第31話 探索と無駄足
「……あー?」
そんなことよりどこだここ。
現状確認。
確か腹ぶっ刺されたよな?
「あれ、傷がない……?」
夢か何か?と思って頬を思いっきり引っ叩いた。痛ってぇ……。
「……あー?」
とりあえず状況は……バー?図書館?よくわからんなここ、埃っぽいし薄暗い。
餞別こと持ち物確認。鞄?の中身は……謎の本、変な丸いもの?で……食料と水分っぽいもの全然ないんですが。
手や体の感覚はいつも通り、いや、それより調子良いかも。
こういうのって異世界転生、いや転移?まぁ何にせよよくわからん状況であるのは間違いない。
まぁ何にせよ。
「一人なぁ……」
……。
考えてもダメだな。
歩こう、歩けば気持ちも落ち着いてくれるかな。
「とは言ったものの」
この状況を一度整理する必要を感じたので、溜息混じりに吐き捨てる。
何日経った?
薄暗い状態のまま歩き回り、三回は睡魔に襲われて寝た。つまり体感三日。
不思議と眠くはなるのに腹は減らないし喉も乾かず、トイレも行きたくならない。
行けども行けども周りは本棚。進むほう間違えたかなぁ。
まあ外に繋がってるのか、外には何があるのかはわかったもんじゃないし。
……一人なんて慣れっこだったのにね?
とりあえず闇雲に歩いても現状を打破する事が出来るか怪しくなってきたので、ざっくりでも今後のことを考えよう。
「もうしばらく歩いてみるか……」
割と大真面目になんで私こんな事になってるんだよ。
多分二週間くらいだぞ?
これあれか?地縛霊視点か?
どこをさまよっても同じような景色だし、生理的欲求が無いのも普通じゃない。
いい加減出口はどこですかね。
引き返したつもりだけど元の場所に戻れないんだが?
私方向音痴じゃないはずなのに。
こんな事になってるのってあんな死に方したからかなぁ。
死に方といえば。
私がかなり小さかった時、大人一人で狭さを感じる浴槽に祖父と私で入れた頃か。
あの頃は祖父と風呂に入るのなんぞ珍しくなかったんだけど、その日はたまたま祖父が泥酔してて、浴槽入る時に少し足を滑らしたんだ。
まあ酔ってるからふらつくもの当たり前ってんで、そのまま何事もなく座ったんだ。
先に浴槽に居た私を下敷きにしてね。
私からすると突然尻で踏まれたかと思えば退いてくれないんだもの、必死に祖父の身体を叩いたのを覚えてる。
結局は祖父が変に思って立ち上がって、私はなんともなかったんだけど、おおよそ初めて死というものを身近に感じて、恐ろしくて泣いたもんだわ。
でも、今は違う。
『もしあの時あのまま死ねてたらどれだけ楽だったんだろうな』って。
母親は私という枷を処分できたし、祖父はその思慮浅さと酒癖の悪さを改めるいい機会になったんじゃなかろうか。
自殺より他殺の方が簡単だって、あの頃は知りようもなかったから惜しいってもんだわ。
……まあ色々な所で死に損なってるから入夏と会えたんだけども。
そして、結局は他殺で悲願達成なわけだけどね。
……入夏という大切な人を遺して。
「さ、頑張りますかね」
嫌なこと思い出した。
けどそのおかげかやる気は十分、さあ折り返そう。
二週間、時間の無駄を取り返すために。
やっとスタート地点に戻ってきた。
体感三週間目、疲労とかはしないみたいだけど精神的に疲れた。
基本日陰の存在である私だけど、そろそろ日が見たいぞ。
なので仕方なく出口を探してるんだけども……。
部屋の外、図書館のような所は蝋燭があったりして(なぜか触っても熱くないし動かせない!)、案外明るい。
ここには明かりと呼べるものがなんにもない。
仕方ないから手で触って形を……主にドアノブに類するものを探して。
おおよそ四辺全て触り終えて、無意味だったと知る。
いやそれらしきものはあったが、開かない。
いわゆる監禁状態?なわけです。
ここで待ってりゃなんとかなったり……するんかねぇ。
他も調べた結果、カウンターがあり、本とペンらしきものがあったので、恐らくここは受付的な所と予想。
であればここを利用する人が居ればいつかは扉が開くでしょう、と考えたのです。
確か『ゆっくりしていってよ』なんて言ってたか?だったら時間が解決するとして、そういう意味かなと。
そう結論を出した所で、両開きのドアらしき場所に背中を預けた。
……はずだった。
「痛ってぇぇええ!?」
私の背を預かってくれる予定だった壁は、気替わりしたのか私に体重を掛けられるのを嫌がるかの如く後退ったのです。
「……あー?」
壁に付くはずだった後頭部の痛みに耐えながらでも視界の変化には気付くもので。
やっと外へ出られました。
なんなんだよ!?開かなかったじゃんか!!
「……眩しいけど、これはなぁ」
ずーっと暗所に居たせいか眩しく感じたけど、どうやら月明かりだったようです。
つまり夜。
私は太陽が見たいのだ、つまり今日もここで寝ることとする。
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