソーセージは片面だけ焦げている。
「で、私がなぜ出来栄えの良いほうなんですか」
「私が家主だからです」
今まで彼が見ていたのは彼の手元にある方で。
私の手元にあるのは、卵を落とした時に黄身が割れなかった方。
「こっちは半熟かもしれないじゃないですか」
「そう思うなら割ってみて」
まるで中身を見なくともわかっていると言わんばかり。
「……」
「ほらね?」
私ってそんなに信用ないの?
「つ、次こそは」
「またの挑戦をお待ちしております」
挑戦って……。
台所くらい私に任せてほしいのに。
「いただきます」
「いただきます」
苦いなぁ。
この人はなんで私を置いてくれるんだろう。
昨晩言ったようにいっそのこと犯してくれたら話が早いのに。
私の役目が"それ"ってわかりやすいのに。
「入夏さん」
「なんでしょうか」
「入夏さんが私の心を読めるように、私にも入夏さんの事がなんとなーく読めるのです」
「それがどうしたんですか?」
「私はとことん入夏さんのことを大事にするつもりですので、入夏も入夏自身の事を大事にしてくれると私は嬉しいです」
つまり、私に楽をさせてくれないんだ。
「そう、私は入夏にとって都合のいい関係で終わるつもりは無いよ」
ちょっとくらい甘やかしてくれていいのに。
……こういう本心も見抜かれちゃってるのかな。
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