第4話 現状確認

そういうつまらない話をしていた所で扉が鳴り、入ってきたのは何らかの書類を持った馬手さん。

軽く体調の確認とかを済ませ、本題に。


「事故当時の詳しい状況がある程度わかったそうなのでお知らせにまいりました」


一週間も経っていれば色々わかるか。

書類と私らの身体を交互に見て、安堵したように小さく溜息をつく。

この人も手当に参加したのだろうか、なんだか申し訳ない。


「事故発生当時、事故車両を運転していたのは高齢者で、免許証を携帯しておらず、事情聴取での応答から酩酊状態に有り、明確にお二人を狙ったものとは考えにくいそうです」


うわぁなんだこれとしか言いようがないかな。

まぁこの地域は角打ちとかいう文化あるしな、身内でも常習犯居るし。無免許なのは知らんが。


看護師さんから聞いた事故の状況について、説明はされたけど長かったし複雑だったからドライブレコーダーと監視カメラの映像を見せられ、得られた情報から簡潔に纏めよう。

まず歩道に乗り上げ信号待ちをしていたいるかさんを轢く。

その後いるかさんを受け止めた私までも再度加速して跳ね、整備工場に突っ込んで止まる。

そして整備工場に置かれていた燃料が漏れ、気化したガスに切れた電線から引火して爆発炎上。

建物の上部が崩れ、この時の鉄筋が私達の手に刺さり、近くにあった接着剤の容器が温められて破裂し、手を固めた…らしい。


コーキングとは違うっぽい?

祖父の仕事の手伝いで数度使ったことあるけど、肌に付くと面倒くせえんだよなあこういうの……。


「つまりこれは糊的なものですか?」

「そのようです。ただ、いくつか問題がありまして」


この状況以上の問題ってあるのかしら。


「毒性があるようで、幸い腐食性などはないようですが…肌にかゆみなどはありませんか?」


毒って……肌、傷口に付いてるのって大丈夫なんだろうか?


「特には……というか、感覚すら無いです」

「そうですか……どうやら鉄棒は何かしらの要因でかなり高温だったらしく、周りに落ちていた金属片と地面が焦げていたそうです」

「熱かった記憶あります」

「だとすれば、最悪お2人の手が癒着しているかも知れません」


癒着?

仮にこのガワを剥がしたとして、この子と手繋いで生きなきゃいけなかったり?


「……剥がせないんですか?」


いるかさんも中の状況に気付いてるっぽい……?


「まず鉄棒を抜いて手に空いた穴を塞ぐ必要があるのです」


まあそうでしょう。どこに刺さってるか知らんが。

余談だけど、前に祖父が人差し指と親指の根元にドライバーぶっさしてたのが病院行かず完治したのは見たことある。ただでさえあいつ人間じゃねえと思ってたけど余計に確信した事があったな。

そんな感じで私達のも勝手に塞がる……わけないよなぁ。


「手を固めている接着剤のおかげで傷は広がらないのですが、鉄棒を抜く時に接着剤を剥がす必要があり、この時に鉄棒を動かしてしまうと傷を広げる可能性があります」


感覚がよくわからないから、もう既にダメになっている可能性もある。

私はともかく、いるかさんが右利きで、さらにダメになっている場合……考えたくないな。


「そして接着剤を安全に剥がし終えたとしても溶けた皮膚と鉄棒が癒着している可能性があるのです。これは見るまでわかりませんので……それが癒着していた場合でも抜き取ることは可能ですが、問題はその後のおふた方の皮膚の癒着……」


付いてるものを剥がすだけならまあ簡単でしょうよ。別の材質なんだし。


「剥がすとしてもどちらか片方の皮膚を傷付けず剥離するのは困難を極めます」


癒着。やっぱりそうだよね、火傷と同時ならその可能性もあると思った。


「なので手術は数回に分ける必要があるかも知れません」

「……そうですか」

「とりあえず接着剤と鉄棒を抜いてしまえば皮膚は癒着したままですが取り出せると?」

「そうなります。おふた方、それぞれ手の感覚はありますか?」

「わからない」

「わかりません……」


実際無い。力も入らない。


「……最悪、既に神経にダメージがある場合もあります」

「私はそれでも構わないかな」

「私も」

「そうですか……って!問題大アリなんだけどねぇ?」


妙に諦観している私達。それを見て素?が出る馬手さん。

私はともかく、いるかさんは右手でしょうに。

あ、左利きなのかな、いやでも要るでしょう。


「どのように手を重ねているか分かりませんか?」

「わかりません」

「私も……」

「……形状さえわかればと思ったんですが」

「ちなみに、接着剤と鉄棒は最短でいつくらいに?」


早く一人になりたいのです。


「体力が回復してからにでも、ですね。接着剤は少し削ってから、麻酔をかけ完全に剥ぎ取り、鉄棒を抜いて穴の処置をして終わりです」


ふーん。とりあえず私は良いけど……。


「大丈夫そう?」

「はい」

「じゃお願いします」


いるかさんもそのようで。


「では一応三日後の予定にしておきますので安静にしておくようにお願いします」

「はーい」

「はい」

「なにか質問はありますか?」


こういう意味ではないんだろうけど、私にとって大事なことです。


「暇つぶしが欲しいです」

「ここは病院でおふた方は患者で……それに片手しか動かせないでしょう?」

「すいませんでした」


やっぱりそうですよねぇぇぇぇ!


「他には?」

「無し」

「無いです」

「それではまた来ますね」


引き戸が閉まる。またこの空間。

……さて、問題点はまだいくつかあるけど。

この鉄針、刺さってて大丈夫なのか?

あと接着剤って……これ体内に入ってたらまずいんじゃなかろうか?

大丈夫なのかこれ……。

まあ、なるようになるか。

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